〈 第二章 ~中学校から~ 〉

< 第二章 ~中学校から~ >

僕は小学校を卒業し、中学校二年生となった。

携帯も買ってもらい今では美羽と携帯で連絡を取り合っている。

群馬県というところはとてものどかでなにもなく、とてもいいところらしい。

早く群馬県に行き、美羽に会いたいと思っていた。


そのチャンスが訪れた。

なんと母親がいま群馬県で仕事をしていて、彼氏と同棲をしているらしい。

どうにか行きたかった僕は父親に頼み込み、母親と連絡を取ることができた。

来月、八月の夏休みに僕は群馬県に行けることとなった───────。


そして八月、久々に母親に会った。

母親はなにも変わっておらず、相変わらず軽い人間だった。

僕は美羽に会うためだけに来たのであまり興味はなかったが。

携帯の着信音が鳴る、美羽だ。

「もしもし」

「あ、美羽です」

「群馬県ついたよ」

「ほんとに?早く会いたいな」

「そうだね、早く会いたい」

「いま群馬県のどこにいるの?」

「応桑?ってところかな?」

「北軽井沢近いよ、歩いて行ける!」

「そうなの?地図確認しとくべきだったな」

「まだ午前だし、午後から会えないかな?」

「僕も会いたいな、どこに行けばいい?」

「じゃあ応桑にあるコンビニまで来れる?」

「わかった、コンビニだね、用意する」

「うん、ありがとう、また後でね」

そう言って電話は切れた。

僕は大急ぎで準備をした───。


午後一時、僕は早速ナビでコンビニまで向かっていた。

すると急に着信音が鳴り始めた、美羽だ。

「もしもし」

「あ、美羽です」

「もうつくよ」

「私ももうつくから、待ってて」

「わかった」

電話を切り、五分が経った。

するとずっと聞きたかった声が聴こえた。

「ごめん、待った?」

美羽だった。

美羽はとても可愛くなっていて、心臓がバクバクでうまく喋ることができなかった。

「どうしたの?」

「あ、ああ、久しぶりだね美羽」

「久しぶり……だね」

「すごい可愛くなった」

そう言った僕と言われた美羽はお互いに顔が赤く染まっていた。


「何日間いれるの?」

「えっと、今日を含めて3日かな、今日明日泊まって明後日の朝には出発しないと」

「そっか、長くはいられないんだね」

「そうだね、でもたくさん楽しみたいと思ってる」

「そうだ、明日ふれあい広場でお祭りがあるの、よかったら行かない?」

「行きたい!」

「じゃあ決まりね」

美羽はそう言って微笑んだ。

しばらく僕と美羽は話し込んでいた。

午後五時になった時点で僕たちは解散した。

明日が楽しみだ。


そして、次の日午後三時に待ち合わせとなった。

驚いたことがあった、母親が浴衣を着せてくれたのだ。

僕は少し小さな声でお礼を言い、家を飛び出した。


午後三時、僕は公衆電話の前で待っていた。

携帯の着信音が鳴る、美羽から電話がかかってきた。

「もしもし」

「美羽です、いまどこにいる?」

「公衆電話の前だよ」

「公衆電話?……あ、いた!」

そういって美羽はこちらに駆け寄ってきた、そんなことより僕は美羽を見て身体中の体温が熱くなってきた。

浴衣姿がとても可愛いのだ。

「お待たせ」

「その浴衣すごい似合ってるよ、美羽」

「君もすごい似合ってる」

そう言い僕たちは笑い合った。


特になにもなく、僕たちはずっと歩いていた。

いきなりでかい音がなる、花火だ。

僕と美羽は立ち止まった。

すると美羽は呟いた。

「すごく綺麗だね、花火」

「そうだね、すごく綺麗だ」

そう言って僕は美羽を見た。

花火の色鮮やかな光を浴びている僕が見た美羽の横顔はとても美しかった。

僕はそっと、とても大事に彼女の手を握った。

壊れないように、手放さないように────。


楽しい時間はあっという間だった。

僕たちは少し話していた。

「明日の朝は会えるの?」

「会う時間は無さそうかも、ごめん美羽」

「そっか、今日で最後だね」

「また絶対来るから」

「約束ね」

美羽はそう言った。

突然、目の前が暗くなり、唇に柔らかい感触がある。

これはなんだ?と思った。

すぐにわかった、美羽がキスをしてきたのだ。

美羽は顔を赤くして走って帰っていってしまった。

僕はしばらくその場に立ち竦んでいた。


次の日、僕は母親と話していた。

「ごめんね、あの日置いていって」

「別にいいよ、母さんにも色々あるでしょ」

「ほんとにごめんね」

「うん、また来てもいいかな、ご飯おいしかった」

「もちろん」

「わかった、じゃあね」

僕は群馬県へまた来るという誓いを立て、神奈川県へ帰っていった。

まさか次行くのがこんな形だとは思いもしなかった───。


僕は中学校三年生となり、美羽は高校一年生となっていた。

携帯の着信音が鳴る、美羽だ。

「もしもし」

「美羽だよ、いま大丈夫?」

「大丈夫だよ、声聴きたかった」

「私もだよ、あのね、話があるの」

「え?どうしたの?」

「最近体の調子悪くて」

「え、そうなの?どこか悪いの?」

「うん、なんか体が痛いっていうか重いっていうか」

「大丈夫なの?病院は?」

「いまから行くところなの」

「そっか、結果教えてね」

「うん、行ってきます」

電話が切れた、僕はすごく心配になった。

その日のうちに連絡は来なかった。

僕はその日寝れなかった。


次の日の朝、知らない番号から電話がかかってきた。

おそるおそる電話に出ると、美羽の祖母だった。

「もしもし、小山美羽の祖母です」

「どうも、お世話になっております」

「孫のことで少しお話が」

「美羽は体調悪いって病院に行きましたが、大丈夫だったんですか?」

「貴方には伝えておかないとと思いまして、孫は末期の癌だそうです」

「え?どういうことですか!」

「昨日病院に行ったらお医者様にそう言われました、もし来れるならお見舞いに行ってあげてください、一番会いたがってると思います」

「わかりました、行きます」

「美羽は癌だということは知らずにいます、できるだけ楽しくさせてあげてください、急な入院で不安だと思いますから」

「わかりました」

僕は辛くなった、なんで美羽はこんなにも不幸なのだろうか、と。

すぐさま父親に事情を話し頼み込んだ。

説得の末、行くことを認めてもらい急いで準備をした。


朝、高速バスで向かう。

病院に着くまでの間、僕は気が気ではなかった。

そして、病院につき美羽の病室へ急いだ。


美羽はこちらを見て驚いた顔をしていた。

「来ちゃった」

「びっくりした、どうしたの?」

「入院したって聞いてさ、検査入院とかなんだって?」

「ちがう」

「え?」

「ちがうでしょ?ほんとうは」

「な、何を言ってるの?」

「おばあちゃんのこと見てたらわかるよ、私なにかの病気なんじゃないの?」

「ちがうでしょ、検査入院だって言ってたでしょ?」

「おばあちゃんは私に嘘ついてる、多分君も」

「どうして」

「私は多分なにかの病気、死んじゃうような、だって大したことない病気なら嘘をつく必要がないもの」

僕は何も言えなかった、何か言いたかった。

美羽は昔から変わっていない。

すぐに気づいてしまう。

僕がなにも言えないと美羽は泣き出した。

そして美羽は口を開いた。

「もう、別れよっか」

「ど、どうして!」

「もういいでしょ、帰ってよ!」

僕は病室を追い出された。

涙が込み上げてくる。

僕は走った。

逃げたのだ、よくよく考えればわかったはずなのに。

美羽の性格を考えなかった僕は言葉だけを受け取って泣いた。


神奈川県に帰ってから友達と遊び美羽のことを忘れようとしていた。

しかし諦めきれない僕がいた。

あそこまで突き放されると流石に立ち直れないでいた。

ある日、またしても身近で酷く驚くことがあった。

父親も末期の癌だったのだ。

僕はもうどうすればいいかわからなかった。

美羽も父親も、もう時期死んでしまうことを考えるといてもたってもいられなくなる。

そこで美羽のことを考えていた。

どうして忘れていたのか、美羽はどういう子かを。

美羽は優しくて人の気持ちを考えられる子だ。

美羽が死んでから僕がどうなるかってことを考えてくれたんだ。

急いで僕は美羽にSNSを送っていた。


美羽、ごめん。

僕はやっぱり美羽のことが好きだから。

美羽の気持ち考えてなかった。

ありがとう。

また行ってもいいかな。


返事は来なかったが既読がついている。

おそらく読んでくれたのだろう。

僕はまだしらない、返事を待たずにすぐに駆けつけなかったことを後悔することになるとは───。


八月の半ば、父親が死んだ。

僕はどうすればいいかわからなかった。

葬式やお通夜、長男だったのでしっかりと参加はした。

父親がいなくなり、どうすればいいかわからなく、美羽からも返事もなく、魂の抜けかけた日々を送っていた。

しかしある日、電話がかかってくる。


美羽の祖母から電話がきた。

「もしもし」

「すぐ来てください、美羽は今夜が……」

「え……?」

僕はなにをやっているんだろう、美羽が頑張ってるのにいままで顔も見せずにいた。

僕が行ってればなにか違ったのかもしれない、九月三日の朝こんな電話はかかってこなかったかもしれない。

僕は急いで群馬県へと向かった。


間に合わなかった、僕がついたころには美羽はもう死んでいた。

美羽、嘘だ、やめてくれ。

こう思った。

僕は美羽の祖母に詰め寄った。

「美羽は今夜がって言ってたじゃないですか!」

容態が急変したんです、電話繋がらなかったですし、私もどうしていいかわからないんですよ!」

僕は頼んだ、しばらく二人にしてくれないかと。


「美羽、久しぶり」

美羽は何も言わない。

「美羽、相変わらず綺麗だね」

美羽の表情に変化はない。

「美羽、なにか、答えてよ」

美羽は何も答えない。

「どうして、ごめん、ごめん、間に合わなくてごめん。

美羽、会いにこなくてごめん、美羽の気持ちに気づかなくてごめん、たくさんの感謝と謝罪を伝えきれなかった、全部ごめん」


僕は泣きながらそういった後、もう動かない美羽にキスをした───。


< 第二章 ~中学校から~ 完 >

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