第3話 機内にて

 ツチノコとスナネコが入ったのは機体中央部にできた割れ目からだった(もっとも、ツチノコたちは飛行機というものの原型を知らなかった。そして、この機体は激しく損傷していた)。中には備え付けの椅子が幾つかあるだけで、ほとんど空っぽの状態であった(おそらく旅客機ではなく輸送機であろう)。


「おー、イスがありますね」

 スナネコは椅子の一つに近づくと座ってみた。

「まんぞく…」

 ツチノコは、のんびりとした様子のスナネコを横目に機内を見渡した。

「これもなのか…。ん?奥に部屋があるぞ」

 ツチノコの視線の先(機体の前方にあたる方向)には機内を仕切る壁と入口があった。ツチノコは慎重な足取りで近づいて行った。


 入口の先は椅子が横に二つ並べてある外が見える部屋(いわゆるコックピット)であった。

「んっ?これはなんだ」

 部屋全体を見渡したツチノコは、椅子のそばに四角い紙切れが一枚落ちているのに気が付いた。硬質な紙で汚れてはいたが、しっかりしていた。

「こ、これは」

 拾い上げて裏表を観察したツチノコは何かに気付いた。だが、その時、

「ツチノコっ!」

と、スナネコの大声が聞こえた。そのため考えは中断された。紙切れをポケットにしまうと、

「なんだ!スナネコ」

すぐにスナネコのもとに向かった。


「外に何かいるみたいです」

 スナネコは椅子の傍にある窓から外に目を向けて言った。

「セルリアンか!小さいが数が多いな」

 ツチノコも機内から様子をうかがうと呟いた。


「逃げるにしても、数が多すぎる。ここには何か使えそうなもがねーのか…」

 ツチノコは不機嫌そうな顔をしてぶつぶつ言いながら機内を見渡した。

「ツチノコ、なにかありますよ」

 スナネコが指さした先には赤い色のものが壁に掛けてあった。それは抱えることができる大きさで、円筒形状の物体だった。上部には黒色のレバーと細くてしなやかな筒がついていた(これはいわゆる消火器と呼ばれるもので、もちろんツチノコたちがそれを知る由はなかった)。


 ツチノコとスナネコはそれをまじまじと観察した。

「なんだか、タイリクオオカミさんのマンガみたいなのがあります」

 スナネコが気付いたのは、使用方法をイラストで示してあるものだった。

「うーん?なんだなんだ」

 ツチノコは手にとって慎重に観察した。 

「何かこの細い筒の先から出るのか?」


「とにかく、使ってみるしかないか」

 ツチノコはしっかり構えるとセルリアンのもとに飛び出してレバーを握った。

その瞬間、辺りはまるで煙に包まれたかのようになった(どうやら粉末式の消火器であったと思われる)。

「なんだこりゃーっ!」

 辺りにいたセルリアンも驚いている様子だったが、ツチノコも同じであった。


 周囲にいたセルリアンたちは粉まみれになり、前が見えずに右往左往していた。ツチノコはその機を逃がさず、

「よし、今だ!突き抜けて山を下りるぞ!」

とスナネコに叫ぶと二人とも駆け出した。

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