第2話


 アイスリンはドアノブに手をかけました。

 回してみると、ガチャッ。鍵はかかっていませんでした。

 ドッドッドッドッと、心臓がうるさくなりました。

 アイスリンは一度手を離し深呼吸をしました。

 ガシャン! その時、扉外で大きな音がしました。

 アイスリンは少し背伸びをして小さな窓を覗きました。するとそこには若菜がいました。

 若菜は紺色のサマーカーディガンのポケットから緋色の封筒を右手で取って封蝋を砕き、中から手紙を取り出しました。

「大規模な集団誘拐及び監禁の疑い。人々を洗脳し堕落させるとの報告あり。調査の結果、秩序を乱す危険因子と判断する。よって速やかに出頭せよ! さもなくば──。

 そして、廊下の奥を切り裂くように見据えました。

 ──刑を執行します」

 若菜が言い終わるやいなや銃撃戦が始まりました。小窓は視界が狭く、土埃や発火炎などで外が良く見えません。

 アイスリンはどうすることもできず、扉に背を預け、膝を抱えました。そして正面の振り子時計を睨みつけました。

 カッチン、コッチン、カッチン、コッチン……。でも歪んだ時計の針は微動だにしません。

 どうしよう。アイスリンの顔は青くなりました。あんな厳しい目の若菜を見たことが無かったのです。


 暫くすると銃声が止みました。

 ガチャン。真後ろで鍵を解錠する音が響きました。

 アイスリンは震える足を叩いて立ち上がり、振り返りました。そしてドアは開きました。

「アーちゃん!」

 アイスリンの顔を見た途端、若菜はポニーテールを揺らして駆け寄り、アイスリンを右腕でギュッと抱き締めました。その表情はいつもの若菜でした。

「どっ、どうしたの?」

 困ったアイスリンは若菜の頬を親指でそっと撫でました。親指がしっとりと濡れました。

「 ……良かった……本当に、良かった」

 若菜は涙声で呟きました。

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