第14話
「おうよ! まいどあり!」
金を先に払ったものが手に入れる。要するに早い者勝ちだ。一見、客に無礼なように見えるが、そうでもしないとやっていけないのだろう。
ちゃらりと白金貨6枚を払って黒鋼の大剣を掲げる武雄。
「こいつはすげぇな」
何だろう……。嫌な予感がする。長年いじめられたことによる危険察知能力がやばいと訴えている。
「試し振りしてみっか」
ゆっくりと黒い大剣を振りかぶる勇者。
もちろん、向きは言うまでもない。
俺に向かってだ。
おいおいおい。それは不味い。
迫り来る黒剣。勇者の筋力は……確か800超え。
正直、避けれる気がしない……。
死ぬか? 『転生』を使うべきか?
しかし、額に直撃する数センチ前で黒剣はピタリと止まった。
「ぷっ……あはははは!」
勇者は笑い始めた。
最初から当てる気など無かったのだろう。
悔しさで唇を噛む。
わかっては……いた。流石の勇者言えど、同郷の人間を殺せばどうなるかわからない。最悪、国から追放されるかも知れない。
それでも、勇者の持った大剣は玩具ではなく、刃の付いた武器だ。おまけに人を殺す感覚も薄れている。
「康太。お前は本当に馬鹿だな! あれくらいでビビりやがってよ!」
「てめえ勇者だからって調子に乗りやがって!」
ぎりぎりと歯噛みし、睨みつけている良介と優を片手で制す。
ここでこいつの怒りを買うのは不味い。手を出せば、相手も手を出していい。それは王国のルールだ。
そして、俺ら3人で武雄と互角。しかし、3対1は卑怯者のすることだ。
「すまん。俺はまだ異世界ということが慣れてないんだ」
武雄の目をじっと見つめながら、言う。
「はっ、精々足掻いてろゴミが」
けっと吐き捨て鍛冶屋から出ていく。外には取り巻きがいたそうで、何やら話をしてにたにたと笑っている。
あいつ……本当に勇者か? どう見ても勇者には見えない。
「康太殿……これまた大変な目に会いましたねぇ」
鍛冶屋の隅から滑らかな……男の声が聞こえた。
その声は……ヴォルさんだ!
「ふふふ、武雄様は何とも勇者らしいですな」
楽しそうに笑う。
一体、いつから居たのか知らないが、あれが勇者らしい……?
「ただのいじめっ子だろ」
良介が扉を睨みながら吐き捨てる。
「とんでもない。勇者というのは自身の利益を最優先するものです。ところで、皆様……そろそろクエストを受けませんか?」
にこにこと人の良さそうな笑顔で手を揉むヴォルさん。
クエストとは、冒険者と呼ばれる何でも屋のような者達が受けるものだ。
難易度はFからAまであり、高い難易度のものほど報酬が多い。
そろそろ受けようかなと思っていたのでタイミング的にも丁度いい。
「丁度いいクエストがあるんですよ」
「丁度いいクエスト……ですか?」
「はい、こちらのクエストです」
ひらりと胸から1枚の紙を取り出し、端を持って広げた。
・スライム討伐
・難度:F
・場所:クチカ洞窟外、アユージュリ高原
・報酬:武具の魔法付与、金貨5枚
「武具の魔法付与だって!?」
優が驚きの声を上げた。
良介も嘘だろ……と呟くが、それが聞こえたのは、すぐ隣にいる俺くらいだろう。
「はい」
ヴォルさんはにこりと笑みを浮かべて頷く。
魔法付与にはいくつかの種類がある。その中には武器や防具に長期間の効果を及ぼす付与型の魔法もあり、それらの魔法を付与してもらうとなると半端じゃ無い程の金額がかかる。
最低レベルの『
更に上の付与魔法となると、神魔金貨数枚――――――数十億円もするらしい。
何故、最低レベルのものはともかく、上位の付与魔法はそこまでの値段が付くのか。
それは戦争に関係すると言われている。
上位の付与魔法には『
もちろん、防御だけではない。攻撃型付与の代表に『衝撃波付与VI』というものがある。それは斬撃に衝撃波を付与するものなのだが、戦闘において異様な強さを発揮する。
斬撃に衝撃波を付与する。それは無限の弾数を持つ長距離攻撃を低間隔で撃ち続けれるということだ。
効果時間は1ヶ月ほどらしいが、戦局を変えかねないほどの戦士を作り出す付与魔法として有名だ。
――――まあ、スライム討伐程度でそんな付与を施してもらえるとは思わないが、やる価値は充分ある。
「しかし、何故俺たちに勧めたんです? 武雄のパーティーに勧めた方がいいんじゃないんですか?」
俺は当然の疑問を口にする。
「結果としては確かに良いでしょう。ですがね……私は勇者というものが苦手なんですよ」
ははっと笑いを浮かべ、「あの職の人は乱暴ですから」と付け加えた。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「せっかくの機会だ! 康太、優、受けるよな?」
「当たり前だろ」
「少しでも強くなりたいしな」
正直な話、武雄より強くなってやりたいという気持ちもある。負けっぱなしを許せる性分ではない。
「有難いです。こちらとしても皆様には実力をつけて貰いたいですから。それでは、この紙はお渡ししておきます」
ヴォルさんは紙を俺に手渡すと「それでは」と言ってさっさと扉から出て行ってしまった。
「おう、話は終わったか? 坊主も災難だったな」
店主カウンターをばしばしと叩き、がはははと豪快に笑う。
「大臣様とお話してる間に坊主に合った武器を探しといたぜ! これでどうだ?」
足元から一振りの大剣を拾い上げ、差し出した。
両手で受け取り、刀身を眺める。見たところ、刻印は付いていない。
「こいつは無銘だが、中々の剣なんだ。刻印は一つも付いてねえが、魔銀っちゅう不死者アンデット殺しの力がある金属を使ってる」
魔銀は聖銀ミスリルより性能こそ劣るが、広く普及されている金属だったはず。とはいえ、聖銀ミスリル製の剣は超高額。貴族の財産だとか、英雄の愛用した武器だとか、店に並ぶことはほとんど無いような代物なので、魔銀製を勧めるのは当然だ。
「値段は?」
「白金貨1枚と金貨5枚でどうだ?」
日本円に換算すると金貨は1枚十万円。金貨10枚で白金貨1枚だ。ようするに、この剣は150万円。
「親父。何でそんなに高いんだ? 魔銀製刻印なしの剣が150万なんて俺らを舐めてるのか?」
良介が口を挟んだ。
魔銀製刻印なしの剣の相場は金貨8枚程度。刻印はないのでそこまで大きな差は出ないはずだが……。
「大臣様と親しいお客を舐めるわけがないだろ。聞いて驚くなよ? この大剣の製作者は四大女神様の一柱、ナンナ様だ!」
はぁ!? 大地の女神が鍛えた大剣だって!
……頭が追いつかない。何故、女神が刻印なしのただの剣を作ったんだ?
「お、おい親父、それって本当なのか?」
「人聞きの悪わりいこと言うなよ坊主。これを見てみな」
バンとカウンターにやたらキラキラした紙を置く。
その紙には丸い文字で『限定百本! 地の女神が鍛造した大剣!』と書いており、左下には土色の髪を二つに結んだ――――俗に言うツインテール――――少女がVサインをして胸を張っている。
「わざわざ女神様の絵を付けてまで詐欺するような命知らずは王都にいねえ。俺のスキルで製作者を見てみたが、確かに女神様だったからな」
本物……なんだ。女神様何やってんだか。
それにしても、製作者の情報がわかるスキルか……。俺の転生と言い、戦闘に直接関係のないスキルもあるみたいだな
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