第8話
ガランと大きな鐘の音が響き、目が覚める。
目に映る見慣れない天井。
埃っぽい匂いが鼻腔をくすぐる。腰のあたりが痛い。
そういえば、異世界に来たんだっけ……。
何とも、昨日はあれほど異世界だという実感があったのに、1日経ち、目が覚めるとその実感も薄れる。
瞼を擦り、明るく日が差す窓を覗く。
そして、俺は昨日よりも……異世界に来たという実感した。
窓から見えたのは……薄明るい空を飛ぶ小さな竜。その上に手綱を持った騎士だった。
「おらあ!!」
王国騎士隊長の序列九位であり、『鉄壁要塞』の異名を持つゴリアが2メートルの飛竜騎乗用の長槍を振るう。
長槍の素材は『黒鋼』と呼ばれる希少な金属を使っており、その金属の高い硬度により、槍がしなることはない。
対峙する騎士は、その長槍を白銀に輝く長剣で右から左へ受け流す。
ギリギリと金属音が鳴り響く。
序列九位の騎士隊長の槍さばきを受け流した騎士は、王国騎士隊長序列十二位『真偽無視』のキールだ。その白銀の剣は『真実の剣』と呼ばれる秘宝の一つだ。聖銀ミスリル百パーセントという秘宝の中でも上位に位置する材質に、虚偽と真実を見抜く力を持つ。
もちろん、そんな秘宝を持つキールは序列に見合わぬ高い実力を持つ。
槍を左へ受け流した後、キールは『真実の剣』を持ち直し、突きの構えを取る。
「下がれライア!」
「ガア!」
ゴリアが飛竜に向かって叫ぶと、飛竜は低い鳴き声を発しながら翼を動かし始めた。
「『第二位階魔法 《エアシュート》』!」
飛竜が翼をはためかせ後退するその僅かな時間にキールは魔法陣を2つ作り出し、低位の魔法を発動する。
強風を起こす魔法『エアシュート』。範囲が狭く、地上では大した効果を望めないこの魔法は空中で輝く。
魔法による強風がゴリアの飛竜を飛ばす。
上から下へと。
「うお!?」
後退している途中に上から風を受け、飛竜がよろける。
狭い範囲のデメリットは空中で停滞していた飛竜に対して意味を成さない。
「追撃するぞ」
「グガア!」
キールは態勢を立て直そうとするゴリアを追撃しようと飛竜に命令する。
「『第三位階魔法 《パワーダウン》』」
飛竜が態勢を立て直そうとしている途中、ゴリアは3つの魔法陣を作り出し、中位の魔法を行使した。
飛竜が翼をはためかしているためかなり揺れているのだが、魔法を発動させるあたり、騎士隊長序列九位の肩書きは伊達ではない。
黒い霏がゴリアから放たれ、キールの飛竜の翼にまとわりつく。
ガクリと態勢を崩すキールの飛竜。
『パワーダウン』はその名の通り、力を低下させる。命中率は言わずもがなだが、当たれば飛竜の力さえ大幅に低下するので、かなり強力な魔法だ。
だが、その上にいるキールは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ブレス」
キールが命令をすると、飛竜が口をかぱりと開ける。
「あ、やべ」
間抜けな声と共に……ゴリアは熱風に包まれた。
凄い…………。騎士と騎士が戦い合ったと思ったら竜が何やら赤っぽい吐息をして……、うん、現実世界じゃないな。
そうか……ここは本当に異世界なんだな……。だってあれ、どっからどう見ても竜じゃん。上にいる騎士かっこいいし。
こうして、俺の異世界での1日が始まったのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます