第7話

 ぼんやりと明かりが灯る王宮の廊下を2人の男が歩いていた。

 1人は濃紺色のローブを纏った黒髪の老人────宮廷魔導師のドランだ。

 もう1人は金色の刺繍がふんだんになされた豪勢な衣装を羽織った男────王国の公爵位の貴族ヴォル。

 ヴォルは先程の端的にまとめたドランの紹介を思い出し、喋り出す。


「ドラン殿は異世界人に興味がないのですか?」


 ヴォルとドランは大臣と宮廷魔導師という近しい立ち位置だが、あまり接点が無かった。ヴォルは何度か接触しようと試みたが、形式上の言葉を述べるだけで相手にされていなかったのだ。


「うむ、儂が興味を持つのは魔法の知識のみよう。小僧共と話して何になるというのじゃ」


 ドランは老人にしては珍しい真っ黒の髭を撫でる。王曰く、これをするときは機嫌が悪いときらしい。

 ううむ、どうも私は嫌われているようですねぇ。

 そんなヴォルの思いを察したのかドランは再び口を開いた。


「む、儂は小僧共への対応が気に入らん。王国内でのみ衣食住を保証するなど、縛りつけて飼い殺しにするようなものじゃて」


 なるほど。あちらの世界ではどうなのか知らないですが、この世界では衣食住が保証されるということは下手な金銀財宝よりも価値のあるものですからねぇ。簡単に離れさせず、縛りつけて置きたいのが陛下の意向なのでしょう。

しかし、


「はて? 人間といっても所詮は異世界の住人。飼い殺しにしても良いではありませんか」


 そのとき、空気が震えた。ドランという王国最強クラスの人間が1人の男に対し、殺意をぶつけたのだ。


「お主……死にたいのか?」


 これは不味い。この老人の超えてはならぬ一線を、どうやら私は超えてしまったようだ。


「これは失敬。異世界の住人とはいえ、同じ人間。仲良くやっていくべきですねぇ」


 ドランは笑顔を作りながら手を擦る大臣を冷めた目で見つめる。


「まあ、良いわ。ヴォル殿の素晴らしい教育の手腕に任せるとしよう」


 はぁ、全く……。気の小さい老人ですねぇ。

 それにしても……今代の宮廷魔導師というのがあれほどでしたとは。歴代の英雄と比べても遜色ないほどですねぇ。

 おっとこれ以上の詮索は危険……ですかね。


「ええ、ご期待に添えるようにしますとも。それでは」


 廊下が分かれたところで逃げるかのように離れていくヴォル。

 その背後をドランは冷たい……全てを見透かすような瞳で睥睨していた……。

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