第6話
「陛下がお見えになる! 皆の者、膝をつけ!」
気がつけば、俺らは全員椅子から降り、大理石の床に膝をつけていた。
体が思うように動かない。
床の大理石から目を離すことができない……。
「面を上げよ」
今度は落ち着いた……どこか心地よい響きのする老人の声が響いた。
全員が顔を上げ、扉の方を見る。
そこにいたのは、豪華な衣装を身にまとった白髪の老人と濃紺のローブと三角帽子を着けた黒髪の老人。
その2人の後ろに、まるで中世の貴族のような格好をした男が5人。最後に、純白の鎧で身を包んだ騎士が10名が護衛のような形で入ってきた。
豪華な衣装の老人はクラスメイトを見渡すと、ふむと一つ頷き、話し始めた。
「余の名はストル・ニコラウス・アルス。ストル王国6代目の王じゃ。神託を貰っておる故、お主らには一から説明しよう。質問はその後でもよいか?」
王様はにこりと笑いながら問う。
「はい!」
そう元気よく返事したのは俺の隣にいる優だ。
度胸あるな……。
そんな優を見て、王様は目を細め話を続けた。
「ふむ、元気な童子じゃな。それでは説明しようではないか。ここはお主らの住む世界ではない、もう一つの世界じゃ。お主らの世界にはいないそうだが、この世界には強力な魔獣がいる。高い知能を持つ他種族もいる。この世界はどこもかしこも争いだらけじゃ。そこで神はお主らに力を託し、ここに送ってきたのだ」
ん?何で神は俺たちに力を渡したんだ?
「あの……質問いいですか?」
質問を投げかけたのは、向かいにいた武雄だ。
「ふむ、発言を許そう」
「はい! 僕達は絶対に戦わなきゃならないのですか?」
王様はその言葉にゆっくりと頷き、答えた。
「そう思うのも当然じゃな。安心しろ、神は慈悲深い。戦わず、ここでゆっくりと暮らすことも許可しておる」
やはり……おかしい。戦わせることが目的なのに戦わなくてもいい? そんな馬鹿なことがあるのか?
「お主は……タケオと言うのだな。これでタケオの質問は終わりか?」
「は、はい!」
無理やり膝をつかされたのを思い出したのか、急に弱気になる武雄。ざまあみろと言いたいが、ここで質問を繰り返して、相手の機嫌を悪くすれば、殺されるかも知れないので正しい選択だと思う。
「それと、お主らにはしばらく、ここで常識を学んでもらう。ドラン、ヴォル」
王がそう呼びかけると、濃紺のローブの老人と貴族の格好をした男の1人が前に出た。
「儂はドラン。王国の宮廷魔導師の地位を頂いておる。魔法や戦闘を指導する予定じゃ」
濃紺のローブの老人は短くまとめ、さっさと後ろへ下がった。
「皆様、初めまして。私は王国五大公爵のディヤー・ヴォルと申します。あなた方にこの世界の経済と勢力の分布、一般常識を指導する予定です。私は異世界について色々と興味を持っております、是非教えて貰いたいと考えております。私のことはヴォル、とお呼び下さい」
帽子を取り、一礼するとヴォルは後ろへと下がっていった。
うん、ヴォルさんは好印象だ。反対にドランさんは無愛想な感じに見えた。
「2人はお主らの教師じゃ。ドランは余の国の宮廷魔導師。ヴォルは外交を担当している大臣じゃ」
この後は、付き人の自己紹介だった。
貴族の格好をした者達はやはり貴族で、純白の騎士達は〝白銀の竜騎士団〟と呼ばれる近衛兵だそうだ。
……良介の目が輝いていたのは言うまでもない。
それと、地位に関しては西洋のものと同じようだった。貴族であれば、騎士が最も低く、大公が最も高い。
最後に王国内であれば衣食住の保証がされるという話がされ、親交を深めるという理由で宴が開かれた。
先程見た赤い光沢のある飲み物含め、見たこともないような料理が並ぶ。
最初は戸惑いあまり食べようとしなかったが、誰かが一口食べ始めるとみんなも食べ始める。
どの料理も見た目の派手さに反して味が薄かったが、美味だった。
宴が終わると、明日の予定を伝えられ、先程の部屋まで案内された。
部屋に戻り、一人になると俺はそのままベッドにダイブする。
「はぁー」
張り詰めていた空気から解放され、大きなため息をつく。
ベッドは硬いが、横になると疲れが取れる。
明日は早いので眠るべきなのだが、気分が高揚して眠れない。
異世界に来たのだ。それもチートを貰って。
嬉しくないわけがない。チートというのがどの程度かわからないが、普通ではないのは確定だろう。
おまけに衣食住も保証されているのだ。
とは言っても、今日一日の流れにより次第に疲れが出てきて、俺は気付かぬ間に意識を落としていた……。
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