第5話
扉を出た先は廊下だった。
赤いカーペットの敷かれた広く、豪華な廊下だ。灯りは無いのに明るい。
「えっと……質問ですが、ここは何処なんですか?」
聞かなければならないのはこの事だ。学校中に集団テロに会い、人質とされているとかであれば、優と良介の無事を確認したい。
ただ、色々とおかしな点がある。
まず一つ、このメイドや部屋だ。
ルリアさんは華奢だ。強い人……武道の心得がある人ならば簡単に無力化できそうだ。
実際、俺でも勝てそうに見える。
そんな人を監視にする意味がわからない。
次に部屋だ。あの部屋はそこそこ広さがあるのに俺以外の人がいなかった。
たまたま余った部屋が振り分けられたのかも知れないが、あの大きさの部屋を、たった1人のために割り当てられるだろうか?
そんな風に深く考えていたのだが、ルリアさんから返ってきた返答えは予想外……いや、頭の中では僅かに予想していた答えが返ってきた。
「ここはあなた方の世界とは違う、もう一つの世界です。私もよくわかりせんが、別世界ということです」
え、え? 今なんて? 別世界?
ちょっと待て。一旦落ち着こう。深呼吸をしよう。
スーハースーハー
ふぅ、まずは状況を整理しよう。
授業を受けていた。
白い部屋にいた。
自称神様とお話した。
目が覚めたら異世界……。
あー頭が痛い。盛大なドッキリだと思えばいいか……? でも、俺1人に? うん、そんな事する訳がないな。
手がかりは白い部屋にいた神様か……。何で異世界に送ったのか聞いとけば良かったな。
「康太か!?」
突然、右の通路から馴染みのある声が聞こえた。
その声は……良介だ!
声のした右側の通路を見ると……やけにムキッとした良介の姿があった。
160センチメートル程だった身長は180センチメートル以上あり、運動を全然していなかったため細い腕をしていたのだが、今では運動部トップの優より太そうだ。
「……お前良介か?」
懐疑の念を抱きつつ聞いてみると、良介は困ったように頭を掻きながら言った。
「ああ、俺も信じられねぇよ。あの俺がこんなに筋肉質になるなんてよ。まあ、信じられねえと思うから、なんか質問を投げかけてみろよ」
なるほど、本当にこれが良介なら限界まで極めたアニオタの力を発揮できるはずだ。
「火炎ライダー第25話の決め言葉は?」
「ふっ『汚物は焼却だ』だろ?」
こいつは良介だ。一々決め言葉を覚えてるやつなんて良介ぐらいだしな。
「疑って悪かったな良介」
「いいんだよ康太。俺も最初は何が何だかわかんなかったしな。今も自分の体じゃないようで気持ち悪いしな」
そうだよな……。良介が一番辛いはずだ。目が覚めたら自分の体が変わってるなんて考えられない。
「そろそろ大広間に着きますので、私語は慎んで下さい」
良介のメイドが低い声で言った。
気がつけば、数メートル先に大きな部屋があった。
扉の周りには、鉄の甲冑で身を包んだ兵士が数名、まるで鉄の柱のように身動きひとつせずに立っていた。
ぶるりと身が震える。
もし、神様とメイドの話が本当だとしたら、広間の奥には王がいるはずだ。もし、無礼を働けば簡単に首を跳ねられるかも知れない。
そして、俺らは大広間へと入っていった。
そして、拍子抜けした。
入った瞬間に聞こえたザワザワとした雑音。
そして、部屋の外から見てもいなかったはずなのに、部屋に入った瞬間現れたクラスメイト達。その全員が縦長のテーブルの周りに座り、食べ飲みしている。
「陛下がお見えになられるまで、こちらでお寛ぎ下さい」
メイド2人は一礼すると部屋の外へと出ていった。
「寛げって言ってたし、どっかに座るか」
「だな」
康太は席を見回す。
良介がいたし、優もいると思ったんだけど……いないな。後で来るのかな。取り敢えず、適当なとこに座るか。
「おう! ちょっとでけえが……お前良介だろ? こっちのテーブル来るか?」
聞き覚えある、そして最も聞きたくなかった声が聞こえ、康太はびくりとした。
その機嫌よく放たれた声の主は……そう、武雄だ。
彼は取り巻きと一緒に向かいの椅子に座り、何やら光沢のある赤い液体を飲んでいる。
「ちっ康太もいんのかよ! てめぇはこっちに来んじゃねぇぞ」
しっしと手で払う動作をする武雄。それを冷めた目で見つめる良介。
「武雄、俺は……」
そこまで良介が言ったところで康太は手を出し、言葉を止めさせた。
「いいよ、良介。お前を巻き込むのが一番嫌だからさ」
良介は困ったような表情をした。
彼は情に厚い。しかし、友人の康太が強くそう言うのだから、どうすればいいのかわからなかった。行く行かない、どちらにしろ康太には迷惑がかかるのだから。
「おーい良介、来ねえのか?」
再び良介に声がかかる。
「行ってこいよ。別に問題ないから」
良介は意を決し口を開いた。
異世界でもぼっちか。まあ、チートが貰えてるらしいし、いっか……。
しかし、良介の言葉は俺が思っていた言葉とは全く違った。
「お前は誰だ? 俺は良介じゃないぜ?」
「はぁ?馬鹿なこと言ってねえで来いよ。康太の横にいたら、馬鹿になんぞ」
しかし、良介は鼻で笑った。
「はっ。だから、良介って誰だよ? それとも、良介っていうのは俺と同じくらいムキムキなのか?」
「なっ!? そういえば、良介はこんなにムキムキじゃなかったような……」
急に悩みだす武雄。
そして、勝ち誇ったような顔をしている良介。
「良介……? お前何言ってんだ?」
「俺は良介じゃねえからよ、巻き込まれても大丈夫だぜ?」
「だから、俺は友人が」
今度は良介が手を出し、俺の言葉を中断させた。
「俺は康太の友人じゃない。だから、大丈夫だろ?」
……そうか。そこまでして……か。
「そう、だな。お前は友人じゃない。だけど、お前は最高だ!」
……俺は本当にいい友人を持ったものだ。
「おう!」
「いや、暑苦しいよ」
急に後ろから声が聞こえ、俺たちは驚いて振り向く。
そこにいたのは、もう一人の友人────優だ。
「優!」
「そっ優だよ。てか、良介、なんかムキムキじゃね?」
「ああ、気がついたらこうなってた。お前は何も変わってなさそうだな」
優は自慢気な顔をした。
「いや、結構変わったよ」
「え? 見た目は問題なさそうだけど?」
「見た目は……ね」
康太は好奇心に駆られて質問を続ける。
「じゃあ、一体どうしたんだ?」
少し食い気味に聞いてみると、優は意味のわからない言葉を呟き始めた。
「リヲ カナイハ テモトヒ テツヨ『光を放て』」
そして、電球のように小さな光が優の指に灯った。
「どうだ? 俺は魔法を使えるようになったんだぜ?」
胸を張る優。
うおっ!? 魔法だと!?
「マジかよ。ここ本当に異世界なんだな……。さっきの言葉、どこで習ったんだ?」
確かに良介の言う通り、ここが異世界というのは確定したような気がする。
それと、あの意味のわからない言葉は何なんだろうか?
しかし、優は困惑した顔をした。
「あれ、俺もよくわかんないんだ。目が覚めたら頭ん中に入ってたんだよ」
申し訳なさそうに項垂れる優。
「そうか……。これが優のチートなのかもな」
「確かに」
「こ、これがチートとか光るだけなんだけど」
光るだけのチートか……。先が大変そうだ。
そんなことを考えていると、急に低い老人の声が大広間に響き渡った。
「陛下がお見えになる! 皆の者、膝をつけ!」
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