過去へ

 皆に僕らの場所と自分達の場所を確認させるため、魔力の塊を広範囲に飛ばし反射させることである程度の地形を把握する。それをイメージ化して魔力線を使いイメージ化した地形情報を送る。


「なんだこれは、頭の中に直接神藤の声がする。それに、隊長やミカエルの声も……!?」

「……気持ち悪い」

「あははははは!おもしろーい」

(詳しいことは後で説明しますが、ざっくり話すと今、皆さんの意識を共有させています、合流場所をイメージ化して直接頭の中に送りました。緑がホアンさん達の位置、赤が僕たちのいる位置です。地図で確認してください)


 ホアンが地図を広げ、イメージ化された自分たちの位置と僕らの位置を確認する。


「意外と近いな。なんとかなりそうだ。マリリン、この邪魔な土煙吹き飛ばせないか?」

「……さっきからやってはいるんだけど……ダメ。これ魔力が籠ってて簡単には吹き飛ばない……」

「なるほど、じゃあこの土煙自体が敵の罠の正体ってわけか」


 第8部隊が合流する事自体は難しくなかった。それは一概に共有リンクのおかげもあるが、普段から訓練を重ねているだけあって連携がすでに取れていたというのも大きな要因だった。


「無事だったか、負傷は?」

「……今リンク中……聞かなくてもなんとなくわかるでしょ……?」

「あ……ああ、まあ確かにそうだが、なんていうか癖でな」

「マリリン、隊長は俺たちの心配をしてくれているんだ、そんな風に言わなくても……」

「まったくマリリンは素直じゃないなーなははは」


 問題はここらだった。この土煙が敵の罠であったならば、僕らをゲファルトから引き離す必要があったということ。しかし、姉を含めれば僕らたった7人を引き離す必要があったのだろうか。万が一、敵の狙いが施設への直接攻撃だとして、施設内には僕らの何倍もの数の魔導執行官、看守、警備兵がいる。


(皆さん、少し聞いて下さい。この状況、何か不自然ではないでしょうか)

「ああ、俺もそれは感じている。とにかく一度ゲファルトに戻って確かめる必要がありそうだな」

(はい。あの……すみませんが、誰か僕の身体を運んで頂けないでしょうか。この状態だと身動き取れなくて……)

「よし、俺が持う」

(ホアンさん、ありがとうございます)


 ホアンは僕を軽々と肩に担ぎ上げた。隊長の指示の下、周辺地形を把握しつつ、ゲファルトへ戻る。途中、敵からの攻撃を警戒しつつ動いたが、結局、土煙を出るまで奇襲などはなかった。

 そして、土煙を抜け、ゲファルトを視認できる距離まで来ると、施設のあちこちから煙が立ち上り、一目で緊急事態だということがわかった。


「これは……まずいな」

『……こちら……本部、第8部隊聞こえるか、聞こえたら応答せよ、繰り返す――』


 どうやら通信機器が回復したようだった。ライアンはすぐに本部との通信を試みる。


「こちら第8部隊。敵の妨害工作により、通信機器の一時不通。ただいま状況は脱しました。ゲファルトを目視確認」

『……第8部隊か?良かった。今本部は敵の奇襲を受け、ドーガー、エコーが占拠された。敵の数はたった5人。だが、恐ろしく強い。君たちの援護が必要だ』

「……了解。敵、殲滅を優先します」


 敵はすでにゲファルトの一部の施設を占拠し、立て籠もっているようだった。敵の狙いは恐らく囚人の開放、ここまで周到な準備を行い、数人ながらも組織的犯行に及んでいるところから察するに、どこかのギャングファミリーによる可能性が高いと推察できる。しかし、僕にとってそこは大した問題ではない。エコーには僕の母がいる。必ず助け出し、再び牢屋に入れなくてはいけない。それが結果的に母を守る事に繋がるからだ。


「そうだな神藤。お前の母親は必ず助ける。俺ら第8部隊でな」

(あ……そうでした。まだリンクしたままでしたね。僕の心の声が筒抜けでした……すみません)

「謝ることはないですのよタクミ。確かに収容されているのは囚人。でも賊に囚人を裁く権利も救い出す権利もなくってよ」

「……そう。あたし達は魔導執行官。実力の差を見せつけなければいけない……中の魔導執行官は失格。賊にやられるなんて……あたしたちでやっつける」


 皆の暖かい気持ちが伝わってくる。僕のいる意識の空間の色はオレンジを中心とした暖色系に変わり、僕も穏やかな気持ちになった。

(皆さん……ありがとうございます。では、通信も回復したので、共有リンクを解除します)


 魔法線を皆の頭から引き抜き、共有リンクを切る。その瞬間、暖色系だった空間は真っ白な空間へと変わる。姉の胸元から手を引き抜き、空間から出ることをイメージする。空間の中央にいる姉はその場を動かず、手を振り、微笑むだけだった。

(姉さん、ありがとう)

 目覚めると、僕はホアンに担ぎ上げられた状態だった。


「ホアンさん、ありがとうございます。ただいま戻りました。すみません、降ろしてもらっていいでしょうか」

「ん?目覚めたか神藤。了解」


 ホアンは僕を地面にゆっくりおろしてくれたが、リンク後は僕もかなり体力を消耗する。ふらつく僕を支えようと、不安そうな顔をした姉が近づき、僕を支えた。


「大丈夫?タッくん」

「姉さん、ありがとう……でも大丈夫」


 共有リンクは本来、僕の精神干渉魔法を姉にかけ、姉の魔力と力を借りる代わりに、姉の魔力制御を僕が肩代わりする魔法だ。しかし、姉の膨大な魔力を制御しきるのには僕の器では小さすぎる。許容範囲を大幅に超えたマナは僕の体力を少しずつ削り取っていく。新倭大国では『憑依』と呼ばれる"妖術"の一種。今の僕の場合、憑依している形になるが、もちろん逆もできる。神藤家は代々この共有魔法を一子相伝とし、現代まで受け継いで来た、500年続く陰陽師の家系なのだ。

 僕の固有技能『死霊術師ネクロマンサー』も新倭大国では『イタコ』と呼ばれ、交霊術の基本として受け継ぐのだが、祖父に修行を教わる内に僕はそれが色濃く反映され、無意識下に霊を呼び寄せ易い体質となった。

 その体質のせいかは今でもわからないが、ある日、僕は姉と再会した――。


 そう、あれは僕が15歳の夏だった――。





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