*7
幽霊のサエちゃんを見つけたとき、ボクへの恨みでこの世に留まってしまったのかと思った。そのくらい、ボクは助けられなかったという罪悪感に支配されていたから。
もし、数分でも早くここへ来ていたら、ボクがもう少し手際よく蘇生術を行えたら。そんな『たられば』を繰り返して、毎日を過ごしていた。
ボクは花束を片手に事故現場を訪れた。最近意図的にこの道を避けていたから、たった数日前のことがすごく懐かしく思えた。
じりじりと焼けるような日差しが街を白く染めている。手元の花だけがくっきりと鮮やかで、切り取られたように存在感を放っている。
人生で初めて花屋に入った挙動不審なボクに、店員さんはあれこれ聞きながら見繕ってくれた。
ガーベラにカスミソウ……だったかな。サエちゃんのスカートの裾に咲いていた花みたいにカラフルだ。新しいお供えの隣にそっと置かせてもらって、ボクは手を合わせた。
「あら、紗衣のお友達?」
振り返ると、黒服の女性が立っていた。微笑んだ口許がサエちゃんに似ている。
「あなたは」
彼女が思い出すと同時に、ボクも思い出す。この人に会うのは二回目だ。深く深く頭を下げた。言葉がうまく出てこなくて、顔を上げられない。
サエちゃんの運ばれた病院で、ボクは家族が来るまで居た。手術室の前の長椅子の前で呆然としていると、転がるように駆け込んできたのは、目の前にいるサエちゃんの母親だった。
「どうか頭を上げてちょうだい。本当に下げるべきなのはわたしなのに」
サエちゃんのお母さんはボクの手をそっと取ると、微笑んでくれた。
「あの日は、とてもお礼も言える状況じゃなかったから……あとで救命士さんに聞いたのよ。あなたが一生懸命に応急手当をしてくれていたって。ありがとうね」
その声のあたたかさにサエちゃんの面影が重なる。
「よかったら、お線香を上げに来ない? 紗衣も喜ぶわ」
「はい」
お言葉に甘えさせて貰って、お母さんの後をついて行く。ボクの家と反対の方だ。
でも、そう遠い距離ではない。もしかしたら、どこかですれ違っていることもあったのかもしれない。
通された和室には立派な仏壇があって、新しいお線香が煙を燻らせている。並ぶ遺影の中にひとつ新しいものがある。つい先日まで動く彼女を見ていたから、写真の中の笑顔のほうが現実味がなくて距離を感じる。
ボクもお線香を一本頂いて、火を点ける。先にあったものに並ぶように刺して、静かに両手を合わせた。
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