あい・おぼえていますか
宇佐つき
あい・おぼえていますか
「最近、コウテイさんの様子がおかしいと思いませんか?」
人気アイドルユニット
「そういえば、時々ボーっとしてますよね。心ここにあらず、という感じで」
「どうせまた気絶してるんじゃねーの」
すぐ隣のイワビーは楽天的だ。じゃぱりまんをくわえていたせいでフルルの発言はワンテンポ遅れる。
「コウテイ~お腹空いてるの~?」
「いや、それはお前だろ!」
「多分違いますよ」
イワビーのノリツッコミに対しジェーンの応対はあくまで真面目だ。
「どうしましょう、直接本人にきいてみましょうか?」
「それがですね……コウテイさん、『なんでもない、大丈夫』の一点張りなんですよ。すっごく気をつかってくれるんですよね……そこがリーダーらしくいつも頑張っててとっても良いところなんですよね、はぁ~~~~」
心配しているのは確かだが勢い余って興奮さえするのがマーゲイの
「貴方達、大きな声を出していったいどうしたの?」
騒ぎを聞きつけて、メンバーのまとめ役であるプリンセスが戻ってきた。先程まで図書館で調べ物をしていたのである。かつてこのジャパリパークにいたヒトが彼女達
マーゲイの問題提起をジェーンが要約、いや翻訳して伝える。するとプリンセスは私に任せなさいと自信満々に言った。
ちょうどプリンセスの付添いだったコウテイも遅れて帰ってくる。マーゲイと他のメンバーは物陰に隠れ、二人のやりとりを見守ることに。
「あれ、みんなはどうしたんだ」
「えっと、またフルルが食べ足りないってね、じゃぱりまん取りに行ったみたいよ」
「この前のところに? 大丈夫なのかプリンセス」
「いえ、あそこじゃないわ……それよりコウテイ、貴方、何か隠してることがあるんじゃない?」
聞き方がストレートすぎだろ、とイワビーは小声でダメ出しする。そんな外野には気付かず、コウテイはやや上ずった声を出した。
「ど、どうしてそんなこときくんだ? 何か変なことでもあったのか?」
「変なのは貴方でしょ、コウテイ!」
「変じゃない……とは思うんだが。何も、隠し事なんてないよ」
「いいえ変よ! 正直に言いなさいったら!」
つい声を荒げるプリンセス。こうなってはコウテイは落ち着いてくれとなだめかかるばかりだ。覗き見連中一斉に、あちゃーと溜息をついた。
もっともプリンセスの剣幕に恐れをなしたか、他のメンバーには内緒にという約束で自白し始める。
「確かにこう思うのは変かもしれないが……私達の歌、フレンズでない動物にも通じないかな。それが気になって仕方ないんだ、ここのところ」
その疑念が芽生えたのは、あの黒い巨大セルリアンとの戦いを経てだ。かばんはヒトだったから元の動物に戻ってもフレンズと会話出来た、彼女が特別、とはコウテイにもわかっている。がしかし――
歌ならば、気持ちが通じ合うのではないか。フレンズと非フレンズの垣根を越えて。すなわちかつての同胞、コウテイペンギン達とも。
それは未練を残す彼女にとって、儚い祈りのようなものだった。
「コウテイ、貴方そんなことを考えていたのね……」
「すまないプリンセス、こんなことで悩んでいてはリーダーとしては情けなくて、普段通り振る舞おうとはしたんだが」
「ったく、最初から正直に言えばいいじゃないの! 私達、五人でPPPでしょ!」
プリンセスは震える同志の手を力強く握った。
「そうですよコウテイさん! そして深まる絆……はー尊い、尊すぎます~~~~」
「ちょ、マーゲイ押すなって、うわ」
興奮のあまり物陰から飛び出すマーゲイ――と巻き添え三。コウテイは驚きいつものように白目を剥いてしまう。
大丈夫ですかとジェーンが駆け寄り、続いてイワビーがしっかりしろとコウテイの肩を揺さぶる。するとようやく意識を取り戻した。
「なんだ、みんな聞いていたのか……」
「コウテイさん、自分だけで抱え込むのは卵だけにしてください」
「そうだぜ、お前がリーダーなんだから、したいことがあるならしたいって言えよな。付き合うぜーなぁ!」
「よしよし~」
フルルにも頭を
「あのー、次のライブなんですけど……どこでやりましょうか?」
流れに乗ってマネージャーが問いかける。さらにプリンセスがもうひと押し。
「リーダーの貴方が決めなさい! 歌を届けたい相手がいるんでしょ? 私達も協力するわ」
「ありがとうプリンセス、みんな……そうだな」
次の予定が決まった。みずべちほーとゆきやまちほーの境にある氷の大地。さながらコウテイペンギン本来の生息地、南極大陸のよう。そして「PPPのコウテイ」の生まれ故郷であった。
それから程なくして、ペンギンアイドル達はペンギンのコロニーにやってきた。
「おーおーいっぱいだな。あのでっかいのがコウテイの仲間で……あれ? もーっとでっかいのがいるぞ?」
「一番大きい
「それと集まってくれたフレンズのみんなもありがとう!」
「寒くないのー?」
告知もなしというのに観客は十分。現地に生息するペンギンのみならず、どこからともなく聞きつけた常連フレンズ達もいる。アゴヒゲアザラシはともかく、クロヒョウやブラックジャガーなどは合わない気候に震えているのだが。それでもPPPのいるところならたとえ火の中水の中。同じアイドルの追っかけとしては、共感せざるを得ないマーゲイであった。
「それでは、聞いてほしい。『大空ドリーマー』!」
ゲリラライブの開幕である。
初舞台ではまだつたなかった踊りも、今では歌い出しから綺麗に揃う。成長を実感しながら彼女達は声を張り上げた。
「自己紹介行くわよ、プリンセス!」
「コウテイ」
「ジェーン!」
「イワビーッ!」
「ふるるー」
「「「「「五人揃ってぺぱぷー」」」」」
「って誰も聞いてねーぞ!?」
とイワビーのツッコミ通り、目の前の観客達は(よく訓練されたフレンズを除き)散ってしまっていた。野生のペンギンにとってはただの騒音か、あるいは威嚇と捉えられるのが現実だった。
「そんな……」
「これは……厳しいですね」
「お願い、私達の歌を聞いて!」
肩を落とすコウテイに必死で呼びかける他のメンバー。しかしやはり、フレンズの言語は野生動物には通じない――かつて心通わせた相手だったとしても。
それがフレンズになる、フレンズでなくなる、という変化。
だから諦めるしかないのか、とコウテイの動きが止まった矢先――
「あ、見てー。コウテイみたいなマゾがいるよ」
フルルが指差した先にはたった一羽、微動だにしないコウテイペンギンがいた。その瞳は真っ直ぐ目の前を見据えている。
そいつはプォーと鳴いた。親愛を示すか、あるいは叱咤するかのように。正確には何を言っているかはわからないが確かに伝わる、コウテイ達の歌が聞こえたのと同じく。
マネージャーは最大限の応援を叫ぶ。我らがリーダーの声を真似て。
「みんな、続けるよ!」
ハッとコウテイは目を覚まし、右を左を見る。プリンセスもジェーンもイワビーも、のんびり屋のフルルでさえ、準備は万端だった。そして前を真っ直ぐ見つめ、今、願いを強く抱いて足跡を刻む。
PPPは再び歌い始めた。空の飛べないペンギンにも飛べるんだっていうことを。いつか思いは届くんだということを。
いつの間にか、動かぬ一羽に釣られてか、何羽かの観客が戻ってきた。その数は決して多くはない。だが確かに届いたのだ。歌いきると、熱っぽい歓声が返ってくる。アイドルにとってこれほど嬉しいことはない。
コウテイは涙していた。その理由を彼女は本能で理解する。
最初から最後まで聞いてくれた一羽のコウテイペンギン――それはかつて、コウテイが温めた卵から
子が変わり果てた姿の親をハッキリ認識しているかまでは窺い知れない。けれど立派になった己が姿を見せ、アイドルとして成長したコウテイの歌を聴き入った。それ以上の言葉は最早必要ないだろう。
「リーダー、しっかり」
ジェーンが号泣するコウテイの肩を引き寄せて支える。
「おいおい、まだまだライブは続くんだぜ! んじゃー次は新曲!」
「ちょちょっと、待ちなさいよ!」
イワビーは飛ばし気味に言い、狼狽えつつも微笑するプリンセス。
「コウテイ、ぶっつけ本番だけどあの曲、やるわよ。いい?」
「……そうだな。行こう」
一呼吸置いて、コウテイはリーダーらしく宣言する……前に、珍しくフルルが号令をかけた。
「『ぼくのフレンド』~」
「もう、この子ったら!」
一同苦笑しつつも上手く緊張が解け、自然に歌い始める。フレンズと動物が織り成すライブは、盛り上がり始めたばかりだ。
――つまりはこれからも、いつでもいつまでも。
時空さえ飛び越えて、通じ合える。
あい・おぼえていますか 宇佐つき @usajou
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