(23)


一方その頃、私達はようやく

次々と現れる『自称・勇者様』達を切り抜け、何とかギルガンディス城へと到着していた。


馬車を降りてすぐ。

地面へと降りたった私は、城門の影に何かが落ちているのを発見した。


「…これって…」


草むらの中に埋もれている矢印のような形をした紫色のしっぽを見た瞬間、私にはそれが自分が先程放ったデンタツであるという事がすぐに分かった。


「デンタツ!どうしたの!?」


「…ジジジ…デンタツ…ツカマッタ…」


驚いた声をあげる私に対して機械音混じりの声で、途切れ途切れそう返すデンタツの体はかなり傷ついており、記憶石メモリーストーンもすでに抜き取られていた。


どうやら彼は何者かに捕まった後、やっとの思いでギルガンディス城まで飛来し、そしてそのままここで力尽きてしまったらしい。


「…一体誰がこんな…。」


傷ついたデンタツを丁寧に抱えあげ、私がそう呟いた瞬間…


周囲に激しい爆音が響き渡った。


「何!?」


突然起こった地面を揺るがす程の衝撃に、思わず振り向いた私の目には、城の一部が激しく煙をあげているのが見えた。


急に慌ただしくなる城内。

大勢の兵士が一斉に爆発の起こった場所へと向かっていくのが、この距離からでも十分に伺えた。


「あれは…尋問室の方だな!!」


そう言って剣を構えて走り出すゾイアス達。


それに続こうとした私の手を

リズが後ろから強く引っ張った。


「ご主人様マスター、走っていくより

こっちの方がよっぽど早い!」


そう言ってリズは仮面を着けると同時に

自分の全身を魔燈衣で包ませると、

その袖元から出したワイヤーを高い城壁に引っかけた。


そんなリズの姿を見て、傷ついたデンタツをそっとラミカに手渡す私。


こうしてリズは、私を抱えたまま高く高く飛び上がったのである。




◇◇◇




急に騒がしくなる城内…

火薬の匂いと共に生じた煙が少しずつ薄れていく事により、徐々に視界が開けてきた。


いまだぱらぱらとした小石が崩れ落ちる音が続いている方向の城壁には内側から巨大な穴が開けられていた。


「…くっ…!!」


その大穴のすぐ側にいたギルガンディスは、右腹のあたりを押さえてその場にうずくまった。


彼も城壁と同様、その体にかなりの損傷を負っていたのだ。


「…全く…甘すぎるわね、

ギルガンディス。」


そう言って、大砲を担いだまま仮面を外す彼女。その瞬間、魔燈衣から解き放たれ、真実の姿をあらわにした彼女の正体は、双子の片割れなどではなく、ジャクリーン本人であった。


「まさか子猫ちゃんが直々に潜り込んでいたとはな。…しかも魔燈衣ならば山ほどの武器を簡単に持ち運べる…全く…してやられたモノだな…」


ギルガンディスは損傷部を押さえたまま、息も途絶え途絶えにそう答える。その姿を見てジャクリーンは微かに口元に笑みを浮かべた。


「銃の一つ一つの威力は微少でも、それらの鉄屑をこねてこねて大きな大砲にしてしまえば、かなりの火力が生み出されるものよ。しかも普段から魔燈衣を常用している双子に扮すれば怪しまれる事なく身を隠せるし、種となる大量の武器を城内にも持ち込み放題。これが【破壊の王】と呼ばれしあなたと、

【創造の王】と呼ばれる私の差ね。」


そう言って彼女は数歩前へと踏み出すと、冷酷な顔へとその表情を変え、そして今度は至近距離からギルガンディスに照準を合わせた。


「…今度は外さないわよ。死になさい。」


彼女がギルガンディスに向かって

そう静かに言い放ったその瞬間…



リズに抱えられた私が、城壁に開いた大穴からギルガンディスの前へと降り立った。


すかさず私を床へと降ろし、自身の刀でジャクリーンの手にしていた大砲を真っ二つに斬るリズ。その動きはまさに卓越した目にも止まらぬ速さであった。


「…ちっ!!」


ジャクリーンは、リズに斬断された大砲をその場に投げ捨てると、リオンと共に飛び立った。


「待て!」


すぐさまリズだけが二人の後を追って行った。


「大丈夫!?お父さん!!」


そう言ってギルガンディスに私が駆けよった頃に、ようやく城の兵士達も到着した。


「なんと!ギルガンディス様!

早く!早く!お部屋へお連れしろ!」


「ターク様だ!誰かザナ・ターク様に連絡をとってくれ!」


ギルガンディスの第一の側近であるグリースが各兵士に指令を出している。ギルガンディス負傷の令を受けて、城内はさらに慌ただしさを増していた。


「お父さん…!お父さん…!まさかこんな事になるなんて…!ごめんなさい…!デンタツの記憶石メモリーストーンが抜かれていたの…!ごめんなさい…!本当にごめんなさい…!」


涙を浮かべながらパニック気味にそう言葉を羅列する私に向かって、ギルガンディスは強く私の手を握りしめながら鋭い眼差しでこう言った。その瞳は紅く紅く燃えあがっている。


「…すぐに…二人を追え…タリア…。

二人の真の目的は…俺なんかでは…ない…。」


そう息も絶え絶えに語るギルガンディスの強い瞳に見つめられ、ハっと我へと返ったタリアは、すぐさまリズ達の後を追う事にした。


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