(19)


「ん~っ!気っ持ちいぃ~!」


真っ白で清潔なシーツに包まれたふわっふわで柔らかい布団へと思いっきり顔をうずめながら、私はここぞとばかりにベッドの上で力一杯体を伸ばした。


洗い立ての匂いと、少しひんやりとしたシーツの感触が心地良い。


こんなにゆっくりと体を伸ばせたのは

一体何時間ぶりだろうか。


久しぶりに与えられた休息の嬉しさに

思わず枕を抱え込み私は足をバタつかせた。


ここはルナルフの宿場町にある結構大きめの宿屋。部屋の豪華さもさることながら温泉までもついているという、値段の割にはなかなかの設備を誇った施設である。


受付にいた主人もなかなか人の良さそうな人で真夜中の突然の訪問であったにも関わらず、たまたま空いていた3人部屋を1つと普段は物置部屋にしているという部屋を1室、快く用意してくれた。


やたらチラチラとゾイアスの事ばかり見てたから、もしかしたらゾイアスがつけていた王国正規軍の紋章のおかげかもしれないけれど。


…というわけで3人部屋は私達女性陣で借りる事となったのだが…


「あのさァ~…ところであんたはいつまでそうやってるつもり?」


私の隣のベッドに腰かけてブラシで髪をとかしながら呆れた声でそう言うラミカ。


見るとラミカの視線の先には、刀と銃を構えて険しい表情でこの部屋の入り口に立ちはだかっているリズの姿があった。


「こらぁ!夜中にそんな物騒なモノなんか携えてないで良い子はもう寝なさい!」


「…いや…主人を守るのが私の役目…!!」


思わず怒鳴りつけてしまった私に戸惑いながらも、そう答えるリズ。


「はいは~い、大丈夫!護衛は物置部屋で酒盛りをしているトカゲとおじさん達がやってくれるから、良い子はもう寝ましょうね~」


そう言って意地悪そうな笑みを浮かべたままリズの手を引っ張り、無理矢理自分のベッドの中へと引きずり込むラミカ。


「待て…!私は契約した以上、自分の命に変えても主人を守…る…」


そう言い終える間もなく

「…ぐぅ…」

何やらリズから寝息のようなモノが聞こえた。


「あら、寝てるわ。」

「布団に入った瞬間寝るなんて、

まるで子供みたいね。」


戦闘中の彼女の姿からは決して考えられないような、その天使のように可愛らしい寝顔を確認すると、私達はそっと彼女の布団を整えて、自分達も床につく事にした。




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