(14)


私が到着した頃にはすでに、屋根の上では双子達によるラミカへの猛追撃がはじまっていた。ゾイアスと合流した私も再び屋根の上を駆け、続けてその後を追う。


振り返ると執事さん達も金貨がしこたま入った重たい麻袋を抱えたまま、ちゃんとその後をついてきていた。


『頑張って!執事さんっっ!!』


私は心の中で小さくそう彼らにガッツとエールを送った。


一方、只今の戦況はといえば双子が両手に構えた銃でそれぞれラミカを撃ち続け、自分の翼で優雅に夜空を飛行しているラミカはその全ての弾を巧みに避け続けているという状態だった。


「うまく避けれるもんね~」

屋根の上を駆けながら、その様子を呑気に眺めていた私の真横を


チュンッッ!!


双子の一人が放った弾がかすめていった。

その直後も数弾の弾が飛んできていたが、それらは全てゾイアスが剣で弾いてくれたようだ。


「あっぶないわねぇ~!!コラー!何でこっち撃ってくんのよ!!」


その場で手足をジタバタさせながら思わず双子に苦情を言う私。


「そりゃ、敵だと思ってるヤツらに追っかけられたりしたら誰でも撃ってくるでしょうよ。」


呆れた声で返事をしながら、いまだ夜空を旋回しているラミカ。


ふと目をやると、双子の一人が銃の引き金を何度も繰り返し動かしているのが見えた。どうやら手にしていた銃がようやく弾切れを迎えたようだ。


「弾を入れ換える今こそチャンス!!」

これを機に、一気に間合いを詰めようと体を低くして勢いよく走り出した私の目の前で、その女は手にしていた拳銃を屋根の上から放り捨てた。


そしてすぐさま胸元から新しい二丁の拳銃を取り出し、再び両手に構え直す彼女。

彼女のそんな行動に、走り出したばかりだった私の勢いも今ではすっかり止まってしまっていた。


「ちょっと!!リボルバーとか使ってるクセに弾を入れる事なく武器を使い捨て!?一体どうなってんのよ!?」


再び手足をジタバタさせながら苦情を言う私。


「その二人が着用している戦闘服はうちの商品の中でも特に人気な『暗殺者アサシンシリーズ』っていってね。標的に気づかれる事なく大量の武器を持ち運べて、なおかつ軽量なうえ外からの見た目じゃどれだけの量の武器を服の中に仕込んでるのか分からない仕様になってるのよ。しかも容量は無制限だから彼女達が服の中に隠した分だけ無限に出てくるってワケ。こりゃ~ヘタすりゃ戦争並みの弾が飛んでくるかもね~」


双子の弾を避けながら、何とも悠長な返事をしてくるラミカ。


「そんなのイカサマじゃない!!…もうこうなったらこっちだってイカサマ使ってやるわ!!行くわよ!イグアス!グリアス!!」


そういって私があらわにした右鎖骨下の紋章からイグアスとグリアスが飛び出した。

『王国正規軍一』と謳われる彼らのその俊足は、すぐさま双子達との距離を詰める。


すると双子はそれぞれ両手で使用していた拳銃のうちの一丁を同時に建物の下へと捨て、これまた魔燈衣から取り出した細剣を右手に構えた。


そしてそのまま左手の銃でラミカを狙撃し、右手の細剣でイグアスとグリアスの応戦をするという何とも器用な芸当を見せつける双子達。


同じ時期に王国正規軍に入り、同じように訓練を重ねてきたイグアスとグリアスのコンビネーションも見事なものだが、さすがは双子。彼らの動きこそまさしく一心同体。寸分の狂いもない二人の動きはすでに、イグアス・グリアスの動きをも上回っているように見えた。


「ちょっと!剣も銃も両方使いこなせるなんて卑怯すぎない!?」


「タリア忘れたの?その人達、アスターナ出身よ。生まれながらにして武術に長けた二人だもの。そりゃどんな武器・防具にだって精通してるんだから使いこなせて当然でしょ。まったく、やっかいな人達を敵にまわしたモンね~」


ケラケラと笑いながら大きく翼をはためかせ、さらに高度を上げていくラミカ。

何かあるごとにいちいち文句を言いつつ、その様子を眺めていた私の瞳の横を


ヒュン!!


今度は後方から黒く細長い物体が、素早く通り過ぎて行った。

その瞬間、わずかにグラつきはじめる足元。


私達がその異変に気づき、全員が一斉に隣の建物に飛び移った瞬間…

今まで足場だったはずの建物が綺麗な直線を描いて分断され崩れ落ちた。


執事さんの後ろからは、鞭を構えたジャクリーンがこちらに迫ってきている。


今のところ彼女の移動速度はそこまで早くはないようだが、自分達の足で走り続けている私達に比べて、ラミカ同様、優雅に宙を舞っているジャクリーンの方がスタミナの面から見ても圧倒的に有利であろう。


ジャクリーンが大きく振りかぶり、再び鞭を振るうと即座にゾイアスが剣でそれを弾いた。弾かれた鞭先は暴れ、隣の建物の外壁を大きく破損させながらジャクリーンの元へと戻った。


「こりゃあいくらなんでも分が悪すぎるでしょうよ…」


大きな地響きを立てながら、ジャクリーンの攻撃によって崩れ行く建物を目の当たりにした私は思わずそう呟いた。


双子達とは違う彼女のその絶望的な強さに、いつしか私の頬の上を一筋の汗が通り過ぎていた。

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