(12)
人魔大戦後、魔王がこの世界を統治するようになってからというもの、ほとんどの村や町は自然に魔物と人間が共存する社会へと移行していった。
しかしそんな中、このアスターナだけは特別に人間だけで生活をする事を許された数少ない村の一つとなっていた。
というのも、このアスターナという村自体がもともと魔族と友好な関係を築いており、人魔大戦後も魔王軍から依頼された任務を請け負うなど、いわば『魔王軍の御庭番衆』のような役割を果たしていたからである。
残念な事にそのアスターナも数十年前に起こった不幸な事件によって壊滅してしまう形となってしまったが、この双子だけは唯一の生き残りであり、現在もその村の習わしに従った生業で生計を立てているとの噂であった。
あたしが双子の美しさに思わず目を奪われてしまった瞬間に、目の前にいるジャクリーンが高く掲げた右手の上には黒く、そして大きく歪んだ空間が生じはじめていた。
「まずい!!」
ようやく動かすことのできた体で、私が逃げようと試みた瞬間…
ひゅんっ!!
突然放たれた黒く小さな鋭い矢がジャクリーンの右手を見事に弾いた。
右手をおさえながら、思わずその場でよろめくジャクリーン。
振り向くと私の後方には、先程散々自慢していた黒いハンカチをまるで弓矢のように構えているラミカの姿があった。
「どう?ウチの商品は。結構使えるでしょう?」
「ラミカ、それ…」
安堵の声を漏らす暇もなく、驚いた表情のまま問いかける私。
「世間知らずのあなたの為に特別に教えてあげるけど、これは『
そう言ってラミカは構えていたハンカチを再び矢のように撃ち放ち、壇上の豪華なシャンデリアを撃ち落とした。
激しい破壊音と共に、美しく輝く細やかな装飾品を弾き飛ばしながら落下したシャンデリアを目の当たりにしても、いまだ微動だにすらしない双子達。
「すごい…」
「どう?これでみんながこぞって私の商品を欲しがった理由が分かったでしょ?」
私が無意識に漏らした小さな称賛すらも聞き逃すことなく、ラミカは得意気にあたしの腕を自分の肘で軽く小突きながら微笑んだ。
一方、ジャクリーンの方はというとラミカに撃たれた側の手の関節を数回動かし、その動きを何度か確認した後、再び殺意に満ちた目でこちらを睨みつけている。
「ちなみにもっとすごいのは実はこ・こ・か・ら。皆様とくとご覧なさいっ!!レディース・ア~ンド・ジェントルメ~ン!!」
そう言ってラミカが両手を高く掲げると同時に、空中には無数の小さく黒い布が浮かび上がった。
それらすべてはラミカが先程売りさばいたハンカチ達であり、いずれも紳士のスーツのポケットやら口元を隠す為に手にしていた貴婦人達の元から、まるで自らが意思を持っているかのように浮かび上がり、そして徐々に形を成していった。
「どう?私の扱っている商品の凄さ、分かってくれた?」
ラミカが得意気な表情でポーズをとり、自慢気にそう言い終わる頃には無数のハンカチ達はラミカの背後で鋭く巨大な波の形へと姿を変えていた。
『勝てる!!』
現在の戦況はどう考えてもこちらが有利!
ラミカの想像を遥かに越える圧倒的な強さに正直少し戸惑いつつも、私がそう勝利を確信した瞬間…
壇上にいた双子達が腰元にぶら下げていた仮面を二人同時に自分達の顔へと着用しはじめた。
仮面をつけた瞬間、全身を黒い布に包まれる双子達。
気がついた頃には彼らはそのまま戦闘服姿へと完全に形を変えていた。
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