(9)


時刻は22時30分。


私達は先程作戦会議を開いた場所で、遅めの夕食をとっていた。


今日のメニューはローストビーフにハムやらチーズをのせたクラッカー、あとは名前も知らない高級魚のムニエルに巨大なエビ…。

どれもこれもみんなが寄ってたかってカジノの会場からくすねてきた代物である。


「あんたも飲む?」

ラミカが何処からともなく出してきたティーセットの紅茶に私はそっと口をつける。


目の前ではトカゲ兵のみならず、何故かラミカが連れてきた例の男二人も混じって、黙々と食事にむさぼりついていた。


「ところで…誰なの?この人達。」


あまりに違和感ありまくりな現在のこの状況を前に、たまらず小声でラミカに尋ねる私。


「あ~…この人達?この人達はねぇ~私の執事よ。」


私と目を合わせる事などなく、目の前の食事を無心にむしゃむしゃしながら答えるラミカ。


「執事?そんなのいたっけ?」

再度紅茶に口唇をつけつつ、話半分に聞き流そうとしていた私に向かってラミカは

「いないわよ。だからさっき雇ったの。」


ぶっっ!!


思わずお茶を吹き出してしまう私。


「ほら3000ゴールドなんて大金、女の私一人で運ぶなんて重すぎるじゃない?だからこの二人をあんたにもらった10ゴールドで雇ったのよ。」


「はぁ!?

ってことはあんた、この大金は一体どうやって稼いだのよ!?」


私は執事さん達が現在腰かけている麻袋を指差しながら、やや感情的にラミカに尋ねた。


「ほら、私みたいな商売人ってもともとが欲深いからギャンブルとかには向いてないのよ。つい少しでも多く稼いでやろうってすぐに意地になっちゃうし、常に損得ばかり考えちゃうから全く楽しめないし。とにかく欲ばかり優先しがちな人間に対しては、神様って意外と冷たいのよね~。だから普段から私は付き合いや接待以外での賭博はしないようにしているの。」


「じゃあ一体どうやってこんな大金準備したっていうのよ!」

私は同じトーンのまま、同じ質問を繰り返した。


「博才はなくてもね、私には商才ってモンがあるのよ。はい、これ。」


そう言ってラミカが差し出してきたのは、4つに折られた一枚の小さな布だった。

布の端には『ラミカ・グラスウェイ』と書かれたラミカ自身のサインと小さな王冠のマークが記されている。


「何コレ?…ハンカチ?」

突然ふいに手渡された布をキョトンとした表情で見つめ続ける私の反応に、ラミカはため息なんかをつきながら、そのまま言葉を続けた。


「ほんっと、あんたって世間知らずよね~…あたしの名前を聞いても全然ピンとこないし、その上このロゴを見てもなんとも思わないだなんて。いい?私は世界的にも超有名なデザイナーなの。ゴールドパスを持っている時点でタダモノじゃないって事くらい感じとってよね!!」


「…俺はてっきりあのカードも金もどこからか盗んで来たものだとばかり思っていたがな。」

「盗むわけないでしょ。このギョロギョロトカゲ。」


「で?このハンカチが一体なんなのよ?」

いつの間にか始まったラミカとギョロギョロトカゲのいざこざに軽くうんざりしながら、手にしたラミカのハンカチをパタパタさせながら問いかける私。


「ちょうど手元に仕入れたばかりの上質な布があってね。等間隔に切ってハンカチにしてこの会場で売ってみたのよ。

偶然にもちょうどこのカジノは上流階級の方々が御用達でしょ?みぃ~んな私のブランドを知ってるモンだから、ものの見事に飛~ぶように売れたわぁ~ん」


そう言ってやたらと私の方をチラチラ見ながら、なんとも意地悪気な言い回しで自慢してくるラミカ。


「飛~ぶように売れたって…一体一枚をいくらで売ったのよ?」

「早急に3000ゴールドが必要だっていうから、とりあえず500枚作って…でも即完売だったわね。」

「500枚ってことは…」

「…そ。一枚6ゴールドよ。」


ぶっっ!!


今度はゾイアスがお茶を吹き出した。


一枚6ゴールドの、しかもただの布切れハンカチ500枚が速攻で完売してしまうなんて…。あるべき所にお金が集まるというのが世の常だとは知っていたものの、まさかここまでの格差を見せつけられてしまうとは…


恐るべしだわっっ!上流階級っっ!!


「まぁ何はともあれ、ラミカのおかげで無事目標金額にも到達したワケだし、それでは今から作戦の第二段階に移行するわね。」


一瞬現場が騒然としたものの、すぐに冷静を取り戻し、次の作戦に移る事を提案することにした私。


こうして私とゾイアスとラミカは再びカジノの会場へと向かう事にしたのだった。

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