(8)
数分後…
そこにはもといた薄暗い天井裏の隅っこで膝を抱えてうつむいている私の姿があった。
現在の所持金は金貨0枚。
ものの見事な惨敗である。
先程にも述べたように、金貨10枚といえば庶民が数日間暮らす分には十分すぎる程の金額である。
それが一瞬にしてなくなってしまうだなんて…。
両手をわなわなと震わせながら思わず涙目となる私。
「もう消えてなくなりたい…。」
そう思った瞬間、暗闇の向こう側からゾイアスが戻ってきた。
「ゾイアス!どうだった!?」
自分のふがいなさを全面的に棚にあげ、すべての期待をゾイアスに託しながら妙に潤んだ瞳で見つめる私。
するとゾイアスは不意に自慢げな微笑みを浮かべると、何故か突然自分のズボンの両ポケットを裏返しながら答えた。
「どうもなにも…スッカラカンすぎて埃も出ねぇや。」
だ…だめだったかぁぁぁぁぁ…!!
いつもと変わらぬ雰囲気で少しも悪びれた様子もなく飄々と帰ってくるモンだから、てっきり少しでも稼げたのかと思ったのにぃ!
ゾイアスの素性を隠す為に私が懸命に巻いた顔面ぐるぐる包帯に、まさか自らが騙されてしまうだなんて…!!
「まずい!これじゃ稼ぐどころか計画自体が丸つぶれになっちゃう!!このままじゃ完全に軍資金までなくなってしまうわ!!」
あまりの状況の悪さに一気に焦りをみせ始めるあたし。一方ゾイアスの方はといえば、相変わらずあっけらかんとした表情で、軽く口笛なんぞを吹いている。
そもそも万年金欠のコイツにとっては現在の状況など、ただの日常茶飯事にすぎないのかもしれないが。
…ホント普段どうやって生活してんだ?
コイツは…
当初の予定では、手持ちの金額がなくなりかけた者は所定の場所で待機し、少しでも稼げた者が折をみては手持ちの金貨を分配。
また新たにその軍資金でそれぞれが稼ぐ…というのを繰り返し行うという手筈になっていたはずなのに…。
なぁにを全部突っ込んどるんじゃ!
この馬鹿トカゲっっ!!
…まぁかくいう私も「次こそは勝てる!」などという全くもって根拠のない自信で全財産をぶちまけてしまった張本人なのだけれども。
勝てそうで勝てない。そしてその内どっぷりドツボ。ここがまさしくカジノの本当に恐ろしいトコロである。
「残るはラミカの勝敗にかかってるんだけど…」
私がそう呟くと同時に
「たっだいまぁ~!!」
明るい声で意気揚々と戻ってきたラミカ。
笑顔で大腕を振りながら戻ってきた彼女は…
もちろん思いっきりの手ぶらだった。
…コイツもダメだったかぁぁぁぁぁ…!!
思わず膝から崩れ落ち、頭を抱えてこの世の終わりを覚悟した私を見て、ラミカはニヤリと小さな微笑みを浮かべると、パチンと一つ指を鳴らした。
すると、ラミカの合図を聞きつけ、黒い燕尾服を着た二人の男が大きな麻袋を抱えて入ってきた。
「ここでいいわ。」
男達はラミカの指示に従い、黙って抱えていた大きな麻袋を床におろす。
その瞬間、重たく澄んだ金属音が部屋中に響き渡り、麻袋の小口からは数枚の金貨がこぼれ落ちた。
「はい。これで3000ゴールド。
ご利用は計画的にね。」
男達がおろした麻袋の上に腰を掛け、得意げな表情でラミカはそう微笑んだのだった。
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