(6)
「事前に私が調査した内容によると、このカジノの中にはルーレットやトランプゲーム、ダイスなんかが主に行われてるみたいね。奥にはスロットマシンもあるみたいだけど、スロットは元手のお金が掛かる割に、当たりを引くまでに時間がかかるからあまりオススメはできないわ。とりあえずこのカジノのウリとなっている会場の広さとゲームの多彩さのおかげで、比較的並ぶ事なく、すぐに遊べるような仕組みにはなっているみたいよ。」
地図を指差しながら、続けて各ゲームの設置場所やルール、侵入経路などについての説明をあらかた行っていく私。
「とりあえずイグアスとグリアスはまだ人の言葉が話せないから、賭けなんかは当然無理よね。だから二人には事前に説明しておいた場所に待機してもらって、護衛の方にまわってもらう事にするわ。…というワケで、何がなんでも私とゾイアスとラミカの3人で3000ゴールドを稼がなきゃいけないのよ。」
「…で?その軍資金はいくらなの?」
やけに深刻そうな表情で説明する私につられてか、これまたやけに深刻そうな表情で尋ねてくるラミカ。
「…それが…」
先程手持ちの金額を見せた瞬間にゾイアスに馬鹿にされた事をふと思い出した私は、何となく申し訳なさそうに30ゴールドを差し出した。
すると再び懐中時計を開き、文字盤の確認を行うラミカ。文字盤の中央には満月のマークが記されている。
「満月か…それならイチかバチかイケるかもね。考えたわね、タリア。」
「どういう事だ…?」
不思議そうな表情で疑問を投げかけるゾイアスに対して、ラミカはさらに言葉を続けた。
「もともと満月の夜にはお金の流れが良くなる傾向にあってね。私達みたいな商売人は、意外と取引の日に使ったりするもんなのよ。
しかもこのカジノだけは何故か異常に満月の影響を受けやすい。満月の夜だけやたらオッズが高騰して、一夜にして億万長者になったって話もいくつか聞いた事があるわ。このカジノの常連さんの中では結構有名な噂になってるみたいだから、満月の夜は通常の日よりも一攫千金を夢見て多くの人が殺到するの。だからその相乗効果でまた配当金が上がる…みたいなね。うまく出来てるもんなのよ。世の中ってヤツは。」
手にしている懐中時計を指で無造作にいじりながら、得意げに説明するラミカ。
「ここが満月の夜にお金の流れが良くなるのは多分、ジャクリーンが操作してるんじゃないかと思う。彼女にはどうしても満月の夜に大金を準備しておかなければならない理由があるからね。」
「へぇ~、何それ。興味があるわね。
満月の夜にだけ大金が必要になるとか…
なにかアブナ~イ秘密の取引きでもあるのかしら?」
商売人としての血が騒ぐのか、身を乗り出して話を聞いているラミカ。
「今に分かるわ。とりあえず時間が少ない。私達もカジノに参加しましょ。」
ラミカの話を聞く限り、私が手に入れた満月の夜のカジノの情報が間違っていないという事は再確認できた。
うまくいけばきっとその噂の通り、一夜にして億万長者になることなんて造作もない事だろう。
舞台も素材も役者も揃った。
あとは私達の運次第ということか…。
ふと一抹の不安がよぎり、一瞬曇った表情となった私の様子に気づいたのか、ラミカが声をかけてきた。
「あ。そうだわ、タリア。もしもいち早くジャクリーンの目にとまりたかったら、彼女の近くでこのコートを脱ぎなさい。あなたが着ているドレスを見せつけた方が、この広い会場内でヘタに騒ぎ立てるより、よっぽど彼女の目につくわ。」
ラミカはあたしの不安を打ち消すかのように明るくそう話すと、私に大きなスーツケースを手渡してきた。
中には事前に準備を依頼していた、私とゾイアスの衣装が入っている。
私はそのスーツケースと引き換えに、手持ちの金貨30枚の中から、ラミカの取り分となる10枚を手渡した。
「じゃあね。二人は着替えとかもあるだろうから私は先に行ってるわ。…お互いの未来に勝利の女神が微笑みますように。」
そう言って彼女は私達に向かって、ウインク混じりの投げキッスをすると単独での行動へと移りはじめた。
もちろんその方が3人で同じゲームを行うよりも確実に効率が良い。
私達もそれぞれ物陰に身を隠し、ラミカに準備してもらった衣装に着替えた後、念願だったカジノ会場へと向かう事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます