(3)
「しょうがないでしょ。これだけのお金しか準備できなかったんだから。嫌なら自分でお金出して。」
そう言って片手を差し伸べたあたしの手を勢いよくパンっと払い、
「俺に金などあるわけがなかろう。とっくの昔に酒へと変わったわ。」
大威張りで答えるトカゲ兵。
…あぁ…お給料が出たばかりだというのに…
まぁたこの子の堕落したダメ生活っぷりを垣間見てしまったわ…。
「さて、ところで彼女の様子はどうかしら~?」
一瞬ガッカリとした表情になってしまったが、気を取り直して私が再び排気口中を覗き込むと、その目に映っていたのは、壇上で優雅に羽根扇子を仰いでいる女性の姿だった。
彼女の横には側近とおぼしき二人の男女が並んでおり、その三名だけがこの会場内で唯一仮面で顔を隠すことなく素顔を晒している。
「今のところ特に動きはなさそうだな。」
私は隣の排気口から同様に会場内の様子を覗き始めたトカゲ兵のそんな呟きには答えることもなく、そのまま彼女の動向を探り続けた。
当の彼女はといえば、時折扇子で口元を隠しては隣の者に話しかけたり、側近の者に飲み物や何やら小洒落た食べ物を運ばせたりと、ただただ純粋に自分が経営しているこのカジノの様子を高見から眺めて楽しんでいるだけのように見えた。
ドレスのせいだろうか。
彼女はこの会場内のどの者よりも優雅で美しく、そしてより一層輝いて見える。
「あれがジャクリーン…。」
私がそう彼女の名前を呟いた瞬間…
「動くな。」
野太く低い声と共に、私の背部には硬く細長い異物を強く押し当てられる感触が生じた。
私は思わず息を呑み、そしてなるべく体を動かさないように細心の注意を払いながらゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこに立っていたのは…
「な~んてね!驚いた?」
ご丁寧にもわざわざ自分の指をピストルの形に似せて構えているラミカの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます