(2)

ここはサルマリア地方にある巨大カジノ、「スカーレット・ラグーン」。

豪華な装飾を施された建物内には美しいドレスや高級そうなスーツを身に纏い、仮面で身分を隠した人々が、ひしめき合ってカジノを楽しんでいた。


その様子を天井裏の排気口から覗き込む私とトカゲ兵。

ここはもはや頼りとなる月灯りすらも届かぬ場所。きらびやかに広がる下の世界と同じ建物内にあるとは、到底思えぬ空間だ。


室内には換気扇か何かだろうか。規則的で重厚感のある機械音だけが鳴り響いている。


「まさかカジノに忍び込むとはな。」


軽く背伸びをし、自身の服についた埃を払いながら呟くトカゲ兵。


「ここの管理室になら、金などしこたまあるだろうからな。3000ゴールドなんてたやすいものだ。」


そう言って再び部屋の中を見渡す彼に向かって、不満そうな表情を浮かべながら私は答えた。


「ちょっと!あんたまさかお金を盗もうだなんて思ってんじゃないでしょうね~?」


「…って事はまさか…お前…!」


「そぅ、そのまさかよ。正々堂々と自分の力で稼ぐに決まってるじゃない!!」


そう言って無駄にガッツポーズをきめながら自信満々に答える私。


「ほほぅ…面白い。このカジノで稼ぐってワケか。…で?その軍資金はいくらなんだ?」


鈍く瞳を光らせ、ペロリと舌なめずりをするトカゲ兵に対して、私は再び不適な笑みを浮かべた。


「ふっふっふ…見て驚くな。軍資金はねぇ~…コレよ!!」


そう言って私が両腕を大きく広げた瞬間…


チャリーン!チャリチャリーン!!


身に付けていたマントがひるがえり、

床に数十枚の金貨が転がった。


「ふぉおぉぉおぉ…

これがカジノの軍資金だと…!?」


転がった金貨を両手で拾い上げ、ブルブルと震えているトカゲ兵。

…よしよし、そんなに嬉しいか。


「そう。30ゴールド。結構あるでしょ?」


「大馬鹿者かぁっ!お前はぁぁぁぁ!!こんなはした金、軍の初任給でもストライキが起こるレベルだぞ!!」


あっけらかんとしている私に対して、これまた肩をブルブルと震わせながら大声を出すトカゲ兵。


トカゲ兵は30ゴールドを「はした金」とのたまわってはいるが決してそうではない。

無論、私みたいなどっぷり質素で庶民染みた女にとっては十分すぎる程の大金である。


まぁ王国正規軍に所属している彼にとっては確かにはした金に見えてしまうのかもしれないし、もちろんこのカジノで一晩中遊び尽くせるような金額であるとも言い切れない。


だが、私達は何がなんでも今日中に3000ゴールドを準備しなくてはならないのである。

なんせそれが私達に与えられた大切な使命なのだから。

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