SATANIC CHILD~例えば私がトカゲと旅をするとして~

むむ山むむスけ

(1)

駆ける、駆ける。

屋根の上を、人目を阻んで駆け抜ける…。


今夜は満月。


月夜とは、とかく人々を何かに駆り立ててしまうものなのかもしれない。

日々の疲れを癒す為に眠る者もいれば、月を見上げる暇もなく働く者、

そして夜な夜な娯楽や快楽にいそしむ者も…。


今宵も月空の下、

隠密に物事を運ぼうとしている者達がいた。




◇◇◇



「3000ゴールド!?」


夜空の下、屋根の上を駆けながら、思わず大声となってしまったソイツを私は静かに手で制した。闇に紛れ込むように私達は互いに黒衣に身を包み、ただひたすらと月夜を駆け抜ける。


「何だってそんな大金が必要なんだ?」


心なしか小さな声となり、続けて問いかけてくるトカゲ兵に対して私は、決して振り向く事なく理由を答えた。


「それは…今が満月だからよ。」

「いや全ッ然答えになってねぇし。」


あまりにも漠然としすぎた私の返答にトカゲ兵は呆れた声ですぐさま答える。


「しかもそんな大金、一体いつまでに必要なんだ?」


「明日よ。…まぁ厳密に言えば、明日に日付が変わった瞬間ってトコね。」


「それってほとんど今日じゃね~か!!」


あっさりと無理難題を言ってのける私に対して再度大声になるトカゲ兵。


「あのなぁ!!お前のその財力とその見た目じゃそんな大金、例え体を売ったところで準備できな…!!」


トカゲ兵がそう言い終わる前に、私が投げつけた一枚の瓦が宙を舞い、そしてそのまま彼の額へと華麗に命中した。


「いい?3000ゴールドなんて大金が必要な理由は今夜が満月だからだし、いつ使うかって言ったら満月の今日だし、潮の満ち引きがどうにかなったり、オオカミ男が変身するのだって、今日が満月だからなのよっっ!!」


ようやく振り返り、必要以上に早口でそう罵倒する私に向かって、額をさすりながらその無言でうなずくトカゲ兵。


「というわけで。」


そんな彼を無視して私は今自身が立っている建物の排気口の扉をおもむろに開いた。

目の前にはまた新たな闇が広がっていく。


「さぁ、今からたんまり稼ぎに行くわよ。トカゲ兵さん。」


そう言ってにっこりと微笑む私の目の前で、トカゲ兵はこくりとひとつ唾を呑んだ。



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