第4話

 指に、ひやりと感じる、金属のテクスチャー。

 生暖かいもの……最後に、冷や汗と熱い痛みが来る。

 少女は腰が砕けてへたりこんでしまった。

 恐ろしくて視線を下に向けることができない。

 どこを見ていたのか……そうだ、青年のずっと後ろにある、駅舎を支える柱を知らずと見つめていた。

 燃え盛る業火で、腰部を激しく締め付けられているようだった。痛みなんてものじゃないと、少女は思った。

 めりめりと、不気味な音を立てて、そのうち胴体が真っ二つになってしまうのではないか。

「どォーしてよーッ!!!」

 それは悲鳴だった。少女はあまりの苦痛に気が転倒して、内に秘めた全ての怨嗟をその言葉に込めて吐き出していた。

 この痛みと、悶絶せんばかりの苦しさを取り除いてくれるなら、何でもするわ!

 と、明確な言葉ではなかったが、そんな思いが激しい痛みとともに、全身を駆け巡っていたのは確かだ。

 何も見えなくなった。

「そんなに簡単ではないと言った──よく見ろ」

 あまりにも遠すぎる、空耳のようなその声に、少女は唇を震わし、嗚咽さえ上げながら、恐々と腹部を抑える手元に目をやった。

 吹き出すように流れ出る、真っ赤な鮮血……そんなものを想像していた。

「どう……なってるのよ」

 投じられたメスはどこにも刺さっておらず、少女には何の支障もない。痛みと苦痛はどうやら幻のようだ。

「違う……見るのはこっちだ」

 え? と少女は自分の腹部から目を離し、青年の存在を今再び見つめた。

 いや、見つめたのは青年の姿より、むしろその腹部に刺さったメスではなかったか。

 青年の纏う胴から下の黒が、その赤い血にさらされて、濡れて、嫌な輝きを帯びている。青年の、やけに白い顔の輪郭が、切り取られたようにくっきりとしていた。

「そんな!? あなた……死ぬわよ!」

 少女は、ジーンズの膝の汚れをそのままに、勢いよく立ち上がって、青年に駆け寄ろうとした。途中、転びかけ、空を掴んで立ちなおし、それでも、必死になって、近づこうとした。

 なぜ、こんなにも必死になっているのだろう。

 届かないのだ。青年の立つ場所と今自分が足を繰っている場所との差など僅差なはず。でもその僅差が縮まらない。届かない。こんなに一生懸命走っているのに。

 もっと不届きなことがある。青年はそんな少女を虚ろな眼差しで見やり、高らかと笑い声を上げている。

「汗をかいているのかい? 何をしているんだ、君は? 俺は消えると言ったんじゃないのかい? じきに心臓が止まるさ。死後硬直が起こり、腐敗してゆく。長い時間の抱擁を受けて……そのうち消える」

「ち……違うったら、そんなんじゃないのッ。……私の言った、消えるって……違うの!」

「違わない。こういうこと……だ」

 青年は力が失せてゆく瞼を徐々に下ろしていった。

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