第2話 いざ、押し入れ

押し入れのふすまを開けると不思議な景色が広がっている。と、言ってもいつもなんだけどね。

なんというか、押し入れなのに外だし。中世ヨーロッパの街なみになってるし。明らかに人間以外のもの混ざってるし。

賑やかな風景で飽きないんだよなぁ…

ここに初めて来たのは一年前。最初は夢かと思ってたけど夢にしてはハッキリしすぎているし、何よりここでもらったものが部屋に置いてあったからこれは現実だと認めざるを得なかった。

「おー、ハルじゃん」

「ルネさんじゃん」

こちらに近づいてきたのはルネさん。美人である。ただし男。わたしは初めてルネさんが男であると知った時女であることに自信が持てなった。

赤毛のロングヘアにフリルのついたブラウスに黒のパンツ、少しだけかかとの高いブーツでこの顔面とあれば最初はボーイッシュな女の人だと思われても仕方のないことだと思うのだけれどどうだろう。

「今一人なの?珍しい」

常に二人以上で行動するルネさんなのに今日は誰も捕まらなかったのだろうか。

「あのなぁ、俺だって一人の時くらいあるよ」

「へえー」

わりとどうでもいいけども。だって前にルネさんと一緒にいた人(女性)に絡まれたんだもん。あんなベタな修羅場は見るだけで充分ですよ。女の人みたいなのになんで女の人にモテるんだ?顔がいいからかな。

石畳の道をルネさんとトコトコ歩いていつも行く食堂に来た。

中にいるのは獣人の大将である。

すごく強い。ネコだけど。

酔っ払いがケンカしてると襟首掴んで外に放り出す程度にムキムキ。ネコだけど。

見た目は可愛いんだよ。見た目は。

ネコだからね。

「大将来たよー」

「メシ食わせてー」

入って勝手にコップに飲み物を注いで勝手に飲む。特に怒られない。てか常連はみんなやってる。

「おぅ、ぐうたらコンビ」

「ちょっと待って、ルネさんとコンビ組まされるのはすごく嫌だ」

「はあ!?おっま、俺に失礼だろ!」

「何食う?」

「特に決めてないかな」

「おい!」

「だったら適当に作るぞ」

「いいよー」

「聞けよ!」

ルネさんうるさい。

大将が出してくれたのは魚の煮たのとスープとパン。何の魚かはわからないけど美味しかった。

安いお代を払って食堂を出たのだけども、なぜかルネさんはまだついてきていた。

「ルネさんいつまでついてくるの」

「ハルさ、いつまでそんな服でいんの?」

呆れた顔で言われた。呆れてるのはわたしもなのですが。

「服買うまでついてくるの?」

パーカーにジーンズ、靴はスニーカー。最強の装備ですが。最初なんて部屋着のジャージにクロックスだったんだから随分進化したじゃない。

それに見た目にお金使うくらいならガチャ回すわ。

「浮いてんだよ。金無いなら俺が買ってやるから」

気前がいいことで。

「いやでもね」

「いいから、行くぞ」

おう、手を繋いでおる…

そしてわたしはなぜか服屋にいる。

「本当、マジで、いいから」

逃げたいのに意外と力強いぞこの人は。

ここのオシャレな空間に耐えかねているわたしは一刻も早く出ていきたいのにルネさんのおかげでできない。腕をガッチリと掴まれ、ズルズル引きずられるようにして店の中に入れられた。

なんでこんなにオシャレなの?異世界の服屋って服屋っていうか装備屋みたいなところじゃないの?店主は厳ついおっさんじゃないの?

「いらっしゃいませ。ルネ、久しぶりね」

わあ、美人なおねえさん。角と羽ついてますね。

「久しぶり。なあ、こいつに似合う服ないか?」

「だからいいって言ってるでしょ!?」

「随分可愛い子連れてるのね。犯罪はダメよ」

すみません高校生です。犯罪にはならないです。

てか胸デカ!?

思わずおねえさんの胸元に視線が行き、自分のと見比べて少しだけ悲しくなった。無いわけではないよ?普通だよ?でもさぁ、やっぱり気になるじゃん。

「ちょっと待っててね」

と、おねえさんは言って離れていった。

抵抗する気も失せたわたしはお店の中をふらふら見て回った。可愛いっていうよりも綺麗な服が多いな…

そして圧倒的露出度。この世界の女性は胸元があいてたりスカートやパンツもミニ丈だったりするからきっとこれが普通なんだろうな。わたしは無理だ。

「お待たせ」

戻ってきたおねえさんはいくつかの服を抱えていた。そしてあれよあれよとわたしはフィッティングルームに連れていかれ着替えさせられたのである。

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