押し入れのファンタジー

白石王

第1話 週末は押し入れへ

今日は待ちに待った花の金曜日であります!

ムフフと変な笑い方をしているのは、わたし鳴海晴香。高校一年生。ゲームが好きな普通の女の子です。

それにしても今日は金曜日!

笑いが堪えきれない…

バスの中でムフムフしながらスマホゲームをしてたら急にイヤホンが外れた。

ん?引っかかったのかな?

隣を向くと見知った顔がいた。

あら、

「おはよう、千穂」

我が友よ。

「なんでそんなに笑ってんの?キモいよ」

仮にも友だちにそれはちょっと酷いんじゃないかい千穂さん。

坂口千穂は中学からの友だち。ショートヘアが良く似合うイケメン女子。バスケ部所属でスポーツは得意な上に勉強もできる素晴らしいお方。

わたし?わたしは肩を過ぎてるくらいの髪をひとつにくくってる普通女子ですよ。勉強も運転も真ん中くらいだし。テスト前は千穂に勉強教えてもらっているしね。

さて、キモいと言われたわけですが。

「これには理由があるのです」

「限定SSRがきたとか?」

「ぐ…それはまだ…」

痛いところを付かれた。そうなんだよなー。今回のイベントガチャ、もう数千円かけてるのに限定SSRきてくれないんだよなー。高校生の数千円は結構な出費だよ。

って、そうじゃなくて!

「じゃあ何でそんなニヤついてたのさ」

「うう…その綺麗な顔でわたしを見ないで…」

「そういうのはいいから」

千穂さんバッサリですな。少しはわたしの茶番に付き合おうぜ。

仕方ないから正直に言いましょう。

軽く息を吐いて、千穂を見た。

「…金曜日だから、嬉しいの」

千穂は目をパチパチさせて、数秒わたしの顔をまじまじと見て言った。

「それだけ?」

それだけとは。

立派な理由でしょうよ。金曜日だよ?明日休めるんだよ?学生の特権だよ?

まあ、それだけじゃないんだけどさ。それを千穂に言うつもりはないから言わない。

だってこんなの非現実的でしょう?


明日、ちょっと異世界に行きます。なんて。


うん、言えない。リアリストの千穂には余計言えない。

頭おかしくなったんじゃないかって言われるのがオチだ。見える。わたしには見えるぞ。

さてさて、そんなこんな考えたりしているうちに学校に着いたわけですが紹介すべき?面倒くさいのだけれど、一応しときましょうか。

県立南高等学校。そこそこのレベルの進学校。終わり。

特筆すること何にもない平凡な高校です。

あ、授業中すごい眠くなる。

そんな眠たい授業をなんとかやり過ごして、千穂とご飯食べて、さらに眠たい授業を受けて、そんなこんなで放課後。

「じゃ、わたし帰るね!」

ホームルームが終わった途端にカバンを持って教室から走り去る。「ちょ、晴香!?」と千穂の声が聞こえた気がしたけど、それどころじゃないから無視。あとでお詫びのメール入れとこう。

さて、とっとと帰ってきましたよ。

家に入るとすぐにお風呂に入って、ゲームして、課題やって、ご飯食べて、少し寝る。

そうして23時55分にスマホのアラームがなった。

「よし!あと5分!」

夜なので小声で。

最後に持って行く物を確認してから日付が変わった瞬間に押し入れのふすまを開けた。

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