Along wish fellow
雪野 ゆずり
第一章
私の名前は中村 由里香。
私が住んでいる町はいつも活気にあふれている賑やかな町。
賢「お、由里香じゃねぇか!」
そう言われて振り返ると、幼なじみの洸くん、賢くん、刃くんがいた。
由「こんにちは、珍しいね3人揃ってお出かけ?」
刃「いや、町を歩いていたら賢と洸に会ってな」
洸「で、由里香を見つけたわけ。一のやつ元気か?」
由「うん、元気だよ。お仕事ほったらかしにして出掛けようとするのはちょっと困るけど。」
賢「はは、一らしいな。」
洸「で、由里香は買い物か?」
そう言って洸くんは私の持っている籠をみた。そこは野菜やお肉がたくさん入っている。
由「うん。でも、もう終わって帰るとこだよ。」
洸「そうか、ならその籠かせよ。重そうだし、家まで送るついでに持っててやるよ。」
由「え?いいよこれくらい持てるよ。それに送ってもらうなんて申し訳ないし」
洸「そう言うな、一の顔もひさびさにみたいしな!」
そう言うと、洸くんは私の籠を取った。
由「ありがとう」
洸「気にするな」
そう言って私達は歩き始めた。
賢「そう言えば、由里香知ってるか?」
由「なにが?」
刃「このところ中村家の辺りをうろついている不届き者がいるそうだ。」
由「え?」
洸「あー、それ俺も聞いた。なんか家の中とか覗いたりしてるらしいな」
賢「あぁ、まだ現状なんとも言えないけどな。まぁ警戒するに越したこたぁねぇと思うぜ。」
由「うん。ありがとう、心配してくれて。」
賢「別にいいって」
刃「危なくなったら俺らを呼べ。」
洸「ちゃんと助けてやるからな!」
由「うん!」
その時、突然知らない人から声をかけられた。
?「すみません、そこのお嬢さん。」
由「私ですか?」
?「ええ、すみません急に呼び止めてしまって、あなたの付けているかんざしが気になってしまったもので。とても良い物とお見受けしますがどこで買われたのですか?」
由「これですか?これは買ったものではなく、家に代々受け継がれて来たもので、私が母からいただいた物です。このかんざしが気になられますか?」
?「いえ、ただ良いものだなぁと思いましてなぁ。どうです?なんなら私に譲っていただけませんか?」
由「いえ、これは大切な物なのでお譲りできません。」
?「そこをなんとか」
由「あの、先ほども申し上げましまがこれは代々受け継がれて来たものですので」
?「いいじゃありませんか。そのかんざしが私はすごく気に入ってしまいまして、諦めきれません。どうかお譲りください!」
由「あの、ですから 」
洸「そろそろやめろよ。こいつ困ってるじゃん。」
そう言って洸くんが間に入ってくれた。
刃「もしやあんたこのところこの辺にでている」
賢「不届き者か?」
?「そんなめっそうもない。ですがそこまで言われるのもこちらとしては心外ですし、今日のところはこれにて帰らせていただきます。お嬢さん、次にお会いできる日を楽しみにしています。では」
そう言って男の人は帰って行った。
洸「たく、なんなんだあの野郎」
刃「大丈夫か?」
由「うん。みんなが助けてくれたから。ありがとう」
賢「いや、当然のことしただけだ。それより早く入ろうぜ。またへんなのきたらかなわねーからな!」
由「うん!」
それにしてもさっきの人何だったんだろう。妙にかんざしの事気にしてたし、なんだか怖いな。
一「遅かったな、由里香。お兄ちゃん心配して・・・」
由「兄様ご心配をおかけしました。」
洸「よ、一!相変わらずシスコンだな?」
一「お前ら、なんで?」
賢「なんでって、たまたま町で買い物し終わった由里香とばったり会ってそのままここまで送ってきたわけ」
刃「そういうことだ」
一「刃まで来てるのか。まぁいいか、由里香」
由「はい、兄様」
一「俺の部屋にうまい茶を5つ。」
由「5つですか?」
一「ああ、お前の好きな和菓子でもあれば持って来い。久し振りに5人でお茶を飲もうぜ」
由「はい、すぐにお持ちします!」
そう言って私は台所に急いだ。みんなとお茶を飲むのは久し振りだから楽しみ!
由里香が茶を用意している間、俺たちは再会を喜ぶとともにかすかな違和感を感じていた
洸「珍しいな、一が由里香に茶を入れさせるなんて。」
誰も聞かないから俺が聞いた。まあ、デリカシーのない役割は慣れてるしな。
一「まあ、な。」
賢「なんだ?何か由里香に聞かれたくない話でもあるのか?」
俺が言ったのを合図に賢がそう聞く。
刃「あるから追い出したんだろ」
一「まぁそういうことだ。聞いてくれるよな?」
刃の冷静な見立てに、ようやく一も話す気になったみたいだった。
刃「ああ。」
洸「いいぜ!」
賢「なんだよ、聞かれたくない話ってのは?」
俺たちは口々にそう言った。それに安心したのか一が表情を柔らかくした。
一「ありがとう。お前ら、家の前に不届き者がいるって噂は知ってるか?」
賢「ああ、さっきも会った。由里香のつけているかんざしを譲ってくれと何度も言ってきた」
一「やっぱりかんざしか・・・」
洸「やっぱりってどういう意味だ?」
あまりに含みのある言葉に、つい反応してしまった。
一「いや、なんか俺の母親も同じように不届き者から声をかけられてたみたいなんだよ。」
洸「はぁ?」
意味が分からなくて刃が解説してくれた。
刃「つまり、あのかんざしは昔から狙われているということだな?」
一「まぁそういうことだ。由里香には悟られねーように護衛を付けたいんだが、そうもいかねーからな。外出はさけさせている」
そう言う一の顔はかなり悔しそうだった。当たり前だ、誰とも知らないやつのせいで、由里香が外出できないのはかわいそうだ。
賢「ま、それが一番かもな」
だけど、今はそれしかできることがない。せめてもっと情報があれば…。
洸「俺達も気にとめておくよ」
とりあえずそう言っておいた。
一「頼む。それと・・・」
賢「由里香には言わないでくれ、だろ?」
一「ああ、頼む 」
一がそう言ったとき、由里香の足音がした。
おいしい和菓子たくさんあったから選んでたら遅くなっちゃった。
急いで兄様の部屋に向かう。
由「失礼します。」
一「お、由里香か。良い和菓子はあったか?」
由「はい、たくさん持って来ました。」
洸「やったー!くうぞー!」
賢「まったく・・・洸は相変わらずガキだなぁ。」
由「ふふ、いっぱい食べてね」
元気いっぱいな洸くんとそれにあきれる賢くんを見て昔を思い出していると兄様が寂しそうに聞いてきた
一「なぁ由里香~なんで洸や賢には普通なのに兄である俺には敬語なんだ?」
由「え?だって兄様はこの家の当主ですし、それに昔母様に兄様にはこのように接するようにと言われましたから。」
一「そんなの関係ねーよ~。普通に接してくれよー。お兄ちゃん寂しいぞ~。」
由「兄様が良いのなら。」
一「おう!あと、お兄ちゃんと呼べ!」
由「それはできません」
一「ガーン!」
私だってそうしたいけど・・・。
刃「由里香が真のことを『お兄ちゃん』と呼んだら真の立場が変わってしまうだろう。仕方ないことだ、諦めろ」
刃君の言うとおりだった。
真「う!」
洸「そうそう、由里香も辛いんだよ」
賢「そういうことだ。」
真「分かったよ~」
洸くんと賢くんがそう言ってくれたおかげで兄様も納得してくれた。
そんな話をしているうちに時間は過ぎて行って、お開きの時間になってしまった。
刃「そろそろ道場に戻らなくては」
賢「やっべ俺も仕事の時間だ」
洸「俺も戻んねえとなー」
今はそれぞれに役割があって、昔みたいに一緒にいられる時間が長いわけじゃないけど、また来てほしいと思うな。
一「まぁまた時間空いてたら来いよ。俺、当主になってからずっと家の中で退屈なんだよ。」
洸「はいはい、由里香の顔みにくるついでにな」
一「ついでって」
賢「そういうことだ。じゃ、またな由里香」
由「うん。また寄ってね」
3人を見送ってから私は兄様に呼ばれた。
由「どうしたの?」
一「いや、今日変なやつに声をかけられたと聞いてな。大丈夫か?」
きっと洸くん達から聞いたんだろう。隠す必要もないから正直に答える。
由「うん、知らない人に声をかけられてかんざしを譲ってくれないかって言われた。」
一「そうか。他に何かされたか?」
由「他って?」
一「叩かれたりとか、触られたりとか」
由「そういうことはされてないよ。洸くん達が守ってくれたから。」
真「そうか、それならいいんだが」
なんだか兄様の様子が変。 いつも気にかけてくれるけど、ここまで心配されたことはない。洸くん達と一緒の時はなおさらだ。
由「兄様、何かあったの?」
教えてくれないのは分かっているけど、それでも気になってしまい、聞いてみた。
一「いや、なにもなかったならいいんだ。」
由「でも、私にそんなこと聞くってことは何かあったんでしょ?私だって兄様の妹なんだから少しは教えて」
一「本当に何でもないんだ。気にしないでくれ。」
由「・・・分かった」
結局なにも教えてくれなかったけど何かあったことだけは確かになった。だって洸くん達と一緒だったって私が言う時はいつもムスッとするのに今日は素直に納得してくれた。ということは、洸くん達と一緒にいた方が兄様は安心ということになる。
一「ただ、一人での外出は控えてくれるか?由里香が一人の時に帰りが遅いとお兄ちゃん心配だからな。」
由「うん、分かった。」
私が言うと兄様は安心したように私の頭を撫でた。
次の日、私は特にやることもなく、天気も良かったので、家の庭に出ていた。すると、お仕事を終えた兄様が庭に出てきた。
一「どうしたんだ、由里香?庭にでているなんて珍しいな。」
由「兄様。やることがなかったしお天気が良いから、外に出ていたの」
一「そうか。」
そう言って兄様は空を見上げた。つられて私も空を見る。
一「不思議だな。」
兄様がおもむろにそう口にした。
由「なにが?」
一「ん?いや、由里香が庭にでているのが珍しいと思うなんてと思ってな」
由「え?」
一「お前はもう覚えてないとおもうけどな?お前は小さい時、よく外にでて遊んでいたんだ」
由「そうなの?全然覚えてない」
一「まぁ、小学校の低学年の時の話だしな。覚えてる方が不思議だ。」
由「じゃあなんで兄様は覚えているの?」
一「そういえばなんでだろうな」
由「なにそれー!」
一「まぁいいじゃねーか。そろそろ戻るぞ」
由「待ってよ兄様ー」
そう言って私は兄様を追って家の中に入った。家に戻る前に誰かに見られている気がして後ろを見た。でも、そこには誰もいなかった。気のせいかな?
一「おーい、由里香ー!」
由「すぐいくー!」
その頃、由里香のかんざしを狙う者たちは茂みに身をひそめ中村家を監視していた。見つかったら警察沙汰である。
大「やっぱりあのかんざしで間違いない!」
そう言って威張り散らすのは、まるで童話に出てくるわがまま王子のような恰好をした大であった。敏はどうしてもこの男が好きになれないが、上司なので仕方なく付き合っている。
敏「でもどうしましょう?以前買い取ると言っても拒否されましたし・・・」
大「バカだなお前。あの娘が一人で外にでている時を狙えばいいだろ。」
敏「なるほど!その手がありました!」
この男に『バカ』と言われる筋合いはないが、とりあえず付き合っておく。
大「よし、そういうことならさっそくあの娘の監視をしよう。」
敏「なぜです?」
大「バカだな、あの娘が外にでる時にすぐ襲えるようにだよ」
立派なストーカー行為である。
敏「そういうことですね!ならば、その役目、私がお受けいたしましょう。」
大「おう!頼んだぞ。」
こうしてこの二人のストーカー作戦が始まった。
それから数日経ったある日、私は一人で出掛けた。兄様に誕生日のプレゼントを買いに行くためだった。ちゃんと兄様には言ってあるよ。
由「うーん・・・、これにしよっかな?」
私が選んだのは馬の毛を使った質の良い筆。兄様の愛用している筆がダメになってきてしまい買い替えたいと言っていたので前から誕生日プレゼントは筆にしようと決めていたの。
店を出たところでいきなり声をかけられた。
?「お嬢さん、ちょっといいですか?」
由「はい、なんでしょう?」
そう言って私が振り返ると、前に家の前にいた男の人が立っていた。
由「あなたはこの間の」
?「おや、覚えていてくださったのですか。それはそれは光栄なことです。中村家のお嬢さんに覚えていただくとは。」
由「どういったご用件ですか?かんざしはお譲りできないとこの間申したはずですが。」
?「おや、まだそんなことを言っているのですか、では力ずくでいただきます」
男の人がそう言って手を上げると物陰からスーツを着た男の人がたくさん出てきた。それぞれの手には武器が握られている。
怖かったけど、どうしても理由を知りたくて私は男の人に質問した。
由「なんでこのかんざしを狙うのですか?これは普通のかんざしですよ?」
?「なるほど、あなたはそのかんざしの事を知らないのですね。」
由「それってどういう・・・」
?「由里香、そいつらから離れろ!」
私が反射的に一歩引くと同時に人影がさっきまで私のいた場所に飛び込んできた!その人影は洸くんだった。手には刀が握られている。
洸「大丈夫か由里香?」
私を背に庇いながら洸くんは言った。
由「うん、でもなんで洸くんがここにいるの?」
洸「話は後だ!今はコイツらをどうにかしねーとな!」
?「おや、これはこれはこの間そのお嬢さんと一緒にいた」
洸「ほー、覚えてるんだな。なら、話は早いな。とっととここから消えてくれねーか?」
?「そうですね、ここは一時退散としましょう。帰りますよ、みなさん」
そう言って男の人達は帰って行った。
洸「由里香、怪我とかしてねーか?痛いとことかないか?大丈夫か?」
由「うん、洸くんがすぐに助けてくれたから。ありがとう、心配してくれて。」
洸「いや、俺は当然の事をしたまでだ」
そう言って洸くんは恥ずかしそうに頭を掻いた。
由「ところでなんで洸くんはここに?」
洸「あぁ、お前のこと探してたんだ。」
由「私を?」
洸「ああ、一のやつ『由里香がいなくなったー!』って言って電話してきたんだ。」
由「え?私出掛ける前に兄様に『出掛けてくる』ってちゃんと言ってきたよ。」
洸「なんだよー!あいつその事忘れて大騒ぎしてたのかよー!」
由「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
洸「いや、気にするな。おかげで俺達のお姫様を助けられたんだからな。」
由「お姫様?」
洸「お前の事だよ、由里香」
由「もう、冗談言わないでよ~!」
洸「まぁまぁ。それより、あいつらの狙いはやっぱそのかんざしなのか?」
由「うん、そうみたい。どうしてだろう。」
洸「あいつ、そのかんざしについて何か言ってたか?」
由「ううん、私が普通のかんざしだって言ってら何も知らないのですねってそれだけだよ」
洸「そうか」
それだけ言って洸くんは黙ってしまった。
洸「まぁ、とりあえず帰るか。買い物は済んだのか?」
由「うん、終わったよ、ほら!」
そう言って洸くんに買ったばかりの筆を見せた。
洸「ほー、良い筆だな。一への誕生日のプレゼントか?」
由「うん。」
洸「いいな、こんな妹を持って一も幸せだな。」
由「そ、そうかな?」
洸「そうだよ。兄貴思いの優しい妹なんて文句のつけどころないし」
由「そう言ってもらえるとうれしいな」
そんな話をしているうちに家に着いた。玄関で兄様が立っていた。
一「由里香、一人での外出は控えるよう言ったはずなのになんで一人で外出した!」
由「ごめんなさい、どうしても兄様と行きたくなかったの」
一「まさかお兄ちゃん嫌われたのか?」
由「あ、えっとそう言う事じゃなくて、その・・・」
どうしよう・・・、まさかプレゼントを買いに行ってたなんて言えない・・・。
洸「由里香は一の誕生日プレゼントを買うために怒られる事承知で一人で外出したんだよな。」
一「本当か?」
こういう時、洸くんは頼りになるな。私が言いにくいことを言ってくれるんだもん。
由「うん。兄様に内緒で用意しようと思って。」
洸「ほら、いいじゃん!こんな兄貴思いの妹だ、もう一人でなんて外出しねーよ。な?」
ほら、うまくまとめてくれる。
由「うん。兄様、心配かけてごめんなさい」
でも、さすがに今日は兄様も本当に困ったんだ。
一「まぁ、そこまで言うなら。でも、次はお兄ちゃん困るなー。うーん」
そう言って兄様は腕組みをして考えていたけど、すぐに何か思いついたように顔を上げた。
一「洸、今仕事ないんだよな?」
洸「あぁ そうだよ!なんか文句あるかよ!」
一「いや、そうじゃなくて、由里香の護衛役を頼みたいんだ」
やや投げやりにそう言う洸くんに兄様はそう言った。
洸「理由は何だ?」
洸くんも、そう言った。
一「最近何かと物騒だし、由里香のかんざしを狙うやからも出てきたから少し由里香を外に出すのが怖くてな。でも、それが理由で由里香を外に出さないのも酷だろ?洸なら気心も知れてるしいいんじゃないかと思ってな。」
洸「なるほど、筋は通ってるな。でもそれなら一が護衛すりゃいいんじゃん」
いや、それはちょっと無理があるような・・・。
一「馬鹿かお前は!俺が毎日どれだけの雑務をこなしてると思ってるんだ!」
ほら、兄様怒っちゃった。もう、この光景も慣れてるけど。
洸「あ、それもそうか。ま、元々頼まれたらやるつもりだったからいいぜ、その役目引き受けてやるよ。」
一「だったら早くそう言えよ!まぁやってくれるならいいか。由里香はそれでいいか?」
洸くんにそう突っ込んから兄様は私に聞いてきた
由「え?」
一「洸でもいいかって事だよ。」
由「うん、大丈夫だよ。洸くんの剣術の成績良いこと知ってるし、何より知らない人より洸くんの方がいいもん。」
真「それならいいな。」
由「ごめんね、洸くん。これからよろしくお願いします。」
洸「別に由里香が謝る事じゃねーよ。悪いのは由里香を狙うやからなんだし、気にするな!それに、幼なじみ同士そう言う事は言いっこなしだ!」
由「うん!ありがとう!」
洸くんが守ってくれるなら兄様も安心だろうし、私も外に出られるからうれしい!それに、お友達から聞いた話だと、勝手に護衛役の人を決められる事もあるらしいから、そう言う点で洸くんで良かったと思う。
その頃、由里香の監視をさせられている敏は、由里香に護衛が着く事が分かり焦っていた。
敏「げ!あの子に護衛役が着くのか!大変だ、早くボスに知らせないと・・・。急ごう!」
次の日、洸くんが荷物を持って私の部屋の隣にある空き部屋(もともと物置部屋だったのを兄様が無理を言って使用人の人達に片付けさせた部屋だけど)に来た。荷物と言っても家具は兄様が用意したのでこの場合着替えとか洗面用具だけど。
洸「おいおい、由里香の部屋の隣なんて、いいのかよ?」
からかうように洸くんは言った。
一「仕方ねーだろ!本当は嫌なんだが護衛役の奴が遠くの部屋だったらすぐ守ること出来ないから、本当に仕方なくだ!」
洸「だよなー、しかし分かってはいたが本当、由里香大変だよなー。」
由「え、なんで?」
洸「いや、一のシスコンぶりになー。こんなんじゃ、恋人作ろうにも作れないだろ?」
由「まぁね、男の子と遊んでると、兄様すぐ来て追い払っちゃうからそれは大変かな。」
洸「だよなー。ま、これからは俺がいるから大丈夫だ、安心しろよ!」
一「お前だから余計心配なんだが・・・」
洸「なんだと!?」
なんだか喧嘩になりそうだから止めようとしたら、賢くんの声が聞こえた。
賢「洸、何やってんだよ!雇い主と初日から喧嘩なんてするなよ!」
声のする方を見ると庭の柵の向こうから賢くんが覗いてるのが見えた。
由「あ、賢くん。こんにちは、どうしたの、そんなところで?」
私がそう言うと賢くんは言った
賢「いやあ紀が仕事決まったって言うから様子見に来たんだ。そしたら喧嘩してるもんで、本当はただ見てるだけと思ってたんだけど、つい声出しちまった!」
一「お、賢じゃねーか!こいよ!茶でも飲もうぜ!」
賢「ふー、当主様の呼び出しなら行かねーとな。ちょっと待ってろー!」
由「私、門開けてくるね。」
一「おう、頼む」
門の前まで行って門を開けると、賢くんがすでにいて、「ありがとな」と言った。
由「ごめんね。少し散らかってるけど」
賢「いいよ、そいじゃお邪魔します。」
そう言って賢くんは入った。と思ったらすぐ後ろを見た。
由「ん?どうしたの?」
賢「いや、別に・・・」
そう言いながらしばらく後ろを睨んでいたけど、「気のせいか」と言って歩き出した。何だったんだろう?
兄様の部屋に入ると二人とも座って何か話し込んでたみたいでビックリしていた。
一「よ、よう!悪い、ちょっと話し込んでて、気付くのが遅れた。」
賢「なんだよそれー、ったくしかたねーな!」
洸「はは、まあまあ怒るなよー。悪かったって。ほら、二人とも座れよ!」
そう言って洸くんは手招きした。
由「あ、私お茶淹れてくるね。」
洸「サンキュー、由里香」
賢「俺も手伝おうか?」
由「え?大丈夫だよ。座ってて」
賢「ああ、そうか。」
賢くんどうしたんだろう?いつもは手伝うなんて言わないのに。でも、なんだか聞いちゃいけない気がしたから何も言わずに私は台所に向かった。
洸「どうしたんだよ。」
由里香が出て行った後すぐに俺は賢に聞いた。どうやら一も不思議に思ったらしく黙って賢の言葉を待っていた。
賢「いや、この家に入る前になんか視線を感じて、その視線が俺に向いていたと思ったらすぐそれてな、なんだか由里香に向いた気がして少し気になったんだ」
一「なに!?」
洸「それ、気のせいって事ないか?」
賢「もちろん俺もそう思いたいけど、用心するに越したことないし、一応な。由里香も気にしてなかったから俺の思い過ごしだと思うけど・・・」
そのまま賢は黙り込んだ。俺もどうしたらいいか分からなくて黙ってたら一が沈黙を破った。
一「まぁ、家の中にいるかぎり敵も来ないだろ!とりあえず用心はしよう。」
賢「ああ、それが一番だと思う」
洸「そうだな。俺も気をつけるようにするよ。」
一「頼む」
洸賢「「おう」」
それからまもなくして由里香が戻って来た。
お茶を淹れるのが少し遅くなっちゃったから急ごうと思って廊下を歩いていると庭の方から視線を感じて足を止めた。でも周りを見ても誰もいない。最近こんなことばっかり、何なんだろう?少し怖い。でも気にしてばかりだと疲れてしまうから何もなかったように兄様の部屋の戸を開けた。
由「失礼します。」
一「おう、由里香か。ちょうど良かった。ちょっとお前に聞きたい事があるんだがいいか?」
兄様がそう言うと賢くんと洸くんも頷いた。
由「なに?私に答えられる事なら何でも言って。」
一「そうか、じゃ早速。単刀直入に聞くけどお前、最近誰もいないはずなのに視線を感じることないか?」
由「え、えーと、その・・・」
賢「あるんだな?」
由「・・・はい」
私が頷くと賢くんは「そうか」と言って黙ってしまった。
洸「その、どういう時にその視線を感じるんだ?」
由「一人で廊下を歩いてる時とか、庭に出ている時とか。とにかく一人でいる時だよ。」
洸「なるほど。」
どうしたら良いか分からなくて私は黙ってしまった。すると兄様が思いがけない質問をしてきた。
一「由里香はその、視線を感じる時、どんな気持ちになるんだ?」
その口調はとても優しく、まるで私をいたわってくれているみたいだった。
だから、私は素直に答えることにした。
由「正直、すごく怖い。知らない人にずっと見られてるみたいで、嫌な感じ」
一「そうか。」
賢「まぁ、覗いてくるだけならいきなり襲ってくることはないだろうから、そんなに神経質にならなくてもいいと思うぜ!」
一「そうだろうけど・・・」
賢「それに、いざって時の為に洸を雇ったんだろ?なら大丈夫だ!洸はこうみえてやるときはやるやつだからな」
洸「こうみえては余計だろ?ったく、まぁ、由里香に何かあったら俺が絶対守るから、心配するな!」
一「そうか、それならまぁ、心配いらないな!由里香。」
由「なに?」
一「そう言うわけで、当分これといった対策はとらないがそれでいいか?」
由「うん、大丈夫!洸くんが守ってくれるしね!」
私がそう言うと兄様たちは安心したように微笑んでくれた。
その後は刃くんがいる時にまた話すと言うことになり、この日はお開きになった。
Along wish fellow 雪野 ゆずり @yuzuri
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