第2話

 はて、と佐奈子は顔に手を当てて考えた。ここまで来るのにかけた時間や交通費のことを考えれば、そう簡単にすごすごと引き返すわけにはいかないのだ。時間はいくらでもあるわけだが、お金はそうもいかない。佐奈子は独身貴族であるから貯蓄があるにはある。しかし、アラサーの女性の再就職が簡単ではないことは承知していた。ものの試しにと来たものだったが、やはり無駄にはしたくなかった。

 ともすればさっさと入ればいいものを、しかし漂う雰囲気がためらわせる。

「あんた、何やってんだい」

 とん、と背中を叩かれて、佐奈子は縮こまった。

 ドアノブに手を伸ばしては引っ込めを繰り返していた佐奈子は、傍から見ればそれは怪しいものだった。通りかかった近くの住人が、見かねて声をかけたのである。

「い、いえ、何もありません」

 佐奈子は立ち去ろうと足の向きを変える。だがふと、ここで帰ってはいっそう怪しさを増してしまうと考えがよぎった。

 思い切りドアノブを捻ると、鍵はかかっていないようだった。意を決して、佐奈子は逃げるように飛び込んだ。

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シャワー・マイスター CAPTAIN.K @captain_k

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