ぐっと距離が縮まるチャンス

 眠い!


 あれから二ヶ月近く、週末は必ず、平日も時々夢の中に引っ張り込まれて戦う、っていうか囮にされてる。


 夢の中で負った傷は現実世界では精神的疲労って形で残る。体に傷はつかないから虐待かとかイジメかとか変に疑われたりすることはないけど、疲労感、パネぇ。


 季節はすっかり秋から冬に差し掛かろうとしているのに、綾乃は夢の中じゃ相変わらずチビTにジャケット、半パンだ。冬になったらもうちょっとあったかい格好になるのかな。

 静乃ちゃんは、夢から帰ってきた僕を優しくねぎらってくれる。もうそれだけが癒しだ。


「竹本ー。おまえ最近疲れてるな」

「中間テストも前よりちょっと下がっただろ。これ以上下がるとヤバくね?」

「勉強してるわけでもないのに睡眠不足ってことは、やっぱ、動画とか?」

「ヤラしいの見て興奮して眠れないとか?」

「うわぁ、エロだー」


 ヤラしい格好の幼なじみ見て、癒しの幼なじみに慰めてもらって、確かに寝不足だけどっ。

 話しちゃいけないことを隠して反論する気力もない。




「それはいけないわね。狩人のお仕事を手伝っているから成績が下がりました、では手伝ってもらえないわ」


 現状を愚痴ったら静乃ちゃんが眉根を寄せている。


「そうだわ。わたしが勉強を教える、ということならお互いの家を行き来しやすくなるわ。こっちの親が留守がちだから克己くんに来てもらって防犯上ちょうどいい、という話にしやすいし」


 それは、静乃ちゃんと過ごす時間が増えるってことだよね。ラッキー!

 そんな話をうちの親にすると、「勉強の面倒を見てもらえるなんて」って大喜びだ。

 昔からなじみだってんで、警戒もされてない。これぞ幼なじみの特権だ! よかったお隣で!


 こうして、放課後は静乃ちゃんにすごくわかり易く勉強を教えてもらって、静乃ちゃんの手作りお菓子もごちそうになって、うちからバイト代で持たされた夕食を三人で食べて。

 あぁ、なんて幸せなんだ。


「静乃にデレデレしやがって、ヘタレ野郎のくせに」


 綾乃がケチつけてくるけど、ただデレデレしてるだけじゃない。今までより身を入れて勉強をしている。だってやっぱ静乃ちゃんみたいな女性ひとの相手は馬鹿じゃ務まらないと思うから。


「やきもちか? おまえも一緒に勉強すればいいだろ?」


 ちょっと気が大きくなって反論したら、腹パン食らった。ごめんなさいもう言いません。


 テスト期間に入ったら狩人の仕事はなしで、さすがに綾乃も勉強会に加わった。

 幼なじみの女の子二人と、一つ屋根の下で勉強しておしゃべりしてご飯食べて……。


 考えてみたらすごく恵まれてるよな。

 おかげで期末テストも前のレベルにまで回復できた。


「がんばったね克己くん。次はもうちょっと点数アップを狙ってみましょう」


 静乃ちゃんに褒められた! 正直、先生に褒められるより数倍嬉しい。親なんて「やっと前の点数か、まだまだだ」なんて言ってちっとも褒めてくれないし。

 静乃ちゃんが姉だったらなぁ。いや、姉よりも、もっといいポジションが狙えるじゃないか。


「ニヤけてんじゃねぇよ。ウザい」


 すごい目つきで綾乃が睨んでくる。小突かれたし、声もなんか、ドスがきいた声だ。そんなにつっかかんなくてもいいのに。どうして綾乃が不機嫌になるんだよ。

 いくらお姉ちゃんが美人でデキるからってひがむなんてみっともないぞ。




 さて、無事二学期も終わって冬休みだ。


「休みの間は狩人の仕事が増えるわ。がんばってね」


 静乃ちゃんに励まされたら元気出るよ。


 冬休みの間も、僕は久我家のボディガードとして出入りすることになった。


「お父さんがいないから、克己くんが来てくれて心強いわ。よろしくね」

「うん、頑張るよ」

「フン、頼りないボディガードだな」

「……なぁ、どうして最近冷たいんだよ」

「別に? おまえの思い違いじゃないのか?」


 そうかなぁ。僕が静乃ちゃんと仲良くしてると、綾乃は機嫌が悪いように思うんだけど。

 まぁ、いいか。


「そろそろ、克己くんも狩人として独り立ちする練習をしないといけないわね」

「独り立ちって、どうやって?」

「魔力を武器に込められるようになったら、とりあえずは一人前だな。戦い方は、実戦で鍛えていくしかないが」


 武器に魔力を、か。難しいな。


「精神世界での出来事だから、克己くんの精神力次第よ」


 つまり心を鍛えろってことか。

 それがすんなりできるようなら、苦労しないんだけどね。

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