今度は贄じゃなくて囮だなんて
次の金曜日に、早速夢の中に引きずり込まれた。
今日は仕事があるって聞いてたからパジャマじゃなくてシャツとジャージにしておいてよかった。もちろんポケットに家の鍵は入れている。
ベッドに入って眠りに落ちてどれぐらいだろうか、急に景色がクリアになったと思ったら、もう見慣れてきたチビTにショートパンツの綾乃がいた。
ん? 腰にさげてんのは、竹刀だな。また武器増やしたのか。
「よお。来るとは思ってたけど夢魔が現れる前とは思わなかったな。シンクロ率高くなってんのかもな」
綾乃がけらけら笑う。
「まだなんだ」
「あぁ。まだ正常な夢の中だ」
言われて、周りを見てみる。
どこかの駅の中だ。フツーにみんなが電車に乗っていく。僕らの周りの景色が動いてるってことは夢の主が移動してるんだな。
景色は電車の中になった。発車して、景色が流れていく。のんびりした風景だ。
「そう言えば、綾乃がその格好なのは、狩人の決まりなの?」
「ンなもん、ねーよ。動きやすいし、かっこよくね?」
「かっこ、……いい」
「だろ? ほんとは狩人ってのもダサいからせめてドリームハンターとか英語にしてほしいんだよな。ドイツ語でもいいけど」
いや、そのネーミングは、ちょっと。
そもそもドリームハンターだったら夢を狩ることになるよね。悪夢をどうにかするんだからナイトメアハンターじゃないのか?
そういや夢魔って英語でなんて言うんだ?
……けど、綾乃が中二病全開とは思わなかった。
「なんだよ?」
「ううん。それじゃあ、狩人やってんのも、かっこいいから?」
「まぁな。人知れず精神世界の闇を
あー、はいはい。
……ん? なんか、すごく嫌な感じがする。肌の上をざわざわって触られてるみたいな、変な感触。
「来る」
目を吊り上げて綾乃がつぶやくと、景色があの黒いマーブル模様に変わった。なるほどこれが夢魔の領域、みたいなヤツなんだな。
現れたのは、数匹の犬だ。
「そういや、
言いながら、綾乃は腰の竹刀を僕に放ってきた。
「おまえはそれで戦え」
「い、いきなりそんなっ」
「戦えないなら、囮になってろ」
「うわ、ひっど!」
「あたしらがやらないと、贄は死ぬんだ。ほら、行け!」
犬に命令するみたいに言うなぁ!
抗議の声も出させてもらえないで蹴りだされた。
目の前に、犬の夢魔が三匹。
僕が竹刀を構えると、敵はこっちかと認識したみたいで、唸り声を上げながらにじり寄ってくる。
綾乃をちらっとみたら、ニヤニヤ笑ってこっちを見ているだけで動こうとしない。
えぇい! くそぉ!
僕は竹刀を振りあげて犬達に殴りかかった。
……当たらない!
ぶんぶん振りまわしても、かすりもしない。
それどころか、囲まれて噛みつかれるわ引っ掻かれるわ。
痛い痛い痛いぃ!
僕じゃやっぱかなわないよ。綾乃、なんとかして――、って、いない?
後ろをちらっとみた僕は、驚いて立ち止まった。
犬達が、大口を開けて跳びかかってきた。
しまった。このままじゃやられる!
と、その時、空から光の弾が降ってきた。
僕も予想外だったけど、犬どもはもっと予想外だったんだろう、弾を食らってギャンギャン鳴いてのたうちまわってる。
「克己、よくやった!」
上を見ると空中にドヤ顔の綾乃が。
贄を夢魔から助ける救世主っていうより、ラスボス感たっぷりで降りてきて、ナイフで夢魔犬にとどめを刺して行った。
不良狩人は、にやぁっと笑って僕の肩をぽんと叩いた。
「おまえが完全に夢魔の気を引いてくれたから、やりやすかったぞ。これからもその調子で頼むわ」
絶対に嫌だ。
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