契約してと言われなかっただけマシか
二日後の朝。
「おい克己、放課後ツラ貸せ」
教室で、綾乃に命令された。
「貸せ、って、どこに?」
「あたしん
あぁ、多分例の夢の話の続きなんだろうなぁ。「
わかった、ってうなずいたら、まわりでヒソヒソやられた。
「竹本、久我とつきあってるのか?」
友達が尋ねてきたから首を振った。
「そんなんじゃないよ。ただちょっと、家の方で困ったことが起っちゃって一緒に解決してるって感じ」
「ふーん。ご近所トラブルか」
「騒音ババァとか?」
「ゴミ屋敷とか?」
そういや、そういうのが時々ニュースになるよね。
「そこまでおっきいのじゃないけどね」
軽く笑って言うと、なんとなく納得してくれたみたいだ。よかった。綾乃と付き合うなんてウワサが流れたらちょっと困る。
綾乃のことは嫌いじゃないけど女の子としては見れないっていうか、そもそも付き合うなんてことになったら振りまわされるだけなのが目に見えてるからね……。
学校から帰って、すぐにお隣の久我家に行った。
「結論から言う。おまえもあたしと同じ、狩人になれ」
……なぜか、某アニメの「魔法少女になってよ」ってフレーズが頭をよぎった。
「なんで、そんな話になってんの?」
恐る恐る尋ねてみた。
昨日、静乃ちゃんが「夢見の集会所」で今回の出来事を報告して、これからどうするのか、相談してきたらしい。
先輩の夢見達が言うには、どうしてそうなったのかはわからないけれど、過去にも
そうなったらもう、そのままでは勝手に夢の中に入っていっちゃうことは止められないらしい。
だから贄も狩人か夢見になって魔力のコントロールを覚えるしかない、と。
「じゃあ、どうして夢見じゃなくて狩人になれ、って言うのさ。夢見でもいいんだろ?」
僕としては直接戦うよりサポートの方が向いていると思うんだけど。
「簡単な話だ。狩人が不足してるからだ」
僕の適性や希望は無視ですかそうですか。
結局、押し切られる形で僕も狩人修行を始めることになった。
久我姉妹は二人ともまだ学生だから基本的に週末に活動するんだけど、何せ人手不足だから時々平日にも仕事がくるらしい。
夢魔は数日でも放っておいたら急速に贄の生命エネルギーを奪い取っちゃうんだから、待ってられないよな。そのあたり、実際に贄になっちゃった僕は実感あるから、よくわかる。
僕が一人前になっても夢見は静乃ちゃんでいいらしい。
夜に活動する狩人と夢見は近いところにいるのが望ましいそうだ。だから家族でペアを組むのもよくある話らしい。それに静乃ちゃんは優秀だから二人の狩人の面倒も見られるだろう、って。すごいな静乃ちゃん。
これって、ちょっと、チャンスじゃないか?
狩人と夢見はパートナーだろ? 親密になりやすいんじゃないかな。
「静乃と仲良くなれるチャンスだとか考えてるだろ」
すかさず綾乃につっこまれた。くそっ、なんでそんな察しがいいんだ。それとも僕ってそんなに顔に出やすいのか?
「そ、そんな……。ところでさ、僕が魔力をコントロールできるようになるまで、綾乃の魔力にひっぱられて夢の中に入っちゃうのは、どうするの?」
「そうねぇ。わたし達が活動する日には、克己くんは家の鍵を持って寝てもらうしかない、かなぁ」
おっとりと静乃ちゃんが、打つ手なしのお返事をくれた。
しばらくは、夜中や明け方に泥棒みたいにこっそり自分の家に帰ることになりそうだ。
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