作り話って思いたいけど

 静乃ちゃんから説明を受けること二回。まだ頭がごちゃごちゃしてるけど……。


「えーっと、つまり、この現実世界と並行して精神世界というものがあって、夢を見るというのは、精神だけそっちの世界にダイブしてる状態、ってことでいいよね?」

「うん」

「で、精神世界には夢魔むまっていうバケモノがいて、そいつらが夢に干渉することで、相手のエネルギーを奪い取って生きてる」

「うん。それが侵食しんしょくで、夢魔に侵食されている人のことを、にえっていうのよ」


 説明されたことを確認する僕に、静乃ちゃんが補足してくれた。


「おまえは贄になってたんだよ」綾乃が続ける。「急に体調崩してただろ。あれが侵食された贄の状態だ」


 言われて、数日前からの自分の状態を思い出す。


 最初は体がだるい程度だった。微熱が出て、次の日は高熱って言えるほどになって、起きるのも辛くなっていった。

 病院にかかっても「うーん、特に喉も腫れてないけど、風邪かな? 疲れが出て治りが遅いのかもね」ってことだった。薬を飲んでも、ちょっと楽になるけど治っていくって感覚がなくて。


 何より……。


「寝ると、決まって嫌な夢を見てた。内容はもう忘れちゃったけど、目が覚めて、すっごく嫌な気分だったり、落ち込んだり」

「それが夢魔の手口なの。相手を精神的に弱らせるために嫌な夢を見せるの」


 心を弱らせ、抵抗力を奪い、命をすすって、贄はまた弱る。

 悪循環に陥って、最後は死んでしまうらしい。

 そんなことになるところだったんだ。ぶるっと震えた。


 こんな話、ウソだって思いたいし、言いたい。けど、僕が今こうして久我家にいるのは現実なわけで。


「大体理解できた。……助けてくれて、ありがとう」

 頭を下げると、姉妹はそっくりの笑顔で応えてくれた。




 それからも、いろいろと聞いた。


 夢魔は生命力の強い生物に寄っていく習性があるらしい、とか、長く生きた夢魔は知恵がついて、贄を生かさず殺さずの状態にして確保することもあるとか。


 その夢魔を退治するのが、夢の中に入って戦う狩人で、狩人のサポートをするのが夢見ゆめみっていうらしい。


 てっきり、綾乃達は個人的に活動しているのかと思ったら、夢見と狩人の活動を支援する組織があるんだって。


「ひとつ、疑問に思ったんだけど、どうして夢魔とかの話って世間に広がってないの? 夢魔がいるってことが判ってた方が精神的にガードできていいんじゃない?」

「逆だよ」綾乃が言う。「ガードったって夢を完全にコントローロなんてできないだろ? そんな世界でバケモノが自分を狙ってくるかも、って知ったら、どうよ?」

「……怖い」

「その怖いとか不安とかが、夢魔の大好物なんだぞ」


 なるほど。だから内緒にしてるってことか。

 僕が納得してうなずいたのを見て、静乃ちゃんが話を切り上げた。


「さぁ、もう遅いから、克己くんは帰らないと」

「けど、玄関とか鍵かかってるし、開けてもらうにしても、パジャマに裸足でどうして、どうやって外に出たとか聞かれて話がややこしくなるよ」


 あー……、ってため息みたいな声が漏れて、ちょっとの間、誰もしゃべらずにお互いの顔を見てた。


「仕方ないわ。克己くんは明け方、おじさんが玄関を開けるまでここで泊まっていって」


 そっ、そそそそ、それって、静乃ちゃんと同じ部屋で、寝るっ……。


「おまえ、エロいこと考えてるだろ」


 綾乃に指摘されて、ぶんぶんと首を振った。……健康な男子中学生らしく、考えてたけどさっ。


「わたし達がお隣に行くから、克己くんはここで休んでいて。ここからならそちらの玄関が見えるでしょう? おじさんが新聞を取りに出たら、そっと家に戻ってね」

「あ、はい」


 ちょっとがっかりしたのは、今度こそ顔に出さないように、うなずいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る