第8話 遥かな時

静かな湖面は

新緑の木々や

青い空を自由に飛び交う小鳥を

冷たい煌めきの中に映す


でも映し出された世界は

微かな風に揺らぎ

細かなさざ波の中を漂いながら

冷たい湖底に深く沈む


あなたとの愛も

それに似ている

確かに今この瞬間まで

私の手の中にあったのに

瞬きする間に

私の体をすり抜ける


私はそのとらえどころの無い愛を

捕まえようと

あなたに愛してると囁く

あなたの顔を見ずに

愛し合ったベッドの上で

あなたの胸の辺りを

見つめながら


体が離れても

確かにあなたを近くに感じて

充たされている時もある

街を歩きながら

春を謳歌する

鳥や花々に歌うこともある

信じることを怖がらない時もある

あなたは私を愛しているのだと

そう確信できる時がある


少しだけ

あなたを感じて

少しだけ

あなたを愛したなら

私はこの愛を

もう少し素直に

信じられたのかもしれない


私はあなたの魂の命の先を生きる

あなたと私の命が消えたとき

私の魂がこれまでも

これから先も

悲しみのために

永遠に存在しなかったと

思いたくないから

私はあなたを失う時

この命は消えてしまうから

だから

どんな悲しみに襲われても

あなたを愛したことを

あなたが私を一瞬でも愛したことを

心に刻む為に

遥かな時に心を移す

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