第2話 月が教えてくれた秘密の話

鉛色 時の仮面

そっとかぶる 

歩けないの


あなたのいない世界

死の世界よ


無駄なこと 待ち続けて

夢を見て 夜が終わる


あなたは残した

死の世界を


〜〜〜


藍色の澄み渡った空

まあるいお月さま

彼女は庭のベンチに座っていた

いつものように


呆れ顔の月が 語りかけた


いつまでそこに 座っているの?

お気に入りの綺麗なお帽子

陽の下で かぶらなくちゃ


月の下では 瞳を閉じて

夢を見るのさ 幸せな夢


明日はきっと光の中を

そのお帽子と歩くのだよ


あの角を曲がったところで

きっといいことがあるよ


夢見たことは 

いつか叶うさ

けれど彼は 

戻らないよ


・・・そうね ・・・きっと


〜〜〜


彼女はそれでも

月が白く消えてから

街に出かけた

お気に入りのお帽子をかぶって


あの角を曲がったところで

いいことはなかった

次の日もまたその次の日も


季節がいくつも過ぎた頃

少しずつ彼を忘れた頃

あの角を曲がったところで

大きな荷物を背負った

旅人とぶつかった

転んだのは彼の方

彼女は慌てて彼の手を取った

ごめんなさい、ぼうっとしていて・・・


立ち上がった彼は大きくて

海の匂いがした

二人は見つめあって

そのまま別れた

さよなら・・・


ふうっとため息を漏らした

お月さまは嘘つきね

私にはいいことなんか何もないわ


少しだけ愚痴を言ったその時

後ろから声がした

・・・落としましたよ〜お帽子!


あら、ありがとう

風のいたずらですね

彼はそう言って笑った

そして二人は再び見つめあった


そして今度は

同じ道を歩きながら

いつまでも

奇跡の様な

旅のお話を聞いていた


・・・月がどんな顔をしていたか

お分かりでしょう

そう・・・

いつもよりうんと輝いて

二人の幸せを祝福したのだけど

彼女はと言えば

夕陽色の髪や

日焼けした顔の中で輝く

水面の様な瞳を

見つめるのに夢中で

お月さまのことはすっかり

忘れていたのでした・・・

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