第3話 囁く声

訪れる冬に向かって

花の蕾は

微かにほころびながら

秋の透き通った光を浴びている


来春には誇らしげに

開くだろう


ふと、庭の気配が変わった


太陽の陽が僅か雲間に隠れた

雨上がりのしっとり濡れた土が

ひんやりと冷気を放ち

その漂った静寂は

どこか深い森の中にいるような

錯覚を覚えさせた


しんと静まりかえった空間は

私を確かに何処かへ誘った

そこは鏡の向こう側の死の国かもしれない


瞬間 天にも届く山の端に立っていた

そろりそろりと足を踏み出す

呼吸は浅く

もつれる足を

地面にこすりつける


死にたくない

こんなにも生きたいと

願うのか


気がつけば

庭のジャスミンの蔓を

掴んでいた


私は忘れていた


蔓は

地の中を這うだけではないことを

太陽に向かって伸びていることを

春になれば

むせかえる様な甘い香りを放ち

真っ白な花を咲かせることを


土の下の

根っこが

つかの間

私の足を引っ張った


死んでも良いよと声なき声が

私に囁いた時

私は蔓を思い切り切って

木漏れ日の中に

七色の虹を作るため

冷たい水を空に放った

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