第8話 SPC異能者・異種族犯罪対策課7

 「地天変化じてんへんげ流」というのは、人間である天人が異能者・異種族ストレンジャーと同等に戦う為の剣技の流派である。抜刀することで構えの型へ入り、抜刀した刀の本数で型の数字が決まる。そして型番に、つまり刀の本数に応じて行える技が変わるのだ。

 よって天人が発言し行ったのは流派の構えであり技ではない。

 さらに、「地天変化流」の真のすごみは抜刀したことに意味がある。

 この流派は、どういった状況であっても絶対の対処を目的としてつくられた流派である。抜刀していようがしていまいが、自身の攻撃こうげき防御ぼうぎょ回避かいひの最中、相手の攻撃・防御・回避の最中、水中、空中、火の中、身体の自由がかない場合など、ありとあらゆる状況を想定して創られた流派なのだ。

 基本的な流派の伝授にはこうした状況に応じた行動を全て教授きょうじゅする訳ではないが、その伝授される技、動き、呼吸などは全てどういった状況であっても応用可能とされている。教授する者もされる者も、その伝授はとても困難こんなんであるために選ばれた指導者が選ばれた弟子にのみ伝授することが許される、伝授が極秘ごくひとされた流派なのだ。何処どこで、誰と、どういった場合においても対処出来る最強・無敵の流派であることを絶対とすることが前提のためにだ。

 天人が今回発言したのは「壱ノ型いちのかた」、抜刀した刀の本数は一だ。

 「地天変化じてんへんげ流―壱ノ型いちのかたとう』」は構えの状態、本当にり出される技はこれからである。

 天人は言って、さやから抜いた刀を瞬時に納刀し跳躍ちょうやくした。

地天変化じてんへんげ流― 一ノ型『しょう』!」

 現在天人が足を着けているのは保健室の天井だ。天人にとって現在地面が天井になっている状態にある。したがって、天人は本来地面に当たる場所に飛んだのだ。

 この技は本来自身よりも高所にいる相手に対し使用する。ビルの四階まで瞬時しゅんじに到達するこの技の跳躍力ちょうやくりょくは、忍術が動きに組み込まれていることで成立している。本来は跳躍後刀での斬撃ざんげきを放つのだが、天人は納刀状態のままで跳躍だけを行った。

 飛んだ天人はクリスの背後に着地する。

 クリスは着地の音と風で天人が背後に着地したことをさとった。クリスは自身で構築こうちくした光の剣の刃部分の構築位置を、柄の前と後ろで入れ替えたのだ。つまり、逆手に持っている状態にある。

 クリスはこれにより背後の天人を刺したと思い込んだ。しかし、クリスが眼前で目撃したのは信じられない光景だった。

地天変化じてんへんげ流― 一ノ型『じん』!」

 そう聞こえたと同時、確かに背後にいた筈の天人がクリスの正面にいた。

 「地天変化流― 一ノ型『迅』」はこの流派の特殊な移動法を用いる剣技であり、瞬時に相手のふところに移動し抜刀を行う技、言い換えれば急接近からの「居合切いあいぎり」である。

 天人は着地した際かがんだ状態であり、一歩後ろに着地した左足をじくとし、屈んだ状態のまま右に九〇度回転した。内股の状態である天人は、次に軸足を右足に切り替え、左足も同様に九〇度回転させたのだ。

 中国武術の一種「八卦掌はっけしょう」の中にある特殊な移動方法、外股に開く「擺歩はいほ」と内股に閉じる「扣歩こうほ」を今ここで行ったのだ。常人でも鍛錬たんれんを積む必要があるこの特殊な歩形ほけいでの移動を、天人は一秒と掛からず行ったのだ。

 ここまでは相手の正面への移動であり、この技の本当の攻撃はこれからである。

 クリスの背後に着地してから瞬時にクリスの正面に移動した天人は、移動した勢いを殺さず残したまま抜刀した。

 クリスの右脇腹わきばらの付近で抜刀した天人の攻撃を、回避も防御も間に合わずクリスはまともに食らってしまった。

 さいわいにも、天人は大太刀おおたち刀背みねでクリスの右脇腹を打っただけだったので流血沙汰ざたにはならなかった。

 SPCは警察組織の一つである為、事件の犯人は人命に関わらない限り生かして捕らえなければならない。

 またこの場にはマリアも居る。一一歳の少女に人が血を流して死に行く様を見せまいとしての刀背打みねうちでもあった。

 刀背打ちとは言え、天人が回転した勢いを上乗せされた衝撃しょうげきに、クリスは意識を失いひざからくずれ落ちた。その際力の抜けたクリスの左腕は自然とマリアを開放する。

 クリスは白目をいており、完全に気絶していると判断した天人はクリスの両手を後ろに回し手錠てじょうを掛けた。

「クリス・バーナード、不法侵入ふほうしんにゅう窃盗せっとう傷害しょうがい誘拐ゆうかい殺人未遂さつじんみすい及び銃刀法違反じゅうとうほういはん全ての重要参考人として逮捕たいほする」

 言って天人は背後に視線をやって紫愛莉が他二人を拘束しているのを確認すると、ヴェルナードに連絡を取り、マインの方も片付いたと知る。そして自身が事件の首謀者しゅぼうしゃを確保した為、CSIとFBIを保健室へ向かわせるよう告げた。

 マリアはというと、犯人が確保された安心感からか座り込んでしまっていた。天人はそんなマリアが心配になり、マリアの元へ行く。

「怖かったか?」

 しゃがんでマリアと視線を合わせた天人の問いに対しマリアは、

「天人が来るって信じてたから平気」

 天人の顔を見て完全に安堵あんどし、にこりと微笑み言った。

「そうか」

 天人もマリアが無事であったことに安堵して微笑み、マリアの頭をくしゃくしゃとでた。

 そんな微笑ましい空間が生まれてしばらく経つとCSIとFBIの職員が現場に到着した。天人は犯人達をCSIとFBI、事後処理を紫愛莉に任せ、天人は大変な騒動があったにも関わらず微笑んだマリアを心配に思い外へ連れていった――

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