第7話 SPC異能者・異種族犯罪対策課6

 捕らえた犯行グループのメンバーを尋問じんもんして誰の命令で動いたかを特定しようと試みた。こういった大きな騒動の裏には何者かが絡んでいるのではないかと。

 しかしその結果は芳しくなく、全員口を割らなかった。

 そこでFBIの職員が話せば刑期を短縮すると司法取引を持ちかけたところ、一人が口を割った。

 その一人と二人だけで話し合ったFBI職員は、しばらくして天人の元へ早足で向かって来た。

まずいことになった」

「拙いこと、とは?」

 天人の問いかけに、FBI職員は苦い顔をして再び話し始める。

「結論から言うと、ここには赤報隊せきほうたいのボスはいない」

「ならばどこかから指示を出していたか、あるいは事態はすでに最悪化はしているということか」

「それだけなら君達が来てくれた分まだいい。突入したCSIの一人がここの教員から聞いた話によると、そちらが思っていた通り事態はすでに最悪化しているようだ」

 天人はFBI職員の話しの続きを沈黙でうながす。

「この騒動が起きる少し前に、ここの児童が二人保健室へ向かったそうだ」

 この言葉に天人は身体を強張こわばらせた。天人の周りにいたSPCメンバーもそうだ。

 ことの重大さに天人の隣にいた紫愛莉が挨拶あいさつ以外で初めてFBI職員に口を開いた。

「この大騒動の少し前……ということは、その二人が体育館を出る前からひそんでいた可能性が浮上しますね」

 続けて天人が言う。

「だとしたらその二人が危険だ」

「ですな。我々の方からも応援を寄こそう」

 FBIとの話し合いが一段落すると、突然ヴェルナードが発言した。普段大人しい彼が、明らかに語調を強くさせていた。

「保健室の入り口に三人の敵影。左右の二人は機関銃アサルトライフルで武装、中央の一人は武装が見られない。おそらく――」

 異能者・異種族ストレンジャーだ。それはこの場にいた全員の脳内に浮かんだ名詞だった。それが分かってか、ヴェルナードはそこで発言を止めた。

『ボス、ヴェルの言う通り彼らは保健室にいるよ。それともう一つ最悪なお知らせだ』

 ヴェルナードの発言直後、SPCのオフィスから通信が入った。ニコライだ。ニコライの声はいつも明るく楽し気な語調だが、普段とは違い語調が強く、そして棒読みに近い話し方だった。

 天人はニコライのその発言の仕方で、最悪の知らせが何か脳に浮かんでいた。

「マリアもそこにいるんだろう?」

 先程から体育館を見渡せど、マリアの姿がどこにもない。

 普段から大人びているといっても、マリアはまだ一一歳の子供だ。泣きはせずとも、安心を求めて天人の元へ寄って来るはずだ。

 天人はそう考えていた。マリアが事件に巻き込まれる事は頻繁ひんぱんではないが、今までに何度かあった。その度事件収束後は天人の側から離れようとしなかった。

 しかし現在それがない。つまり天人が言った言葉は、ニコライだけでなくSPCメンバー全員に向けて放った言葉だった。

『正解。人質に取られている可能性が高いね。マリアちゃんの能力は年齢的に未知数。それに僕たちが理解している彼女の能力じゃあ、銃を持った大人二人と大人の異能者・異種族ストレンジャー一人を相手にするのは不可能だと、ボスも分かっていると思うけどね』

 ニコライが言ったことは的を射ている。

 天人の決意はすでに固まっていた。救助する対象が自身の妹なだけに、それはより一層強く感じられた。

「ヴェルは虫を飛ばして残存兵力の捜索そうさく、ニコライは彼のサポート。マインは二人の指示で対象の無力化及び確保を警察、CSI、FBIと協力して全員生かして拘束。アナとシェリーは俺と来い」

 そういうと天人は来ていたロングコートを脱いだ。

 天人がロングコートを脱いだ理由、それは寒いからではなく自身の武器である刀を隠す為であった。

 刀身が長めの大太刀おおたちだ。そしてそれを扱うに相応しく鍛えられた肉体が、それを証明している。

 ロングコートはこの大太刀を隠す為着ていたわけだが、今はその必要がなくなった。

 マリアを助ける為、天人は自らが保健室にいる残存兵力を取り押さえるつもりだ。




       ――




 SPC養成助学校ようせいじょがっこう初等部の保健室前、何事もなくこの場にいる天人と紫愛莉、アナスタシアは中の状況をヴェルに確認させていた。

『窓際に異能者・異種族ストレンジャーと思われる男とマリア。他の二人は入口側』

 ヴェルからの連絡をもとに、天人は紫愛莉に作戦を伝達する。

 天人からの作戦を聞き、紫愛莉は黙って頷いた。

 天人は自分が扉を開けるのを作戦開始の合図とし、そして天人が勢いよく扉を開けると、機関銃アサルトライフルを持った敵二人がこちらに銃口を向けいつでも発砲出来る状態にあった。

 敵の行動については予測が出来ており、近づくと発砲することも予想の範囲内だ。天人が紫愛莉に伝えた作戦はこうだ。

 天人が扉を開けるのを合図とし、敵の位置を把握次第武器の無力化を行う。

 紫愛莉はその通りに行動した。

 機関銃アサルトライフルを持った敵二人は突然自分の武器がバラバラに分解されたのに対し、何も抵抗できずその現象を見ているしかなかった。

「SPCだ。全員おとなしく投降しろ!」

 天人が警告けいこくする。

 しかし、敵のボスと思われる男はマリアにナイフの形をした光りのかたまりを突き付けており、そのままでいた。

「下がれ! 人質がどうなってもいいのか!」

 男はまったく動じない。

「その娘を開放しろ。その娘は関係ないだろう」

 警察組織特有の説得を試みるが、男は投降しようとしない。

「関係なくはないな。将来有望なSPC隊員になるかもしれないからな」

 普通なら悲鳴を上げても不思議はない状況であるのに、マリアは全く動じていない。自分の兄が来て安心しているからだ。

「お前が『赤報隊せきほうたい』のボス、クリス・バーナードで間違いないな」

 天人は男のことを知っていた。以前から捜査している「赤報隊」について調べ、組織のボスの名前と素性について知っていた。

 クリス・バーナードは異能者・異種族ストレンジャーである。光を自在に変化させ具現化させる異能者だ。

 鉄製のナイフを使わないということは、向こうもある程度こちらについて知っているということだ。

 あの光のナイフがどれ程の殺傷能力を持っているのか、それが分かるまでは下手に動くことが出来ない。

 天人は敵の隙を誘うため、対話することにしたのだ。

「その通り。俺がクリスだ。『赤報隊』を務所に入れたところで、お前らは子供一人救えなかったとマスコミに報道されるのだ。そうしてSPCのクソ共は無能だと世間に教えてやらなきゃなぁ」

「止せ、そんなことをしても何にもならないぞ。マスコミに対する圧力をかけたところで簡単に揉み消されるぞ」

 天人はさらっと警察組織の裏事情を告げたが、本当にするかどうかはまた別の話しだ。ここでそういったのはあくまで敵を揺さぶる為だ。

「それでも俺はやらなきゃいけねぇんだよ! てめぇらサツに止められてたまるか!」

 激情したクリスが光のナイフをマリアに突き刺そうとした時、ヴェルナードの操るむし達がクリスの視界をおおう。

 クリスは視界を確保しようと光のナイフを変化させ前方向全域に光を解き放った。

 紫愛莉は左方のベッドに飛んで回避したが、光を浴びた蟲達は次々と焼けていき、跡形もなく姿を消した。

 視界を確保したクリスがまず目にしたのは、回避した紫愛莉だった。そこに天人の姿はない。

 クリスは天人をったと思い込んだ。しかし、そう思い込んだ直後にその思い込みが偽りだったことに気付く。

 クリスの見た紫愛莉は、クリスのいる斜め上前方を見ているのだ。クリスは慌てて天井を見た。

 そこには天井に足を着け、大太刀おおたちを抜刀しようと構えている天人がいた。

 クリスは咄嗟とっさに光のナイフを再度作り出す。しかしそれよりも速く天人は抜刀した。

地天変化じてんへんげ流―壱ノ型いちのかたとう』――」


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