第4話 SPC異能者・異種族犯罪対策課3
――SPCフロリダ州マイアミ支部の扉は、荷物で手が塞がっていたり、容疑者の身柄を拘束していたりする為、全て自動ドアになっている。その為
扉が開くと同時、すでに何人かの対策員がオフィスに集合していた。
「やっと来たわね朝ごはん」
マリーナは一瞬ドキッとした。
ここは
実際はそうではないようだが。
そんな過激な想像をしていると、コーヒーのツンっとした臭いで現実に引き戻される。
「しゃーねぇだろ。全員分買ってくるとなりゃ
マインはデスクの上に抱えていた紙袋を置くと、最初に発言した金髪の女性に紙袋から出したコーヒーとホットドッグを渡す。
「そら、ノンシュガーのブラック、ホットだろ」
「サンキュー!」
金髪の女性は奪い取るように受け取ると、早速コーヒーに口をつけた。
「ヴェルのはちみつ入りミルクティーとアップルパイのセットはこの袋に入ってる」
金髪の女性に渡したコーヒーとホットドッグの袋の残りという意味で、マインはヴェルと呼んだ男性に袋ごと渡した。
ヴェルと呼ばれた男性は自分のデスクと思われる場所に戻ると、袋の中を取り出し始めた。
それと同時、奥の窓際にある一際大きなデスクのサイドにある扉の片方から、眼鏡をかけたブロンドの髪の眼鏡をかけた少年が出てきた。
「おはようマイン。僕と彼女の分はどこだい?」
眼鏡をかけた少年の声は見た目通り、少年を思わせるような声変わりのまだ来ていない高さだった。
「お前らの分はこっちの袋の中だ。おいマリーナ、お前の持ってるそれだよ」
マインの指摘で、場の雰囲気に流され固まっていたマリーナのフリーズ状態は解除された。
「あ、はい! こちらです! どうぞ」
ブロンド髪の少年はどうもと言って受け取った。
少年が中身を確認しようと袋を開けると、スコーンとベリー系のジャムの甘い香りがした。
その香りがオフィス内を漂い出した頃、少年が出てきた部屋からもう一人、少年と同じ年齢くらいの少女が出てきた。何故か白と黒のみの色彩で、ゴシック調のゴスロリ衣装をきており、東洋人のような綺麗な黒髪をしている美少女が目を
今まで眠っていたのだろうか? マリーナは早起きが苦手な子供が多いということは知っていたが、仕事場で二度寝している姿を想像すると何だか微笑ましく思えてくる。
「リリア、君の分もちゃんとあるよ。一緒に食べよう」
「……うん」
少年が少女に歩み寄りながら食事の提案をすると、まだ眠たいのか目を擦りながら少女は頷いた。
一通り配り終え、今更ながらに見渡すとそこまで大きなオフィスという訳でもない。デスクの数しか人がいないと考えると、丁度デスク分の人数がいられるくらいの部屋の広さだ。
……そういえばまだ一番奥のデスクには誰もいないけど、たぶんここの局長だよね。今外に出てるのかな? 早く挨拶しておかないと……。
心中でマリーナがそう思っていると、隣にいたマインはただ一ヵ所を見つめたままだった。
気になったマリーナもそちらを向くが、そこにはスーツ姿の女性がデスクに突っ伏していた。
それを見ていたマインの胸中を読み取ったのか、金髪の女性がマインに告げた。
「シェリーったら、まーた彼氏に別れ話持ちかけられたんだって」
金髪の女性の言葉を聞くなり、スーツ姿の女性は突っ伏したまま騒ぎ出した。
「ま・た・か。お前みたいな堅物女とずっーと一緒にいたい男なんてそうそう居るはずもないだろうが」
マインが茶化したように、声をデカくしていった。
するとスーツ姿の女性は勢いよく上体を起こしマインを
「うるさいわね! あんただってこの前一緒にバーにいた娘に振られたって言ってたじゃない!」
「いいんだよもうその話しは! 前の彼女と縒りを戻したんですぅ! てめぇなんか振られっぱなしじゃねぇか!」
スーツ姿の女性にマインは言い返した。
それに負けじとスーツ姿の女性も言い返す。
「放っといてよ! あんたなんかに私の気持ちが解かるはずないもの……うわーん!」
言い返して、スーツ姿の女性は泣き出し再び突っ伏してしまった。
マインはそっぽを向き、決して振り返ろうとはしなかった。
マリーナは自分が放置されている現状をなんとかしようと、控えめに発言した。
「あ、あのぅ、私は……」
恐る恐る発言したマリーナに気付いたのは金髪の女性だった。
「あーごめんね、見苦しいとこ見せちゃって……。とりあえず皆自己紹介していこっか」
金髪の女性の最後の一言で、その場にいた全員がその女性に注目する。
「それじゃあ私から。私はアナスタシア、アナスタシア・ロビンソン。皆私のことアナって呼ぶのだけど、好きに呼んでちょうだい。私はここの局長補佐で、
アナはフレンドリーな対応で、モデルのようなスタイルに人を引き付けるような存在感がある。そして女優のオーラみたいなものが出ているようにも見える。
そしてアナは自らを
アリーナはそう思うことにした。
「俺はさっきいったからいいだろ」
そういって自分をスルーさせようとしたマインにアナは目を細めて言った。
「へぇ~。ならあんたが何なのかも言ったの?」
マインは舌打ちをして「分かったよ!」と言ってスルーされるのを諦めた。
「さっきも言ったが、俺はマイン・スミス。種族は
それで肌が青白いのかとマリーナは思った。
「じゃあ次は私いい?」
スーツ姿の女性が手を挙げた。いつの間に上体を起こしたのか分からなかったが、泣いていた
「私は草壁紫愛莉。
紫愛莉が言ってすぐ、マインがマリーナの耳元で囁く。
「な? 堅苦しいだろ」
マリーナは苦笑いをするしかなかった。
「ちょっとマイン、変なこと言ってないでしょうね?」
紫愛莉の眼力にマインはマリーナから遠ざかる。何も言っていないという合図か、それともこれ以上何も言うつもりはないという合図なのかは分からない。しかしこれ以上言うつもりはないと捉える方が妥当かもしれない。
「ヴェルも自己紹介したら?」
アナの一声で、ミルクティーの香りを楽しんでいた青年が立ち上がる。
「自分はヴェルナード・ハルバート、異能者よりの異種族だ。
そう言ってヴェルは背中にある羽を広げて見せた。
「すごいですね! 飛べたりするんですか?」
勿論とヴェルは頷いた。少し間をおいて話しを再開した。
「あと、自分特有の能力で虫達と会話したり、命令したり出来る」
「索敵や探索なんかに向いてんだよな、お前の能力」
マインがヴェルの能力の実用性について軽く触れた。
そのフォローにヴェルは無言で二度頷いた。まさにその通りと言わんばかりに。
そして一番部屋の奥にいた少年と少女は自分達が最後だと分かり、マリーナの方へ向く。
「やぁ、初めまして。僕はニコライ・W・ベートホーヘン、一応能力者ではあるんだけど、基本解析や現場のサポートをしてるよ。こっちの娘はリリア・B・ミュラー。彼女は
ニコライは自分と基本無口のリリアの代わりに何者であるか告げた。
マリーナが関心した表情で頷いたのを見て、誰もが思うであろう疑問のことについて、眼鏡を持ち上げながら告げた。
「ちなみに、僕もリリアも二五歳だからね」
その発言にマリーナは驚愕したが、それを表に出すのは失礼だと、押し殺そうとした。しかし、
「こいつら全然二五歳に見えねぇだろ?」
マインがニヤついた顔で言ってきたが為に、驚きを隠せなかった。
「あ、すいません!」
それを聞いたニコライは「いいよいいよ」と片手で制した。
「気にしないで。誰だって驚いちゃうよね、こんな子供がって。まぁ、わけあってこの姿のまま成長できないんだよね僕達」
マリーナはその言葉に安堵し、ホッと息を吐く。
そして周りを一度見渡したニコライが言う。
「一通り終わったかな。あとは、今日も遅刻の僕らの
「――その妹ちゃんで全員かな」
ニコライの発言を中断させ、アナが続きを奪っていった。
それに対しニコライは怒った様子一つ見せない。むしろ気にしていないようだ。これが日常なのだろうとマリーナは受け止めることにした。
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