第3話 SPC異能者・異種族犯罪対策課2

 SPC養成助学校ようせいじょがっこう、ここではSPC養成所に行くための基礎知識を身に付ける為に、三工程による、学科と一般教養を習得しなければならない。一般教養というのは、日本の小(六年)・中(三年)・高(三年)(フランス式の学制)という九年間の過程において習得必須の義務教育である。それに合わせるため、小・中・高の三工程に分け、SPCになるための基礎知識を身に付けていく、というのがSPC養成助学校である。

そしてこの高等部までの工程を終えた者は、その上の養成所へと上がっていくのである。

 この学校の初等部は本日が新学期当日であり、新たな学年を迎えた児童達がクラス分けを確認し、始業式の会場である体育館へと入って行く。

 前の学年での友達と同じクラスになれた者、逆に離れた者もいるが、時間が経つに連れて慣れていくものである。そうやって子供も日々成長するのだ。

 そんなにぎやかであわただしい場所に、今年初等部最高学年になるマリアは一人で登校した。

 無論マリアにだって友達はいる。ただ通学する際には時間が合わないため、会えるのはいつも教室に入ってからになるのが日常なのだが。

 クラス分けの掲示場所には人だかりが出来ており、ようやく見える位置まで進めたマリアはよく知っている声に呼び止められた。

「マリアちゃんおはよう。私たちまたおんなじクラスだよ」

 マリアと同じ背丈で、マリアの後ろ髪をそのまま腰まで伸ばしたような髪型、如何にも小学生と思われる初々しく、幼さの残る満面の笑顔をした少女がマリアに近寄って来た。

 少女はマリアの友人である月原沙夜さよ。入学してから今まで一度もクラスが違えたことはなく、二人は親友と言ってもおかしくないぐらいの仲である。

 沙夜自身は人付き合いが得意な方ではない。人見知りで、恥ずかしがり屋で臆病おくびょうである。

 一年生の時一人でいた沙夜に、当時隣の席だったマリアが声掛けしたことがきっかけで親しくなった。

「おはよう沙夜。よかった、また沙夜とクラスが一緒で」

 普段から一一歳としては愛想のない無表情を貫き通しているマリアでも、親友の前では流石に笑みが浮かぶ。

「私たち四組だって。たんにんの先生は見たことない名前だったね」

 自然な会話をしつつ、二人は始業式が始まる体育館へと歩き始めた。

「なんて名前の先生?」

「えっと、佐島マリアって先生だったよ。マリアちゃんとおんなじ名前だね」

「マリアなんて名前そう珍しくもないと思うよ?」

「そうじゃなくて、いい名前だなぁって。聖母マリア様とおんなじ名前で、ちょっぴりうらやましいな」

「よしてよ。恥ずかしいな……」

 照れた様子一つ見せないで、マリアは笑顔を見せる。

 二人の会話は弾んでいき、いつの間にか違う話題へと変わって行った。今年度で初等部を卒業すること、中等部へ上がったらしたいこと、将来どんなSPC職員になりたいか……。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、二人の中では数十秒、本来なら五分程度には時が過ぎていた。

 始業式の開始まではまだ一〇分程余裕があったが、体育館の入り口にいた教員には急ぐよう注意された。

 体育館へ入ってすぐのところで、案内役の教員が学年と組みをたずねており、児童が自分のクラスを告げると場所を告げられ、来た順番に詰めて椅子に座る仕組みになっている。

 マリアと沙夜のクラスは入口側の右から数えて二番目の場所だと告げられた。

 椅子の数は毎年そのクラスの人数分しか用意されていない。空いている椅子は二つしかなく、どうやら四組の最後はマリアと沙夜だけだったようだ。

 急いで空いている椅子に座ったマリアと沙夜は、周りの女子から話しかけられた。その中には見知った顔があり、初めてみる顔もあった。

 そして一通りお互いの自己紹介を済ませたところで、司会からの注意が促される。徐々に静かになっていく体育館が、完全に静まり返ったのを見計らって司会が開式の進行を始める。

 司会の進行により始業式は校長の挨拶あいさつに始まり、長々とした新学期に向けての心構えや春期休暇中の反省事項、明日に行われる新入生の入学式についてなど在り来たりな話しが一〇数分経過した時、隣にいる沙夜の異変に気付く。

「どうしたの沙夜、お腹痛むの?」

 腹を押さえてうずくまっている沙夜にぼそりと声をかけた。

「……う、うん……! さっき、はしっ……たのが……だめだった、みたいっ……!」

 沙夜の身体が弱いことをマリアは知っていた。先程教員に急かされ走ったことでこうなるのではないかとマリアは懸念けねんしていたが、それが的中した。

 たまたま近くにいた保健教師が沙夜の様子に気付き駆け寄って来た。

 式典中ということで足音をほとんど立てず駆け寄ってきた保健教師に感心する暇もなく、保健教師の言葉に従わざるを得ない状況にあった。

「月原さんお腹のどの辺りが痛むの?」

 沙夜は手を動かさず、ずっと同じ箇所を押さえている。

 保健教師は沙夜の体調のことを知っていた。沙夜はよく腹痛で保健室に行くことが多く、両親から腹痛止めを渡されているが、入学したての頃薬を家に忘れてきてしまい大騒ぎになったことがある。それ以来保健教師は沙夜のことに気を配ってくれるようになった。もう六年の付き合いと、保健教師の経験のたまものか、どういう症状か分かるようになっていた。

「そこが痛いの?」

 保健教師の問いに沙夜はうなずいた。

「神原さん、月原さんを保健室までお願い出来る? 私は他の生徒が体調を崩した時いないといけないから動けないの。薬はいつもの所にあるし、保健室のコップ使って大丈夫だからお水くんであげて」

 入学したての騒動以来、また忘れては大変だからと保健室に沙夜の腹痛止めを置かせてもらっている。保健教師の言っている薬とはそのことだ。

「わかりました。ほら沙夜、歩ける?」

「……うん……! 大丈夫、マリア……ちゃんっ!」

 マリアが手を差し出し、沙夜がその手を取ってゆっくりと立ち上がる。

「ありがとう神原さん」

「沙夜の友人ですので当然です」

 保健教師に対しても無表情に、しかし敬意を込めて言った。

 そしてマリアは沙夜を連れ、保健室へ急いだ。

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