第16話世界最強剣士漆黒のシュウVS魔王軍勇者担当オケラ

「魔王軍を倒すって、何処にいるか分かってるの?」

エリカはシュウの後ろを追いかけるように話した。シュウ達は少しばかり早足で歩いており、王邸から中心街に向かう途中にある江道院に向かっていた。

「探す必要なんかないよ。」

「え・・・どういうこと?」

エリカ達は首を傾げている。それを見てシュウは溜息をつき「やれやれ。」といいながらかぶりを振った。

「ここに来るまでに江道院っていう寺があっただろ?本来はあそこで毎回召喚の儀が行われているんだ。魔王軍が本当に召喚の儀を狙っているんなら俺がそこで適当に召喚をして連中をおびき出せばいいって事。」

エリカ達はそれを聞いて「ああ、なるほどー。さすがシュウ君。」と言い納得した様子になった。

「でも良かったの?あの勇者達を放ってきて。ナミカミ様の使いを呼び出したら後々厄介になるんじゃないかな?」

エルマの質問にもシュウは動じず余裕の笑みを浮かべながら淡々と答える。

「本当なら願いとかどうでもいいし魔王討伐は他の誰かに任せて辞退したいんだけどあの面子じゃ倒すのは無理そうだしな。まあ面倒だけど邪魔しにくるなら容赦しないよ。」


石畳の通路を抜けて土で出来た階段下りていくと江道院の本堂が見えてきた。それと同時に下の方のちょうど本堂の前辺りから男や女の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

「ふむ、どうやら呼び出す手間が省けたみたいだな。」

シュウは階段を一気に駆け下り、本堂前の広場に目をやった。シュウの想像だと既に何人か襲われて被害者が出ているだろうと思っていた。しかしその予想は外れていた。何処を見渡しても人の血痕などは無く、最初に自分達がこの場所を通った時と変わっていないように思えた。違うのは召喚の儀を見に来たと思われる見物人の何人かが腰を抜かしたらしくその場に座り込んで皆同じ人物を怯えながら見続けている。その人物は広場の中央に一人立っていた。くせの強い髪に白い長袖のカッターシャツ、そして銀縁の丸い眼鏡を掛けた優男。その男はシュウ達に気づいていないのか本堂の横に生えている大木をジッと眺めながらその場に佇んでいる。


シュウは後ろから追いついてきたエリカ達に振り向く事無く背中を向けて話した。

「ここは俺に任せておけ。お前たちは逃げ遅れている奴らを連れて離れてろ。」

エリカ達は暫くシュウを睨みつけた後にじり寄りながら話してきた。

「・・・相変わらずそのフラグっぽいことを言って戦いに行くのやめてよね。それといくらシュウが強くても一人だと何かと心配だわ。」

シュウは一旦間を置いた後キメ顔で三人の少女に向かって言った。

「・・・また服が吹き飛ぶ事になるぜ?次は手加減出来ずに下着諸共吹き飛ばしてしまうやも・・・。」

「なっ・・・!!なっ・・・!!」

エリカとエレナは自分の服を掴んで赤面になり恥ずかしそうな素振りを見せた。エルマは動じる事無くシュウの真正面から抱きついてきた。

「私は大丈夫だよシュウ君。どこでも吹き飛ばして、いいよ?」

「・・・エルマたん。お前はもう少し恥じらいというものをだな・・・。」

その様子をみたエリカとエレナは目の前で抱き合っている二人に組み付いて引き離そうとする。

「おいこら二人ともいい加減離れなさいっ・・・!!」

「おいおい、俺は別に悪くないだろ?」

「もう!分かったからさっさと行って!!」

エリカとエレナに無理やり引き離され足蹴にされたシュウは蹴られた尻をポンポンと軽く叩き「やれやれ。」と呟きゆっくり歩きながら中央に立っている男に近づいていった。その間にエリカ達はその場に座り込んでしまっている人達を連れて中心街の方に降りていった。


シュウは相手に声が聞こえるだろう距離まで近づくと普段より少し大きめの声で男に話しかけた。

「ここに侵入してきた魔王軍っていうのはあんたか?」

男は言葉を聞くと視線をシュウに向け嬉しそうに微笑んだ。

「・・・良かった。もしかして勇者様の関係者の方ですか?こちらで召喚の儀が行われると聞いてやってきたのですが・・・。」

男はその後何かに気づいたのかハッとした顔になりたて続けて話しだした。

「ああすみません、申し遅れました。去年より魔王軍勇者担当になりました。オケラと申します。」

自分の身分を隠すこともせず普通に受け答えをしてきた事にシュウは少し驚いた。話し方は人に化けた魔物というよりまるで普通の人間のような印象を受けた。しかしその「普通」がシュウはどこか不気味に感じた。

「・・・第一修道教会に雇われている村人Aのシュウだ。あんたか、人の姿をした魔王軍ってのは。基本的に人間の殺生はしない主義なんだがあんたが魔王軍に肩入れしていて、俺のゆったり日常ライフを邪魔する可能性がありそうだから手加減はしないぜ。まあ、悪く思わないでくれよな。」

シュウはそう言うと腰にさげた二刀の黒剣の内の一本を抜いて構えた。オケラはその様子を見て更に嬉しそうな表情になった。

「なんとあの最強の村人剣士と名高いシュウ様でしたか!ああ、良かった。しかしその様子だとここで行われるはずだった召喚の儀については教えて頂けないのしょうか。」

「教えてやる義理がないんでね。」

オケラは少し残念そうに俯いた後、再びシュウに向き直った。

「そうですか・・・いえ、最初にこんなお強い勇者様に相対する事が出来たんです。それだけで私は感激です。ありがとうございます。」

人語を話す魔物は何度も見てきたがここまで物腰が低い相手は初めてだったのでシュウは少し調子が狂いそうだった。オケラはシュウに小さく頭を下げた後、急に何かを思い出したように唐突にカッターシャツの胸ポケットに入れていたお守りサイズの巾着袋を取り出した。

「ああ、折角だからお前達も挨拶しなさい。」

オケラは巾着袋の紐を緩めて口を下に向けた。シュウはオケラが使役している魔物か呪の類だと感じその場から数歩下がり警戒した。しかし一向に巾着袋から出てくる気配はなかった。

「ん?・・・あれ?どうしたんだろう。」

オケラは何度も巾着袋を下に向けて上下に振ってみたが何も変化は見られなかった。

「・・・おい、なんのつもりなんだあんた。」

「す、すみません。どうも恥ずかしがり屋みたいで・・・。」

取り繕ったような笑みを浮かべていたオケラは業を煮やしたのか巾着袋から手を放して地面に落としてみた。すると口は開いているはずの巾着袋が風船の様にどんどん膨れあがっていく。そしてオケラの背の高さ辺りまで膨れあがった。その様子を見たオケラは「あ、怒ってしまいました。」とポツリ呟いた。次の瞬間、巾着袋の口から一斉に弾け飛ぶように辺り一面に飛び出てきた。全身が墨汁よりもさらに黒いもので出来ているような黒色で染め上げられた生物のような「何か」。形には個体差があり動物の様な見た目もいるがどれも液体が這い回っている様に動いている所を見るととても生物とは思えなかった。シュウはこれを知っていた。自分達が教会からここに向かっている道中に現れた教会や東ノ宮では「カゲ」と呼ばれるものたちによく似ていた。

シュウは目の前に飛び込んできた数体のカゲを後退しながら剣で軽く薙ぎ払った。簡単な斬撃程度では倒す事は出来なくても動きを止める事が出来ることは前回の戦いで知っていた。そして自身の剣を前に突出した。その瞬間辺り一面に飛び回っていたカゲはなんの前触れもなく、跡形もなく消し飛んだ。

しかしオケラは大して驚く様子もなく辺りを見渡している。

「なんと、吹き飛んでしまいましたね。」

(・・・あれっ!?)

シュウはこの状況に内心驚いていた。何故なら今、カゲはもちろん目の前に立っているオケラすらも吹き飛ばしたつもりだったからだ。しかし顔には出すまいと相手に悟られないよう平静を保ちつつオケラに話しかけた。

「・・・この化け物を連れて歩いているって事は少し前にスダ王主動の魔王討伐大隊をほぼ壊滅させた魔王軍の元締めはアンタだったって事でオーケー?」

オケラは暫く何を言っているのか分からず少し首を傾げていたが、思い出したのか手の平の上に拳をポンと叩いた。

「ああ!魔王城近くまで来た方々の事ですね・・・。確かにあの時も大量に『彼ら』を使いましたね。あれはとても有意義な時間でした。」

オケラは子供のような純粋な笑顔になり胸に手を当てながらシュウに答えた。

「それにしてもすごいですね、・・・シュウ様でしたか。今の炎と風で彼らを消し飛ばしてしまうとは・・・。」

「・・・。」

(今の爆炎を防いだだけでなく見えている!?どういう事だっ・・・!俺のスキルが通じていないのか!?ちゃんと効果範囲内にいるのになんで、どういうことなんだよ?!)

シュウは平静を保とうとしたが焦りと不安が勝ってしまい、苦虫を噛み潰したような顔になった。

オケラはシュウの様子を不思議に思い眉間にしわを寄せ小首を傾げていたが直ぐに笑顔になり右手を広げて手の平を地面に向けた。すると消えたはずのカゲ達がどこからともなくオケラの右手付近に集まり始めた。

「少し興味が湧きました。・・・誠に恐縮ですがあなたを少し見させて頂きます。」

集合したカゲ達はオケラの手元で分裂と再生を繰り返し一刀の黒剣に姿を変えた。刃渡りはシュウの持つ黒剣によく似ているが所々生き物の様に脈打っており柄から剣先にかけてどこか形が定まっておらずすぐに分裂してしまいそうな危うさを感じさせた。オケラはそのカゲの柄であろう部分を取るとシュウを見て新しいおもちゃを買ってもらった少年の様な顔になった。


















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