第15話召喚の儀
アライ達は神官のマブチに言われた通り王邸前の広場まで出た。先ほど自分達が通った時とは少し様子が変わっており人通りがほとんどなく王宮前に何人か人影が見えるだけになっていた。そして広場の中央を囲むように竜、鬼、天使を表現して作られた土製の像が置かれていた。アライはこれらの像を子供の頃に初めて見た時からあまり好きではなかった。この三体の像は召喚の儀を行う時に必ず用意される物で、ナミカミが人類の為に贈った平和の象徴といわれている。そういわれるだけあって一体ずつに偉大さや神々しさを感じたがその反面、その顔や立ち姿にどこか禍々しさもアライは感じていた。アライ達はマブチに先導されるように広場の中央まで歩いた。するとマブチは立ち止りアライ達に向き直った。
「・・・それでは早速ですが召喚の儀を行います。」
マブチがそういうといつの間にかその場から居なくなっていたマイと侍女二人が後ろからそれぞれの台車の上に木製の勉強机を乗せ歩いてやってきた。
「え・・・・・机?」
一見、東ノ宮の教育施設で使われている一般的な勉強机で引き出しが一つ付いているだけで特別な施しはされていないように見えた。神官以外の人間が首を傾げているとマブチは咳払いを一つした後に口を開いた。
「えー・・・今から勇者様達にはこの机についている引き出しに手を突っ込んでナミ神様の使いを引っ張り出してもらいます。」
「・・・。」
雑ぅっっ!!アライは素直に思った。今まで自分が見てきた召喚の儀と比べると色々と適当な気がしたので流石に質問せずにはいられず、アライは手を上げながらマブチに質問をした。
「あ、あの~。」
「うむ・・・なんでしょうか勇者アライ。」
「僕が前に見た召喚の儀では大きな水晶玉とか祭壇とかもっと色々召喚するのに重要そうなものを用意してたような気がするんですが・・・。」
マブチは少しの間首を傾げていたがその後ゆっくり口を開いた。
「・・・んああ、あれは儀式を見に来た方々を魅せるための演出の一つです。今回は急を要するとのことですのでこの方法で行う事にしました。どちらでも結果は変わりませんので気にしなくても大丈夫ですよ。」
「え、じゃあ『顕現せよぉっ!!』とか『天秤の守り手よー!』とか呪文みたいな事を言ってたのも・・・。」
「・・・んああ、演出ですね。言いたい方がいれば個人で自由にお願いします。」
「えぇ・・・。」
アライは子供の頃に召喚の儀で勇者達が個別に呪文を唱えている場面を見た時正直ちょっとかっこいいなと思っていただけあって少し裏切られたような気分になった。
「んー・・・それでは早速勇者の方々、机の前まで移動してください。」
ナツメとフードの男は何の迷いもなく机の前に近づいた。アライは机の様子をじっくり観察するようにゆっくり近づいていった。マブチは勇者三人が机の前に立った事を確認すると暫く目を閉じた後両目をゆっくりと開いた。
「では、引き出しを開けて好きな方の手を入れて下さい。」
そう言われるとナツメは他の二人より先に机の引き出しを開けてみた。中を見ると引き出しの形状からして底は浅い筈なのに何処までも黒く深い暗闇が続いていた。ナツメは「うへぇ。」と言った後軽く深呼吸し、右腕の羽織の袖をまくってゆっくりと暗闇が続く引き出しに手を入れていった。手を入れてみると中は底なしになっており気づいたら肘の近くまで入ってしまった。その様子を横で見ていたアライは口をポカンと開けていた。
「勇者ナツメ、もうそこまで入れれば十分ですよ。」
「で?この後どうすればいいの?何も感覚ないけど。」
ナツメは引き出しの中を見ていると次第に引き込まれそうな錯覚を覚えたので正面に見える王宮の方を見ていた。
「・・・もう少しお待ちを。手を入れるまでは皆さん一緒にやってもらわないといけませんので・・・。他の二人がまだです。」
ナツメはアライの方を見ると机の引き出しの中を凝視しながら固まっていた。
「こらアライさっさと手、入れなよ。」
「お、おう・・・・・・。」
アライは一応は返事するが一向に引き出しに手を入れる素振りを見せない。
「・・・まさかビビっ。」
「いや、いやいやまさか別にビビッてないからっ!!そんなはずないじゃん!!なんなら手どころかこのまま体ごと飛び込んで軽く泳いできてもいいくらいだわっ!!!」
アライの必至に話をしてくる姿をナツメは呆れ顔で見ていた。
「うん、わかった。わかったからさっさと手を・・・。」
ナツメは途中で言いかけた所で話をするのを止めた。止めてしまった。アライを挟んで反対側にいたフードの男の行動に驚愕したのだ。先ほどまでアライと同じように引き出しの中の暗闇を眺めていたのだが唐突に動き出した。少し後ろに下がって机との距離を開けるとまるで水泳の飛び込みの様に頭から引き出しの中に入っていき、あっという間に体は見えなくなった。そして何事もなかったかのように机だけが残っており、そこから人が這い出てくるような様子はなかった。
「・・・ぎゃああああああああああ!!!」
アライはあまりの出来事に叫び声を上げた。ナツメは叫び声こそ上げなかったが驚愕してしまい声が出なかった。
「はえ~。中々物好きな方がいらっしゃる。」
マブチは感心したように自分の髭をいじりながら笑顔で何度も頷いていた。
「いや、あれ大丈夫なんですかっ!?」
アライは狼狽えながらマブチに質問した。
「召喚自体には支障ありませんよ。ご自身が無事かどうかは分かりませんが・・・。」
「な、何だよそれぇ・・・。」
アライは頭を抱えた。フードで顔が見えずどんな人間かも知らないが少なくとも勇者に選ばれた人間ならそれなりの常識なりモラルなりを持っているものだと思っていたのにとんだイカれたサイコ野郎だった事にショックを受けていた。
「こうなってしまうと何処で神の使いが実体化するか分からなくなってしまったのであの方については保留ということにしておきましょう。」
「・・・アライが泳いでもいいくらいだぁとか言うから。」
ナツメはアライに向かって溜息混じりに言った。
「いや、・・・俺は悪くない。あの状況だったら誰だって冗談だって分かるだろ普通・・・。もし本当にそうだとしたらノリ良すぎだろあいつ・・・。俺は悪くねぇっ・・・!俺は悪くねぇっ・・・!」
アライは自分に言い聞かせるようにブツブツと念を唱えるように呟いていた。
「とにかく時間がないっつってんだろぉ!!さっさとしろぉアライィ!!」
後ろからイワタの声が聞こえたので後ろを振り返るとイワタとスダ王の機嫌の悪そうな顔がアライを捉えていた。
「う・・・・・うぅ、くそぅ・・・・・。」
アライは若干涙目になりながらも自分の右手を引き出しの暗闇の中に手を入れようとした。あとわずかで指先が入ろうとする所でアライは手の動きを止め、ふと思った事が口から出た。
「・・・なんだかこの机ド〇えもんみた・・・。」
『はよしろ。』
アライ以外のこの場全員の息が初めて合った瞬間だった。
「アッハイ。」
アライは再び引き出しに手を入れようとした。しかしアライは不自然な事に気づいた。自分はまだ引き出しの中に指一つ触れていない。そのはずなのにすでに中の様子が変わってきていた。先ほどの暗闇とは打って変わって眩しすぎるくらいの光の束が収束し引き出しの中から覗かせ始めていた。
「え、うおぉっ眩しっ!!ちょ、ちょっと!!一旦これ閉めていいですか?!」
そう言うとアライは目を瞑りながら引き出しを即座に閉めた。
「・・・いんや、それはマズイよ。」
「・・・・・・へ?」
マブチが言った時にはすでに遅く、閉めた引き出しの隙間から先程の光が漏れ出した。そしてそれと同時に机事態が振動し始めた。振動は縦にどんどん大きくなっていき、それは限界を超えて台車から離れ宙に浮いた。その瞬間、アライの目の前で・・・・・・・・・・・・・・・・・爆発した。
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