第14話神官たち

 アライは先ほど自分が座っていた座布団に座り、額に手を当てながら呻いていた。

「うぅ・・・。いてぇ・・・。」

「この場の誰にも気づかれずに一瞬でスダ王のお気に入りの壺の中に入り身を隠す。もしかして、アライは忍者もしくは超能力使いなの?」

ナツメは興味津々な顔でアライを見つめていた。

「フッ・・・・・まさか俺の超能力『Bダッシュ』に気づくとはな。君のような勘のいい女は嫌いだよ・・・。」

アライは何の事だか分からないがとりあえず何かを企んでいるような悪い笑みを浮かべナツメに答えた。

「そう、あの赤き配管工の系譜だったとはね。アライが勇者に選ばれた理由が少しわかった気がするよ。」

「すいませんそんなものありませんごめんなさい。」

ナツメのノリの良い返しに耐えられなくなりアライはまくしたてるように謝った。

「別に謝んなくていいのに。」

ナツメは急に態度を変えてくるアライの様子につい笑みがこぼれてしまった。アライは笑われている事に関してはあまり面白くなかったが先ほど浮かべていた仏頂面よりこちらの方が可愛いと思ったのでツッコミはしない事にした。

「そ、そういう超能力者っていうのはあの真っ黒剣士みたいな事を言うんだよ。」

「・・・さっきの居合の事言ってる?」

「・・・おう。」

先程シュウの喉元にナガタとイワタの刀が届く寸前まで自分の剣を抜いていなかった。なのに次の瞬間にはシュウが抜いた剣が先にイワタとナガタの喉元に届いていた。並の人間の動きによる抜刀ではまず不可能な現象。アライは九割方剣技によるものではない何か別の力が働いたのではないかと見ていた。


「おいコラ二人とも話するって言ったろう、ちゃんとこっち向け。」

アライとナツメが正面を見るとスダ王が眉間にしわを寄せて二人を見ていた。威圧感たっぷりの目力にアライは冷や汗をかきながらおとなしくスダ王の話に耳を傾けることにした。

「神官から連絡がきた。魔王軍がすでに東ノ宮に入り込んでいる。そして魔物ではなく人の姿をしているらしい。」

場の空気が変わった。今までの魔王軍は近隣の町を襲いながら徐々に勢力を拡大していく事がほとんどで直接東ノ宮に現れるのは初めてのことだった。

「狙いはやはり召喚の儀でしょうか。」

「分からんがこのタイミングで来たということはその可能性が高い。よってこちらも予定を変えることにした。召喚の儀を急遽、ここの外で行う。神官の許可も貰っている。」

いきなりの事でアライは驚愕した。魔王軍がすでにここまで来ている。東ノ宮に攻め入るには最低でも三つの関所を突破しなければならない。しかし魔王軍に突破されたという話は出ていない。魔王軍の魔物による仕業ではない事と人の姿をした魔王軍という言葉にアライは一年前の魔王軍戦の事を思い出し、嫌な予感が脳裏をよぎった。息の乱れと同時に指先に余計な力が入ってしまう。


「ふむ、それが分かれば十分だな。」

アライの前に座っていたシュウは静かに立ち上がりスダ王に背を向け部屋を出ようと歩き始める。

「おいどうするつもりだ。」

「どうするも何も倒しにいくんだよ魔王軍を。そもそも俺がここに来たのは俺の他に選ばれた勇者がどんな奴かを見に来ただけだしな。パッと見たところ、大した連中じゃなさそうだったから無駄足だったけど。それに召喚の儀なんかやんなくても俺、自分で色々呼べるんで。」

シュウの発言に隣に座っていたエリカ達が驚き始めた。

『えええっ?!自分で召喚が出来るの?!』

「ん?・・・また俺変な事でも言ったのか?」

シュウはとぼけた顔で周りの人達を見渡した。

「そりゃ驚きもするわよ。召喚の儀なしに神の使いを召喚できるのは世界で数人しかいない神官のみなのよ。」

「そんな事も出来るなんてやっぱりシュウ君はすごいよ。」

一通りの賛辞を聞いた後シュウはスダ王の顔を見ずに背中越しに話す。

「まあ死にたくなかったらお前らはここで大人しくしているんだ。とりあえずその魔王軍を倒したら面倒だけどついでに魔王もやっつけといてやるからな。」

エリカ達に追従されながらシュウは手をヒラヒラ振りながら部屋から出て行った。その様子を見たイワタはシュウが町中で暴れる可能性を危惧した。

「スダ王、あの男如何致しましょう。」

「あれは止めても聞かんだろう。本当なら足をへし折ってでも止めたいが幸いまだ向こうは動きを見せていない。守備隊は民衆がパニックを起こす前に奴より先に魔王軍を見つけだして倒す事に専念させろ。それと民衆の避難ルートも確保しておけ。」

『はっ。』

イワタとナガタは返事をすると二人は立ち上がりナガタは先ほど自分達が入ってきたふすまから出ていき、イワタは正面左のふすまを開けて「では神官様お願いします。」と言った。すると隣の部屋の奥から腰がくっきりと曲がった白い髪と髭を蓄えた老人の男が出てきた。そしてその老人の影から腰の近くまで伸ばした銀髪が目立つ小柄の少女が追いかけるように歩いてきた。二人がスダ王の隣まで近づきアライ達の方に体を向けた。

「では頼む。」

スダ王が神官の二人に言うと老人の男が小さく口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・にょ・・・・・・・・・・・・・・・・・んゐ・・・・・・・・・・ぉィ。」

「・・・・・・・・は?」

老人の男は何か話したいようだが口をモゴモゴさせている。しかし何を言っているのか誰も分からずしばらくの間沈黙が流れた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ぁり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はべり。」

「おじいちゃん、・・・おじいちゃん。」

となりで黙って立っていた少女は老人の男の肩を左手でトントンと軽く叩いた。老人の男は少女の方に顔を向けた。その瞬間少女の小さな握りこぶしからは想像もつかない豪快な右フックが男の顎にジャストヒットした。老人の男は無言で顎を両手で押さえながら痛みで肩を震わせていた。

「・・・入れ歯ちゃんと入った?」

「ごっ!・・・・ほおっ!・・・お、おう。ありがとうよ。」

老人の男は涙目になりながら改めてアライ達の方に向き直った。

「・・・申し遅れました。私が東ノ宮神官のマブチ。・・・・・そして孫のマイです。これより特例による召喚の儀を執り行います。ここでは危険ですので皆さん王邸前の広場まで出てください。」











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