第4話大天使ルシア
天界
ルシアはちょうど陽の当たる自分の机の上で伸びをしていた。自分が担当していた第七界の仕事が一段落ついたからだ。大天使に着任してから直接現地に行く事はなくなったが今回の魔王討伐で相当の人間たちの被害と経費がかさんだこともあり天使統括のシン並びに他の大天使達へのあいさつ回り、死神達との交渉、ことのいきさつ、顛末の報告書の作成に追われていた。何か自分が思い描いていた大天使生活と違うとルシアは思ったが下界で働いている天使達を思うと大した事ではないと思えた。ルシアはしばらく机の上で横になって丸くなっていると部屋の扉からノックの音が聞こえた。
「失礼します。」
名乗りはしなかったがいつもの聞き覚えのある声だったのでルシアは「どうぞ。」と言い、中に入れることにした。
「申し訳ありません。お休み中でしたか。」
女型の天使はルシアの様子を見てバツが悪いと感じたのか神妙な顔つきになった。
「構いませんよ。どうしましたか?」
ルシアの言葉を聞いても天使は同じ顔つきのまま話し始めた。
「マキが先ほど帰ってきました。今は自室で休んでいます。」
それを聞くと上体を起こし、机の上にチョコンと座る体勢になりようやく天使の方に体を向けた。
「そうですか。報告書の件でまだ本人に書いてもらわないといけない欄がいくつかあるのでまとめてあの子の机に置いておいて下さい。後、あの子に説明してほしい事があるので私の所に来るように言っておいて下さい。」
天使はそう言われると軽く会釈をしてから部屋を出ていこうとドアノブに手を伸ばそうとしたと思ったら何か思い出したのか慌ててルシアの方に向きなおした。
「そういえばルシア様宛に下界からお手紙が来ていました。」
「どなたからですか?」
天使はそう言われると手に持っていたいくつかの書類の間から白い封筒を引っ張り出し差出人の名前を読み上げた。
「ヒラオカ様だそうです。」
ルシアはそれを聞くと急に不機嫌そうに天使に向かって体を横に向けて机に伏せた姿勢になった。
「そうですか、ありがとうございます。しかし下界からの手紙は私が直接天界郵便局に取りに行くか、最悪所用で行けない場合仕事部屋ではなく私の部屋のポストに入れておくように言っておいたはずですが?」
あまりやってほしくない行為だったのかルシアはそういうと天使を横目で一睨みする。
天使はそれを言われてようやく自分がまずい事をしたと自覚したらしく。足元がおぼつかなくなりガタガタ体が震え始めた。
「も、申し訳ありませぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
天使はそういうと泣きそうな顔になり手紙を握ったまま部屋のドアを思い切りぶち破り一目散に駆けて行った。ルシアは思った以上に相手がショックを受けてしまった事に驚き唖然としてしまった。そして大事なものも一緒に持って行ってしまった事に遅れて気づいた。
「あ!ちょっと待って!!手紙は置いてってぇ!!」
ルシアは廊下に響くくらいの大声を出したがただひたすらこだまするだけで天使が戻ってくることはなかった。
「マキです。失礼します。」
二回部屋のドアをノックしてマキは部屋の中に入った。綺麗に片づけられているルシアの仕事部屋にある窓の一つが開いておりカーテンがなびいている。そのカーテンの横に自身の目の何倍もあるだろう眼鏡を掛けた女性が机の上に座っており、虚ろな目でマキの目をじっと眺めていた。しかし、気づいたら目の前には女性の姿はなく綺麗な白の毛並をした猫が机の上で横になっているだけだった。
「どうかしたんですか?気が抜けすぎですよ。」
「・・・たいしたことではありません。ん?今、毛が抜けすぎっt。」
「言ってません。」
ルシアはマキに目を合わせず横になりながら窓の外から見える中庭を眺めている。何やら談笑している天使達が見える。その後仰向けになりながらマキの方を品定めをするかのようにつま先から頭まで順番に見ていった。
「今回は軍服ワンピースですか。普段のあなたならとても着なさそうな種類ですね。」
ゴシック部分の印象が強く感じるがフロントの胸当てと青色のリボンと上着の下から覗かせるスカートがどこか清楚さと可愛らしさが出ていた。
「メルに無理やり着させられたんです。あの子最近容赦ないです。以前に比べたら大分マシになりましたけど。それより感想を聞かせて下さい。」
「そうですね、可愛いと思います。ただ普段着として着るとなると大分抵抗がありますね。何かイベント事で着るならアリだと思います。」
あまりにも淡々と話すのでマキはあまり面白くなさそうに自分が履いているショートブーツのつま先から自分の肩の辺りまで一通り眺めた。
「・・・冷静な感想ありがとうございます。」
「いえいえ。どうぞそこに座って。」
マキはそう言われると手前のスペースに置かれている二人掛け用のソファに腰を下ろした。ルシアも机から軽やかに床に飛び降り、来客用の机を挟んで向かい側のソファに座り込んだ。
「まずは魔王討伐お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
「魔王討伐の中では高難度の第八、第七界の魔王の一体を倒したのです。上司の身としてはとても誇らしいですよ。ただし・・・。」
ルシアは机にあらかじめ積んでおいた大量の書類に近づき前片足をポンポンと叩いた。
「この教会から届いたクレーム書類と請求書の山はなんですか。」
ルシアは鬼のような形相の猫顔で睨むがマキはあまり悪びれた様子もなく飄々ひょうひょうとしている。
「必要経費です。」
「必要経費?先ほどあなたから送られてきた経費内訳を見ましたが、二人のヘルパーさんから請求書が来てます。これはなんですか?」
「ルシア様。私が同行したのは勇者様とはいえご老体の88歳です。」
「それが何ですか?」
マキは目を瞑り深く溜息をついた後、ゆっくり目を開きルシアの目を見た。
「介護には・・・お金が掛かるんです。」
場が、しばらく固まる。
「・・・う、ううん。それは、そうですね。」
ルシアは全然納得出来ていなかったが、マキの謎の説得力に気圧されてしまった。気を取り直して次の質問に移る。
「ではこのマキタ工務店さんやタジマ建設さんからの請求書は。何この大工手間一式って。一体何したんですかあなた。」
マキは何のことか分からず首を傾げていたがその後思い出したのか掌の上に拳をポンと叩いた。
「それは・・・。」
と言いかけた所でマキは少し考える素振りを見せた。あまり話していい事ではないかもしれないと思ったらしい。しかし直ぐ気を取り直して話し始めた。
「魔王城増築計画が五年程前から計画されていたらしく、魔王側から人間達に仕事の依頼が来たそうです。」
「それでどうして教会の方に請求書が行くのですか。」
「工事はもうすぐ完成するところまで進んでいたそうです。しかし私がルシア様が立てて頂いた予定表通りに魔王を倒してしまったばかりにお金を払う者がいなくいなり、全体の金額の半分しか貰えていないそうです。」
ルシアはここで少し違和感を感じた。ん?なに、これってもしかして私も悪いの?確かに予定を中々立てようとしないマキを見かねて順序良く仕事が上手く行くように教育した覚えはある。いやでもこれは別に関係なくない?それより何魔王が人間側に依頼してんの。人間側も何で請け負ってんの。金さえ貰えれば誰でもいいんか。ツッコミ所満載な内容にルシアは頭を痛めながらも自分はこの件に無関係なのだと思い込もうとするがどうも胸の何処かに引っかかるものがある。そう思っていたら、更にマキが畳み掛けるように話してくる。
「工事関係者の人が言ってました。これでこの国は平和になるだろうがうちらはもう終わりやろうな。」
「マキさんストップ。もうい・・。」
「本当・・・、空気よめt・・・。」
「やめろぉ!!」
ルシアはマキに向かって思い切り鳴いた。マキはルシアが目を見開いて急に鳴いた事に驚いた。そしてルシアの息が落ち着くまで口を開かないようにした。
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