ふわふわ頭の男の子
振り返るとそこにはふわふわな頭の男の子が立っていた。
「君、図書委員?この本が借りたいんだ」
「あの…えっと…」
見るとその手元には数冊の本があった。
「あっ…私図書委員じゃなくて」
「そうなの?そうか…じゃあ今日は本借りれないのか…図書室の先生は?」
「分かんないけど、多分出張だと思います…」
「下校時間には戻って来るかな?」
「多分………」
額から汗が吹き出す、この系統のノリとやらには妙に合わせにくい何かがある。
「ふーん…どうしてもさ、今日この本達が借りたくて、君多分文芸部でしょ?ここにいるなら下校時間までこの本預かってくれない?」
「でも私、すぐ帰るかもしれないです…」
「お願い!誰かに取られたくないんだ。」
時計を見る、丁度17時半を指している。下校時間は19時だ。
今日も特に何もなく終わる予定だった。
少し気まぐれにやってもいいかと思い、返事を返す。
「下校時間…7時までなら良いですよ」
「ほんとに!?ありがとう、お礼はなにかするからさ!」
じゃあね!と私の体に本を預け、手をぶんぶんと振りながら彼は図書室を出ていった。
「重い………」
相当な分厚さの本が3冊と文庫本サイズの小説が2冊。
テーブルに置き、計5冊の本の表紙を見る。
3冊の分厚い本は画集のようだ。
ミュシャの画集に
日本の洋画家をまとめた画集
最近入荷した有名な漫画家の画集みたいだ。
ミュシャぐらいなら私にでも分かるが、ほかの2冊を描いたであろう作家達は私にはわからなかった。
ほっと息を吐き、ちらりと2冊の文庫本を見る。最近映画化したサスペンスもの、
そしてもう一つは
「……………官能小説……?………」
頬が少し火照る。
こんなものがこの図書室にあったのか…。
表紙には裸の女性が描かれている。格好から推測するに、神話の女神様というかふくよかな体に布を巻き妖艶な笑みを浮かべながら、その横顔を見せていた。
下がってきた髪を耳にかける。
やはり気になってしまい、裏のあらすじを読んだ。
どうやら中身は官能小説ではないらしい。
いかにもな題名と表紙が私に官能小説だと思わせてしまったらしい。
まだそんなに時間は立っていない、少し読んでみてもいいだろうかと思ったその時
「お疲れ様です~」
文芸部の後輩達が入ってきた。
「…お疲れ様です」
本にかざした手を隠す。
「あれ?先輩早いですね」
「うん、今日はね」
官能小説ではないがおそらく刺激的な内容であるものを読もうとした少しの罪悪感と羞恥心が焦りをうむ。
また少し、汗が吹き出そうな気がした。
「この本どうしたんです?」
後輩の1人が聞く。
「あっあぁ…先生がいなくて借りれないから先生が来るまで預かってくれって頼まれて」
後輩達がきょとんとした表情を浮かべたあと
「先輩、借り方知らないんですか?」
「えっ?」
「放課後図書室を文芸部がどうしても使っちゃうんで、今年から放課後の図書委員の係は文芸部がすることになったって報告したじゃないですか!」
ちゃんとしてくださいよ、と後輩達はそれぞれ席につく。
一人の後輩がこっちに来てやり方を教えてくれた。
そう言えばそんなこと言われたっけ、しかしやり方は教わっていなかった。
すぐ帰ってしまう私には今日まで教えが伝わらなかったらしい。
「すぐ、貸して挙げられたのか……」
「なんか分からないことありました?」
「ううん、何でもない」
後輩は席につき、私も席につく。こうなったらもう読めないかな…。
人がいる中でこの表紙はちょっと開きづらい。
文学なんだから気にしなきゃ良いのにと自分をチクリと刺した。
「「じゃあお疲れ様で~す。」」
お疲れ様ですと手を控えめに振った。
時間は18時半…先生はまだ帰ってこない。
19時までと言ってしまったので残りはあと30分だ。
水筒を開け、お茶を喉に流し込む。
誰もいない。数ページなら読めるかな…?
こうなると好奇心が何より勝ってしまう。
未知の、未知のそれでいて絶対に関係がある世界。
私はその本を開いた。
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