第150話 出発

 魔王討伐出発当日。


 俺達はアンダーグラウンドから外に出て、水辺へと集合していた。

 今いる【怪童】のメンバーは全員見送りに来ていた。


「今から腕がなる……! 魔王と戦える日が来るとはな……!」


 不敵な笑みを浮かべながら《拳闘獅子》がガシガシと拳を合わせている。

 今から一人で突っ走ったりしないか不安だ。


「張り切るのは構わないが、俺の指示には従ってもらうぞ」


 《空ノ神》が釘を刺す。

 彼がこのパーティのリーダーを務めるため、統率をとるのに大変なのだろう。


「ならば、下らない指示を出さないようにするんだな」


 それがどうしたというように、《拳闘獅子》が睨みつけた。

 彼女が指示通りに動くかどうかは気分次第なことかもしれない。


 少なくとも俺は彼の指示を受けるようにしよう。

 リーダーの指示を聞かなければ、パーティとしての意味をなさなくなってしまう。


「グリーには大変な思いをさせてしまうかもね」

「流石に荒らして回るような事はしないと思うが……その時は陽動にでもさせるさ」


 ガルムが申し訳なさそうに言った。

 《空ノ神》をリーダーに任命したのはガルムだ。


 実力があり、人数をまとめる能力があるのは《空ノ神》で間違いないとガルムは言う。

 そもそも【怪童】にはトップクラスの実力とが強いメンバーしかいない。


 それらをまとめるためには、それなりのカリスマ性が必要なのかもしれないな。

 そういう点では、《空ノ神》は申し分ないと言えるそうだ。


 本当の実力は見たことないから、分からないんだけどね、俺。


「師匠様よ! 師匠様が出してくれた課題は、しっかりこなしておくから、まっかせてね!」

「ふふ、期待しているわよ。アヤメならきっと、クリアできるはずだから」


 《魔女》と《創造クリエイター》が楽しそうに話していた。

 創造はいつ見てもはしゃいでいる。

 疲れ知らずの子供といった感じだ。


「アイラも元気でね!」

「うん……! アヤメちゃんも!」


 笑顔で創造と握手をするアイラ。


 俺が知らないところで、アイラは《魔女》や《創造》とかなり仲良くなっていたみたいだ。

 この10日間ぐらい、ずっと一緒に魔術の練習をしていたらしいから当然か。


 アイラは故郷の村ではイジメられていて、友達というものがいなかったみたいだから、同年代に近い友達が出来て嬉しいのだろう。

 やっぱり気楽に話せる相手がいるというのは、大事なことだよな。


「ミナト、昨日も言ったけど、無理だと思ったら撤退してくれて構わないから。僕はそこまで強制はしない」


 ガルムが真顔で俺に言ってきた。

 これが笑いながらだったら逆に怖かったが、冗談で言っているわけではないことが伝わってきた。


「…………そこまで念押しで言って大丈夫かよ? 本当に戦うことを諦めるかもよ? 俺は」

「ミナトが僕の手助けをしてもらうのは、本来の予定よりもずっと早いんだ。本当はもっと後で、然るべきタイミングで協力を要請したかった。ここで出会ってしまった以上、仕方がないけどね」


 然るべきタイミングとは一体いつのことなのか。

 俺が魔人をもっと保有した時のことだろうか。


 ガルムは大事な部分はいつもはぐらかして、芯にせまる情報は小出しでしか出してこない。

 その部分が俺にとって不満な部分であり、ガルムに対して信用できる相手であると言うことが出来ない理由だ。


「……やれるだけのことはやる。だけど期待はしないでくれよ」

「今回の戦いでは期待することなんて出来ないさ。戦力差は圧倒的なんだから」

「じゃあなんでお前はーーー」

「でも信頼はしてる。僕は、ミナトもアイラもミーアもアリゲイトもグリーもリーも、みんなの実力を信頼している」


 しっかりとした真っ直ぐな目で、一切ブレることなく俺に向かって言い放った。


 それが期待と何が違うんだ、と俺は思ったが、それでも悪い気はしなかった。

 不思議と、結果を出してこようという気分になる。

 これが元勇者のカリスマ性か。


「あまりここに溜まっているのも良くは無いな。魔族の連中が不審がるだろう」


 《剣聖》の一言で、遠征組は準備を始めた。

 魔族に滞在を許されているとはいえ、人間が十数人も固まっていたら良い思いはしないだろう。


 この国ではそもそも人間は奴隷として扱われているのだから。


「じゃあアイラ、やりましょうか」

「はい!」


 そういえば、ここからどうやってローズフィリップの領土まで行くのか、その交通手段を聞いていなかった。

 水辺に大きめのイカダが浮いているけど、まさかこれで行くなんてことはないよな?


 なんて思っていたら、《魔女》とアイラが何やら無詠唱で魔法を使い始めた。

 水が静かに揺れ動き始める。


「渦を作るイメージで…………水の流れを抵抗させるのではなく受け流して…………」


 アイラが何やらブツブツと呟きながら、イメージしていた。

 どういう魔法なんだろうか。


「さぁ…………今のうちにイカダに全員乗りなさいな。出発するわよ」


 魔女の言葉で我先にと《拳闘獅子》が飛び乗った。

 それに続いて《空ノ神》、《骨喰い》と乗っていく。


「だ……大丈夫だよねこれ……。沈んで水中で死んだりしないよね……」


 《骨喰い》がブルブルと震えながら言った。


 嫌なこと言うなよな……。

 想像したらマジで怖いじゃん……。


「大丈夫よ。私とアイラが操作しているもの」


 続いて《魔女》とアイラが飛び乗る。

 アイラは以前として集中している。


 水が音を立てて荒れ始めた。

 そろそろ沈み始める合図か。


「じゃあ俺も……」

「ミナト」


 飛び乗ろうとするとガルムに止められ、そっと耳打ちをされた。


「1つだけ、この世界のことわりに関するヒントをミナトに」


 世界の理って……どういうことだ?

 ガルムは続けて話した。


「《15》。この数字が関わっている時何かが起きると思っておくといい」


 俺は何を言っているんだ? という顔をしてガルムを見る。

 ガルムはニコリと笑っていた。


「今はこれしか言えないんだ」

「どういうーーー」

「避雷神、行くぞ!」


 《空ノ神》に呼ばれ、俺はガルムに背中を押された。


「気を付けて」


 15。

 この数字がなんなのか、ガルムに問い詰めたかった。

 またしてもガルムは意味深な部分だけを俺に話し、核の部分については触れなかったのだ。


 俺がイカダに乗ると同時にイカダは沈み始め、大きな空気の膜が俺達を包み込んだ。


 ガルム達の姿が見えなくなる。

 俺達は水中へと潜っていった。

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