第147話 討伐人選

「これで全員揃ったね」


 長テーブルを【怪童】のメンバーが囲い、ガルムが指示を出す。

 俺とアイラもその輪に加わった。


明日あすは、ミナトとアイラをローズフィリップの領土を越えて、サンクリッド大陸へと繋がる航路まで送り届ける日だ。これにあたり、以前から計画してきた僕達の目的の1つも同時に達成させようと思う」


【怪童】の目的?

 そうすると人類に対する攻撃か何かを行うってことか?

 だとすると…………俺の立場的には難しいことになると思うんだけど……。


「その目的は知っての通り、『魔王ローズフィリップの討伐』についてだ」


 ……………………何?

 魔王の討伐?


「魔王ローズフィリップを討伐することで、僕達が活動できる範囲は格段に広がり……」

「ま、待ってくれ。俺はそんな話、一度も聞いてないぜ?」

「今初めて言ったんだから当たり前じゃないか」

「おいこら。ちなみに俺とアイラは別に参加しなくても……」

「残念だけど、魔王の本拠地へ直通で向かうから」

「ちくしょう!」


 道理で何も見返りなしで送ってくれると思ったよ!

 そんな重要な話を何で今まで言わなかったんだこいつ!

 あ、アレだろ!

 途中で言ったら断られると思ってたからだろ!


 コイツ結晶獣の洞窟でも同じことしやがったよな!


「避雷神、お前ほどの実力者を逃す手はないだろう。今が私達にとっての好機なのだ」


 《剣聖》が意地悪く笑いながら言った。

 魔王と戦うのが近いっていうのはこのことかよ。

 知ってたなジジイ。


「魔王様と戦うって……考えたこともないよ」


 アイラは既にブルってしまっている。

 俺だってブルってるよ。

 でも今回は1つだけ割り切って考えることができる理由がある。


「なぁガルム……」

「決心ついた?」

「魔王ローズフィリップって…………ぐうかわなんだよな?」

「ぐうかわ?」

「美女なんだよな?」

「元勇者の名において保証するよ」


 しゃー! おらぁ!

 討伐はともかくとして一目お目にかかるぞぉ!

 どうせうだうだ言ったところで決定事項は覆らないんだ!

 だったらすぐに切り替える方が幸せだと、俺はこの世界に来て悟ったよ!


「ヤシロ…………」

「避雷神は女好き、ってやつなんだねー!」

「キッショ」


 女性陣から言葉によるバッシングを受けた。




 だって仕方ないじゃない。

 男子だもの。

 みなと




「いーじゃんこれぐらいのモチベがないとやってられないんだよ!!」

「気持ちは分かるぜ避雷神。魔者、いや人間を含めた中でも最高クラスの絶世の美女って話だからな。俺も実は気になってるんだ」


 《空ノ神》レインフォースも賛同してくれた。


「あら、グリーはそういう話はあまりしないと思っていたけど?」

「する相手がいなかっただけさ。爺さんに、堅物に、興味無し男だぜ? 盛り上がらないさ」

「おーい、僕だって別にその手の話に興味がないわけじゃないよ?」


 話が結構脱線してきた。

 俺は俺で脇腹をアイラに小突かれている。

 あばら骨をピンポイントでつつくのはやめてほしい。


「…………本題に戻るけど、今回の遠征は【怪童】の全員で行くわけじゃない」

「そうなの?」

「同時進行でやることがあるんだ。だから今回、ローズフィリップの討伐に向かうのはミナトやアイラを除いて4人」


 思ったより少ないな。


「その4名はミーア、リー、グリー、アリゲイトの4名だ」


 えーっと…………《魔女》に《拳闘獅子》に《空ノ神》に《骨喰い》だっけ。

 魔王討伐にこの人数だけっていうのはどうなんだ?

 というかどういう人選なんだこれは。


「アタシを入れるとは分かってるなガルム!」

「ぼ……僕が入っている理由を聞いてもいいかな……? 魔王と戦うなんてできれば避けたいんだけど……」


 《骨喰い》がオドオドしながら聞いた。

 この人達も誰が行くかは聞いてなかったのか。


「ちゃんとそれぞれ理由はあるよ。アリゲイトの隠密行動は僕らの中でもトップクラスだからね。大きな戦闘を避けて敵の懐へ入れる案内を出来るはずだ」

「過信しすぎだよぉ……」

「ミーアはここから領土内に侵入するのに必要不可欠だ。ミーアとアイラの魔法で水中を移動するからね」

「ええ、分かっているわよ」


 水中?

 水中を通って領土内へ侵入するってこと?


「そうなのアイラ?」

「うん。この10日間、ミーアさんにずっと水魔法の魔力操作を教わってたんだ。おかげでスゴイ魔法も使えるようになったんだから」


 耳がピコピコ動いている。

 嬉しそうだ。


「リーは魔王討伐対策だね。ローズフィリップは幻惑魔法を使ってくるみたいだし、男はそれに抗うことが難しいみたいだ。そこで彼女を中心に戦ってもらう」

「他の奴らの横槍などいらん。アタシが一人で片をつけてやろう」


 どんだけ戦闘狂なんだよ。

 怖すぎだよこの姐さん。

 でも味方になれば頼りになるぅ。


「それなら《暗器猫デバイスキャット》や《創造クリエイター》は来なくていいのか?」

「そうだよアヤメも行きたい!!」

「ネコだと少し火力不足なところがあるからね。それに何より、ミナト達と反りが合わないみたいだし」

「フン」


 確かにそれはある。

 俺もアイラも彼女に嫌われているからね。

 いつ背中からグサリとやられるか分からない。


「ねーねー! アヤメはー!?」

「アヤメは…………ほら、こういう隠密に向いてないじゃん」

「「「確かに」」」

「何でよーーー!?」


 みんなの意見が初めて一致した瞬間だった。

 可愛そうに。


「最後に、グリーにはこのパーティのリーダーをやってもらいたい。実力があってみんなをまとめられる人が必要だからね。今回は僕も剣聖も行けないから」

「ああ、任せろ」


 《空ノ神》がまとめ役か。

 確かにしっかりしてそうだもんな。

 ガルムも指示出しとかはできるんだけど、いかんせん性格がチャランポランだから締まりはなさそうだ。


「でも実力で言えば避雷神が一番強いんじゃないのか?」

「ほら、ミナトってこう見えてチャランポランでまとめるのとか苦手だから」

「お前には言われたくねぇ!」


 誰がチャランポランだ!

 こまめに出納帳を書いたりするくらいにはしっかりものなんだぞ。


「ミナトはくれぐれも逃げないでね」

「うるさいな。そこまで言われて逃げねーよ」

「逃げても構わんぞ。その時はアタシが餞別をくれてやる」

「キスですか?」




 気付いたらベッドの上にいた。

 アイラがジト目でこちらを見ていた。


「やれやれまたか」

「こっちのセリフなんだけど」


 呆れられた。

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