第146話 神剣流
「既にお前は完成された一定の強さを持っている。別の型を学ぶのは得策とは言えないな」
次の日、《剣聖》に剣術の指南をお願いしに行ったが、渋い顔をされた。
どうやらガルム流の型のない剣術と、型にはまった神剣流は同時に覚えるのに相性が悪いらしい。
俺の場合は既に型のない剣術を極めてしまったために、神剣流を覚えるのはマイナス効果になるのではとのことだった。
「でもガルムは剣聖に剣術を教えてもらえって言ってたんですよ」
「適当な事を言いやがる……。自分は身に付けることができなかったくせにな」
「え? そうなんですか?」
ガルムは勇者なだけあって、魔法は全てマスター級、剣術も独自の戦い方を編み出すほど器用なのに、それでも神剣流との併用ができないとは。
それほどまでに難しいのかな。
「元々アイツは神剣流を学ぼうとしていたらしいが、全く覚えられなかったみたいだぞ」
「あれ? でも神剣流って剣聖が考案した剣術なんですよね? ガルムは見た目よりも歳食ってるし……その頃に神剣流は既に流行ってたんですか?」
「勘違いしているようだな。そもそも神剣流は私が編み出したものではない」
えっ、そうなの?
でもガルムとかも《剣聖》が編み出したものって言ってたけど……。
確かに言われてみれば神剣流なんて、《剣聖》に掛かる言葉が何も入ってないよな。
剣聖流とか、ツォルク流とかなら分かりやすいけどさ。
「元々知名度は低かったが、神剣流という流派は遥か昔から存在していた。私はただそれを改良したに過ぎない。それを誰かが私が編み出したと勘違いして広めたのだろう。ガルムは未だに間違った情報に踊らされているみたいだがな。訂正する必要もあるまい」
《剣聖》がクク……と笑った。
この人達の話は、中々に知らないことが多くてタメになるな〜。
通説で知られてることが間違って伝わってることがよく分かるよ。
「《避雷神》に神剣流が身に付くかは分からんが、せっかくだ。私が直々にその他の戦い方というものを教えてやろう」
「マジっすか!? というか避雷神って俺のこと?」
「貴様以外に誰がいる。貴様とて私を剣聖と呼ぶだろう」
「そうですけど……避雷神なんて呼ばれたことないですもん。むず痒いですもん」
「これからはそう呼ぶぞ。【怪童】のメンバーは皆、二つ名が付けられているからな」
「うへぇー」
悪い気はしなくもないけど、正面切って言われるとオラ小っ恥ずかしくなっちまうだよ。
「総合の戦闘では避雷神には勝てんが……単純な剣術では私とて負けたとは思わん。一から十の剣技を教えてやろう」
「お願いします!」
こうして《剣聖》から神剣流を教わることとなった。
《剣聖》は気難しい人かと思っていたけど、一度気に入られればそんなことはなかった。
ちなみにアイラは《魔女》と《
10日後までに、少しでも身に付けられるようにしよう。
「まずは一の剣技、【神速】から教えてやろう」
「はい師匠!」
「【神速】は最短で敵へ切りつける単純な剣技になる。だが、ただ早く動ければ修得というわけではない。敵が神剣流を知っていれば初撃に【神速】が来るというのは読まれるはずだ」
「確かに」
「【神速】とは敵の予想を上回る速さで斬りつけることが出来てこそ修得したと言える。この部分を勘違いしているバカが多いのは問題だ。それにワンステップで敵へと接近できなければ話にならんな」
踏み込みが大事だと剣聖は言う。
重心をかける足の踏み込みが弱ければ、自ら敵へと突っ込むだけの自殺行為だと。
「俺は剣聖の初撃を防げたけどアレは?」
「揚げ足を取るような奴だな。分かりやすい基準で言えば、A級討伐者が対応できなければ修得したと言っても問題ないだろう」
A級討伐者は確か下級魔人を1人で対応できるレベルのはずだ。
結構難易度高くない?
「ちなみにですけど俺もA級討伐者ですよ」
「バカ言うな。私の攻撃を防げるA級討伐者がこの世界に何人いると思っている。S級でもそうはいないぞ」
だよねー。
下級魔人どころか上級魔人もソロで倒せるようになったし。
普通に考えて、無双できるくらいには強いと思うよ俺ってば。
その後、試してみたらあっさりと一の剣技は修得できた。
というより普段からやっていた行動とほとんど同じだった。
二の剣技【
【神速】とセットで使われることが多い。
二の剣技もすぐに修得できた。
三の剣技【
残像ではなく実体のある攻撃のため、緩急をつけるのが難しい。
コツを掴むのに時間はかかったが、何とか修得した。
四の剣技【
いわゆる居合抜きと同じだ。
唯一違うとするならば、扱い手が自ら動くところだろう。
本来の居合抜きは自分のテリトリーに入ったものを斬り捨てるものだが、【兵城神】は自ら動いて敵を自分のテリトリーへと入れ込む。
ちなみにこれは剣を収める鞘がなければ使用はできない。
雷鳥も鞘があるが、今はガリレオがメンテナンスを行っているため、適当な剣を借りた。
《剣聖》は自分の薄長い剣を貸すと言ったが、刀身が長すぎて扱いづらいから断った。
足運びさえ覚えれば、そんなに難しいものではなかった。
無事修得。
五の剣技【
要はインパクトの瞬間に剣圧を生み出せばいいというものだ。
剣圧自体は既に扱えるため、これも普通に修得。
六の剣技【
限りなく速く、正確に敵の首、もしくは腰を切り落とし、防ごうと構えた武器すら斬り捨てるというものだった。
これがなかなか難しい。
ガルム流の剣術は色々な方向から斬りつけることが主な攻撃パターンであり、一つの方向から全力で斬りつけることが難しかった。
どうしても剣先がブレて曲がってしまう。
曲がってしまえばスピードがいくらあろうとも、剣は防がれてしまう。
剣を綺麗に一閃に振る練習が始まった。
そして《剣聖》の指導が始まってから3日目、ついに六の剣技を修得した。
《剣聖》曰く、3日で修得できるのは化け物だという。
間違いなく、毎日欠かさず剣術の練習を行って積み上げてきたおかげだろう。
七の剣技【
これは既に『飛撃』として使っていた技と同じになる。
故に修得済み。
八の剣技【
息もつかせぬ怒涛の攻撃によって、敵に一切の反撃を許さない剣技だ。
攻撃方法については明確な型はない。
神剣流で最も非合理的かつ合理的な剣技である。
俺の場合、ガルム流の剣技を断続的に使えばそれに該当するため、特に剣聖から教わることはなかった。
修得? したかは微妙だ。
九の剣技【
極めれば剣を持っていなくても使用することができる。
《剣聖》と戦った時に、剣を使わずに《剣聖》は俺の攻撃を防いでいた。
ぶっちゃけ無理だった。
条件反射で体が動くということがイマイチピンとこないため、どうしても相手の攻撃に対して最適な防ぎ方を頭で考えてしまって、無心で防ぐことができなかった。
未修得。
そして最後の剣技【
戦いの中、常に緊張を保つのは至難の業で、緊張している場面では呼吸を止めている場合が多い。
その中で、戦いが長引くほど隙ができるタイミングがどこかに必ずあり、息を吐く瞬間、緊張の糸が切れる瞬間に敵の死角から剣を滑り込ませることで、心の臓を一撃で仕留める技である。
5日後。
これも修得が難しい。
頭では分かっていても、相手との戦いの中で3つの条件を満たす瞬間を見極めることができない。
こればかりは一朝一夕で身につくものではなかった。
「ダメだ、心神流々はセンスがない。タイミングが掴めないわ」
「ふん、この短期間で八の剣技まで修得できるだけ化け物だろう。問題はこれをどうやって元ある剣術と織り交ぜられるかだ。ガルムは最終的にそれを目指していたがな」
神剣流とガルム流。
別々に使っても問題ないけど、選択肢が増えることは良いことばかりではない。
一瞬の迷いが戦場では命を落とすことに繋がりかねない。
ここから新しく、自分の剣技を生み出す可能性も考える必要があるな。
「ゆっくり考えていくとしますよ」
「そんなヒマがあればいいがな。間も無く出発だろう」
あ、そうじゃん明日じゃん、魔王ローズフィリップの領土へ案内してもらえるの。
すっかりここにも馴染んじゃってたぜ。
「師匠にまだまだ教わることがあったんですけどね」
「どこまで上を目指すつもりだ? 最初にも言ったが、お前は剣術に関しては既にほぼカンストしている。魔王とでも戦うつもりか?」
「戦わなければいけない場面があるならば」
「ならば今から心の準備をしておくんだな。お前が思っているよりも、それは早く訪れるだろう」
どういうことだ?
魔王と【怪童】が戦うことになるということか?
でもこいつらって人類に仇なす存在なんだよな。
「おーいミナト、明日のことについて話すことがあるから集まってくれ」
屋敷の中からガルムに呼ばれた。
いよいよ明日が旅立ちの日だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます