第143話 三途の川を渡ろう

 はて、ここはどこだろう。


 大きな川が見えるな。


 これを渡ればいいのかな?


 かなりの激流だけど、通信教育で水泳を習っていた俺に不可能はないのさ。


 河童の生まれ変わりである俺に任せとけ!


「ミナト」


 おや?


 シーラじゃないか。


 久しぶりに会ったなー。


 まさかこんな所にいるとは思わなかった。丁度いい、シーラも一緒に向こう岸に渡るかい?


「………………槍火葬」


 ちょっ……何で炎魔法使ってんの?


 まさか当てないよね?


 俺に使わないよね?


「起きる時間」


 待っーーーーーー


「うわああああああああああ!!」

「きゃああ!!」


 思わず飛び起きると、そこはベッドの上だった。

 病室、というわけではないが、普通の部屋だ。

 近くにアイラがおり、俺が驚いたことに驚いていた。


「びびったー……」

「こ、こっちのセリフだよ! さっきまでピクリとも動かなかったのに何で急に大声あげるのさ!」


 顔面に炎魔法飛んできたらそりゃビビるでしょ。

 って、今のは夢か。

 夢っていうか死の淵じゃない?

 泳ごうとしてたの三途の川じゃない?


「半日も気絶してたんだよ」

「あー……そっか、なんか格闘家みたいなお姉さんと戦ってたんだっけ」


 ちょっと記憶が曖昧なんだけど……脳を揺らされたせいかな?

 脳震盪起きてたんじゃないの俺。


「で、ヤシロ。体調は?」

「どこもおかしくはないな」


 ま、事故でキスしたことは覚えてるんですねけどねぇぇぇぇぇぇ!!

 あんな衝撃的な事件忘れられるわけなぃじゃん!

 ラッキー儲かった!

 相手がおばさんとかだったらアレだけど、あのお姉さん美人だし?

 俺のファーストキスとしては最高だよな、うん!


「もう大丈夫なんだ。じゃあ」

「何をすぶばばばばば!」


 突然アイラが水魔法を顔面に浴びせてきた。

 桶の水をバシャーンとかじゃなくて、水風船を連打で投げつけられているような感じ。

 呼吸ができない。

 陸にいるのに溺れる。

 溺死する。


「ぷあっ!! はぁはぁ……何すんだ!!」

「べっつにー? ただ、顔が汚れてたから洗ってあげただけよ。特に口周りが」

「あ、ありがとうございます、じゃなくて! 絶対嘘だろ! だって俺何も食べてないのに口周りが汚くなるわけなんてないだろ!」

「誰も食べカスだなんて言ってないもん」


 じゃあ何…………あ、そういうこと?

 もしかして、俺がキスしたことに嫉妬してんの?

 えー何だよ可愛いとこあんじゃーん。


「もしかしてキスしたこと、嫉妬してんの?」

「し、してないし! 何言ってんの!? するわけないじゃん!」

「怪しいなー。アイラは俺のことが好きだったのか知らなかったわー」

「違うし! 別にヤシロのことなんか……わ、私は…………ほ、ほら、アレだもん、お姉さんとキスできて羨ましいって思っただけだし!」

「はあああああああああ!?!?!?!?」


 唐突な百合展開!?

 ぎゃああああ知りたくなかったあああ!!


「ま……まさかアイラが女の子好きだったとは……」

「うぇ……ん……そ、そうなのよね〜…………はは……はぁ」

「騒がしいと思えば、ミナト起きたんだ」


 声が外まで漏れていたのか、ガルムが部屋に入ってきた。


「改めてみんなに紹介したいからさ、一緒に来て…………って何でそんなにびっしょりなの? 寝汗?」

「これ全部寝汗だったら脱水症状なるわ」


 何リットル出とんねんって話。

 ガルムに付いていくと、どうやらこの部屋は屋敷の2階だったようで、他にもいくつも部屋が存在した。

 一体何人が暮らせるのだろう。


 下へ降り、最初に案内された部屋へ向かうと、俺と剣聖の試合を見ていたギャラリーの全員が集まっていた。

 もちろん剣聖も席に腰掛けている。


「来たか」

「おはよー! お寝坊さんだったね!」


 いやお寝坊さんっていうか。

 気絶してたんですけど。


「今ここにいる8人は僕が集めたチーム【怪童】のメンバーだ。他にも何人かいるけど、【怪童】の主な主力メンバーはこの全員だと思ってくれていい」

「【怪童】…………そもそも何をする集まりなんだ?」

「活動は主に人類の『裏』としての活動。ここにいる面々は、目的はそれぞれ違うけど、方向性は同じだからまとまって行動しているんだ」

「『裏』の活動って…………暗躍とかそういうこと?」

「…………『裏』はそんな感じかな。僕ら【怪童】はまた少し違うけど」


 はぐらかされたな。


「詳しく教えろよ」

「今はあまりミナトには教えたくないんだよね」

「何で」

「たぶん反対するから」

「はぁ? そんなヤバイことやってんのか?」

「追々、ね。だけどその辺りは知らなくても、ミナトの目的であるローズフィリップの領土を抜ける手助けはできるよ。それで充分でしょ?」

「まぁ……確かに」


【怪童】がどういう活動を行なっているのかは、それ以降教えてもらうことができなかった。

 それほどまでに、俺には教えたくないらしい。


 だが、それ以外のことは教えてもらった。


 まず、何故ガルム達が魔族の領土を闊歩できるかという点だが、それは『裏』と魔王ジェイドロードが手を組んでいるからだという。

 ガルムが胸に付けていた三本線の入ったバッジ、あれが『裏』の人間である証拠なのだとか。


 人間と魔族が手を組んでいること自体は世界的にも知られていることであるが、これは共生とは呼ばれない。


 お互いの利益を求め、お互いの需要と供給がマッチしているからこそ成り立っている関係性である。

 要は『裏』の活動とは、人間を捕まえ奴隷として売りさばいたり、人類にとって不利益になるような事をすることなのだ。


 つまり『裏』とは、『人類に仇なす者』という意味と同義なのである。


「さて、それじゃあ自己紹介といこうか」

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