第144話 人類史に残る面子

「八代湊です。不本意ながらガルムの弟子です。よろしくお願いします」

「不本意て」


 そらそうでしょ。


「アーネスト・イライザ・シルヴァード・シュールレです。ヤシロの旅に付いて行ってます」

「シルヴァード族ね? 南のほうにある集落の」

「ご存知なんですか?」

「少しだけいたことがあるわ。プライドが高くて排他的なイメージよ」

「うっ……確かに否定は出来ません……」


 アイラが少しバツの悪そうな顔をする。

 確かに少し取っつきにくい雰囲気があの村にはあった。


「でもアナタはそうでもなさそうね。仲良くなれそう」

「ぜ、是非!」



 いや、その子もプライド高いけどね?


 それにしても、ここにいる人達は魔族側の領土で暮らしているだけあって、魔族に対して寛容だ。

 そういう点では個人的に助かる。

 だって俺の周り魔族ばっかりなんだもん。


「じゃあ次はこっち側だね。彼はもう分かっていると思うけど、《剣聖》ツォルク。神剣流を創り上げた人物だよ」

「歓迎するぞ小僧」


 剣聖がニヤニヤと笑っている。

 どうやらかなり気に入られたみたいだ。


 剣聖の後ろにいるのは、あの武闘家のお姉さんだ。

 こちらをチラチラと見てくるが、全く目は合わせてくれない。


「で、さっきミナトとキスしたのが《拳闘獅子けんとうじし》のリー・ウェイバー」

「ガルム貴様ぁ! アタシに何の恨みがあるのだ!」


 ガルムに飛び掛かろうとしたリーを周りの人達が必死に止めた。

 反射的に飛び掛ろうとしてるあたり猛獣じゃん。

 おー怖っ。


「本当のことじゃん。ミナト、感想をどうぞ」

「ありがとうございました!」

「なっ…………! …………ア…………アタシはアタシより強い男にしか惚れん……」

「リーが恋をするとは思わなかったわね」

「戦うことしか知らなかった分、耐性が無いんだろう」

「やかましいぞ貴様ら! 全員殴り倒してやろうかぁ!」


 再び飛び掛かろうとする彼女を周りの人が止める。


 何これコント?

 というか彼女を止めることができるあの人達も凄いよな。


「《拳闘獅子》って何ですか? 人間世界の称号か何かですか?」


 アイラが俺の聞きたいことを代わりに聞いてくれた。


「称号じゃなくて呼び名だね。拳1つで、まるで魔物の獅子王丸ししおうまるのように暴れ回ることから付けられた呼び名さ」


 獅子王丸は分からないけど、何となくピッタリ合っている名前だと思います。

 手が付けられないといった感じで。


「ふん! アタシは鍛錬を行う!」


 そう言ってリーは部屋から出て行ってしまった。


「放っといていいのか?」

「お腹が空いたら戻ってくるでしょ」

「ペットか何かか……?」


 彼女が出て行った後もガルムの紹介は続いた。


「彼女は《魔女》のランネル・ミーア」

「よろしくね」


 先ほどアイラと仲良くなれると言った、ワインレッドのローブを着た女性がお辞儀をした。


「彼女は最近、人類には作成不能と言われた魔力回復薬マジックポーションの精製に成功したんだ」

「魔族の作り方を真似ただけよ」


 感想しているように見えるが、彼女の顔は誇らしげだ。

 魔力回復薬マジックポーションを作ることは、それほどに難しいのだろう。


「こっちの小っこくて元気のある子が、《創造クリエイター》の……」

「アヤメだよ!」


 満面の笑みを浮かべ、右手を挙げながら返事をした。


「《創造》って?」

「この子は幼いながらもマスター級の魔法使いなんだ。柔軟な発想で独自のオリジナル魔法をどんどん編み出すから、《創造》と呼ばれてる。ちなみにミーアの弟子になるよ」

「うむ! 私こそがミーア様の弟子である!」

「何で弟子の方が偉そうなんだ……?」


 3代目勇者一行のフェリスと仲良くなれそうだな。

 彼女も確かかなりの魔法オタクだったからな。


「そこのヒョロヒョロとした人は《骨喰ほねぐい》のアリゲイト・クルーズ」

「《骨喰い》……」

「その2つ名、嫌いだからよしてくれないかなぁ」


 確かに身長はあるのに横幅が無いせいで、やたらとヒョロヒョロに見える。

 頰もこけていて、風が吹けば飛んで行ってしまいそうだ。

 とてもじゃないが強そうには見えない。

 ワンパンだ。


「こう見えて彼は悪名高くてね、出身であるソウグラス大陸では1000千万Dドラの賞金が彼の首にかけられてる」

「1000万……」

「お、おいガルム……。そんなこと言って、僕が彼に狙われるようになったらどうするつもりだい?」


 おどおどし始めた。

 震える子鹿じゃん。


「何をした人なの?」

「通り魔。彼が通った後には骨も残らないって言われることから、《骨喰い》って呼ばれるようになったのさ」

「さ、流石に骨は残るよ。人を化け物みたいに言わないでおくれ……」


 通り魔は合ってんのかよ。

 できればそこを否定して欲しかった。

 じゃないと安心出来ないじゃん!


「だ、大丈夫だから。流石に仲間を傷つけるようなことはしないし、そこらへんの分別はついてるよ」


 ウヘヘと笑う通り魔。

 全然だいじょばないんですけど。

 より一層不安が増したんですけど。


「あそこで髪の毛いじってるのは《暗器猫デバイスキャット》のネコ・ベット」


 ネコなのかキャットなのか。

 意味は一緒だけどさ。


「あーし、そういうの興味ないから飛ばして」


 おいギャルじゃんか!

 俺に都合の良く聞こえるように言葉は解釈されてるけど、この世界にギャルがいるとは思わなかった!


「イケメンならまだしもフツメンじゃん」


 待て。

 そこは触れてはならないサンクチュアリ。

 顔の話はNGって事務所が言ってるんだけどご存知ない?


「ヤシロはカッコいいよ」


 アイラがギャルの元まで歩いていき、まさかの俺を擁護する発言をした。

 言葉に若干の怒気を感じる。


「はぁ? なに、アンタ」

「ヤシロを馬鹿にするようなことは言わないでよ」

「別に言ってないんですけど。アンタ、アイツのコレ?」

「違うけど……身内を馬鹿にされたら怒るのが普通でしょ?」


 アイラは一歩も引き下がるつもりはないようだ。

 ここまで擁護してくれるなんて嬉しいな。


「おい小娘共。やるなら庭でやれ」


 剣聖の一声でさらに空気がピリついた。


「……いいじゃん庭に行こうよ。あーしもムカついてきた」

「いいよ」


 そう言って2人で庭に出て行ってしまった。


「お、おいアイラ」

「大丈夫さミナト。彼女もまさか殺すようなことはしないよ。多少の怪我なら治せるしね」


 そうは言ってもさぁ……。


「ヤシロの連れがどの程度できるのか見ておくか」

「私も見に行くぜー!」


 ゾロゾロと野次馬達が外に出て行ってしまった。

 部屋に残ったのは俺とガルムと紹介されてない2人だけだ。

 どうやら2人は空気を読んで待ってくれているみたいだ。


「俺らも紹介するんだろ?」

「そうだね。彼は《空ノ神からのしん》グリードリー・レインフォース。呼び名は逸話の『4神戦争』に出てくる神様と同じ技を使うことが由来だよ」


『4神戦争』っていうのは前にもチラッと聞いたことがある。

 そもそも俺の避雷神も、その中に出てくる神様から引っ張ってきた名前だ。


「じゃあ魔法の1つってこと?」

「魔法と剣術を織り交ぜたものになるな。お前の避雷神に負けず劣らずの良い技だぜ」


 ちょっと気になるな。

 避雷神も中々の反則技だと自分でも思うけど、それに引けを取らないってことは、空ノ神っていうのも反則級なんだろう。


「ま、魔力の消費が大きすぎて一撃しか放てない大技なんだけどな」

「避雷神も魔力の消費大きいし分かるわ〜」


 一撃必殺っていうのもカッコいいけどね。


「で、最後の1人は《刀匠》ガリレオ・ゾル・アルファード。ミナトは良くお世話になってると思うよ」

「これじゃん? 『雷鳥』の製作者だろ?」

「………………」


 無言!?


 何かしたか俺?


「ごめん、彼は職人気質だから寡黙なんだ」

「………………貸せ」

「え?」

「あー……『雷鳥』のメンテナンスしてやるから貸してみろって」

「よく分かるなガルム……」


 《刀匠》ガリレオは俺でも何回か聞いたことがあるほど有名だ。

『雷鳥』のメンテナンスしてくれるのはありがたいけど……。


 ここにいるということは、彼もまた人類に仇なす『裏』の一員ということになる。

 人類にとってこれは大きな損失になるんじゃないの?

 俺はよく分からないけどさ。


「これで全員だ。ここいる戦闘員はみんな、剣聖に負けない強さを誇っていて、人類のその世界では知らない人がいないほどの有名人達だ。ミナトもいずれは僕の右腕としてよろしく頼むよ!」

「右腕ねぇ…………下僕の間違いじゃ?」

「間違えてなんかないさ」


 ガルムはこう言っているが、やはりコイツは信用できない部分がある。

 上手く立ち回らなきゃならないだろう。

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