第141話 品定め
「また新しい仲間でも連れてきたのか? それとも、魔法で従わせているか……」
老人は俺達を一瞥すると、ガルムに嫌味を言うかのようにほくそ笑みながら言った。
「やだな、そんな事をするわけないじゃないか。この2人……というかこっちは僕の弟子みたいなものでね。偶然にも上で会ったから連れてきたんだ。いずれは協力してもらうつもりだよ」
「弟子だと……? わはははははは!! お前のような狂人にも弟子なんてものがいたとは思わんかった! おい少年、こいつはロクでもない奴だったろう?」
老人がニヤニヤしながらこちらに話を振ってきた。
「もちろん」
即答だった。
一切の迷いなく答えてやった。
だって実際ロクでもないんだもん。
「だってよ元勇者」
「酷くない? 僕だって色々考えながら指導してたっていうのに」
心外だというように、フンと顔を背けた。
男のお前が拗ねた態度を取っても鼻につくだけだからやめろ。
「ふむ…………。ガルム、この2人はダメだな。悪いが、私の見た感じじゃ戦力になるとは思えん。腰に差してる刀は名刀のようだがな、持ち主からは何も感じん」
老人はひとしきり笑った後、俺達を品定めするようにジロジロ見たかと思えば、ピシャリと俺達のことを否定した。
別に自分が最強だとは思っちゃいないが、そこまで否定されると、さすがにムッとする。
「ツォルク、だとしたらアナタの目も歳のせいで耄碌したことになるよ」
「ほう? ガルム、つまりお前はこの2人が、ここにいる連中に匹敵する力を持っていると?」
その瞬間、屋敷の至るところから目に見えない圧を感じた。
一番はこの爺さんだ。
静かに、それでも圧倒的なプレッシャーをこちらへとかけてくる。
鋭く向けてくる眼光に対して、俺はニヤリと余裕ある笑みで返しといた。
その笑みが気持ち悪かったのか、爺さんは目線をこちらへ向けるのをやめた。
失礼だとは思わんかね。
「そっちの女の子は分からないけど、少なくともミナトについては本物だよ」
「…………自分の弟子を随分と買っているじゃないか」
「当たり前さ。僕の分身みたいなものだからね」
ガルムが俺をそこまで評価してくれているとは思わなかった。
正面切ってそう言われると嬉しい。
「すごい怖いんだけど…………」
1人、隣でガタガタ震えているのはアイラだ。
彼女は決して戦える力があるわけじゃない。
何かキッカケさえ掴めれば、余りある魔力を攻撃魔法に切り替えることができるかもしれないけど、現時点では震える子鹿と同レベルだ。
「ガルム、この敵意をどうにかさせてくれよ。うちの相方が怖がってる」
「だそうだよツォルク」
「ふん」
ツォルク…………って、どっかで聞いたことがある名前なんだけど、どこで聞いたかな……。
「それなら私と一戦交えようじゃないか。元勇者の弟子と戦えるなど、年甲斐もなくワクワクしてしまう」
「はぁ……アンタもよっぽど戦闘狂だよ。剣術に生きてきた血が騒ぐってこと?」
げ、何でそんな話の流れになってんのかな。
グリムもそうだったけど、強い奴ほど戦いたがるよね。
「私はただ、『裏』の中でもこの屋敷にいるのならば、それなりの力を示してもらいたいだけだ。私の目的のためにも、足を引っ張るような
「だってさミナト。やれる?」
「マジかよ。気が進まないんだけど」
「ちなみになんだけど、彼は『剣聖』って呼ばれてる人だから、爺さんだと思って油断しないほうがいいよ」
剣聖…………剣聖………………。
あれか!
神剣流を編み出したっていう創始者!
マジかよ勇者と同じくらい伝説になってる人じゃん!
そんな人と斬り合うの?
俺大丈夫?
首飛んでいかない?
「剣聖に勝てば、みんなにも認めてもらえると思うんだ。ここいるのはみんな、それなりに実力のある人達ばかりだから」
「別に俺は認めてもらいたくてここに来たわけじゃないんだけど……。安全にローズフィリップの所に行ければ良いだけなんだけど……」
「そのローズフィリップの所に行くためには、ここにいる人達の協力が必要なんだ。アイラちゃんが魔族で、なおかつ戦うのが得意じゃない以上、ミナトが頑張るしかないんだよ」
そう言われれば確かにそうなんだけども……。
何かが釈然としないな。
そもそも、この『裏』というのは何をするところなのか。
それすら俺は知らないんだ。
流されるままに不必要なことをしていれば、それは巡り巡って自分に返ってくる気がする。
でも…………。
「ここまで来て、断るわけがあるまいな?」
断れる雰囲気じゃないんだよなぁ。
剣聖だけじゃなくて、この部屋を覗いている人達もさぞかし強いんだろう。
ここで「帰る!」なんて言おうものなら、全員で八つ裂きにされる雰囲気さえある。
殺伐とした感じ…………やだなぁ。
「どうする?」
「…………受けますよ。やりましょう」
どうせそれ以外選択肢ないんだから、という愚痴は誰にも聞こえないようにボソッと呟いた。
「よし、それでは表に行こう」
俺達は剣聖の後にくっついて外に出ることになった。
その時、最初に会った台風のような女の子がやってきた。
「あ、あれ!? すっごい美味しいお茶を持ってきたのに、みんなしてどこに行くの!?」
「アヤメ、今からツォルクとガルムの弟子が戦うらしいわよ。アンタも見に来なさいな」
「え〜ホントにー!? あ、でもこのお菓子持ってきたのに…………置いといたら美味しくなくなっちゃうよー!」
「だったら持ってきて食べなさいな」
「そ、その手があったかー! そうするぜー! パクパク食べちゃうもんねー!」
いや元気すぎるわ。
この殺伐とした空気の中、1人だけテンション振り切れてんじゃん。
ずっと一緒にいたら疲れるタイプだよこの子。
「彼女のことが気になるかい?」
「いや、気になるっていうかさ…………」
「ヤシロ、ああいう子がタイプなんだ。へーそうなんだ」
「まだ俺何も言ってないんだけど。何怒ってんの」
「お、怒ってないし! 変なこと言わないでよ!」
「痴話喧嘩する余裕があるとは、大したもんだな」
剣聖に釘を刺された。
別に痴話喧嘩じゃないんですけど。
外に出ると、バカでかい庭があった。
どうやらここでやりあうらしい。
「魔法、武器、その他何でもありだ。お前は…………そうだな、私の攻撃を防げればそれだけで合格としよう」
「採点基準、結構甘めなんですね」
「ある程度実力あるものならば見ただけで分かるが、お前からは何も感じない。正直言って、私はお前のことを懐疑的に思っているんだよ」
「別に反論するつもりはないですけど……」
ここまで来たら、語るは剣で。
余計な押し問答は不要だ。
「立会いは僕が務めるよ。と言っても、ギャラリーはこれだけいるから特にいらないんだけど」
言い逃れはできないってことね。
「勇者の弟子として、恥ずかしくない動きを期待する」
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