第140話 アンダーグラウンド

 外側から見れば普通の建物。

 歩いていて別段目に付くようなものではない。

 ガルムは扉を開けて中へと入っていった。

 当然、俺達もその後に続いた。


 ちなみに首輪は外した。

 アイラは渋っていたが、いつまでもジャラジャラしたものを首につけていては、いざという時に動き辛い。

 そう説得して、適当にそこら辺に捨てさせた。


 中に入ってみるも、外と同じように変わった所は何もない。

 一般家庭にあるような家具が置いてあるだけだ。


 だがガルムはタンスの前で立ち止まり、タンスの引き出しを出し入れし始めた。

 気でも触れたのかと思ったが、どうやら引き出す順番に意味があったようで、タンスが真ん中から縦に割れ、まるで観音開きのように音を立てて開き、まるでいざなうかのように下へと続く階段が現れた。


 ガルムは俺達を手招きすると、下へゆっくりと降りていった。


 ガルムに付いて階段を下る途中、背後のタンスが再び音を立てて閉じた。

 どうやら時間が経てば自動で閉じる仕掛けのようだ。

 もしくは誰かが待機していて、人力で開け閉めしているという線も大穴である。


 壁にロウソクが立てられていることから明かりは問題なかったが、それでも陰湿だと思わざるを得なかった。

 ジメジメとした空気が身にまとわりつく。

 とてもじゃないけど、この先で楽しい楽しいパーティみたいなものが開かれているとは想像できない。

 黒魔術の儀式をやっていると言われた方がしっくりくるレベルだ。


 一体ガルムは俺達に何を見せたいのか。


「さぁ、着いたよ」


 階段を下った先には扉が一枚。

 ガルムが取っ手を引っ張ると、重々しく扉は開き、中からさらに眩しい明かりが漏れ出す。


 中の光景を見て俺は驚愕した。


 眼下に広がったのは1つの街、と言っても過言ではない数多くの建物。

 そして圧倒的なスペースだ。

 俺達が立っているところはまだまだ階上かいじょうであり、さらに下に降りなければならない。


 この国は湖の上にあったのに、これだけの地下があるというのは一体どういうことだろうか。


 この地下はとても明るいのだが、理由はすぐに分かった。

『星降鬼の洞窟』にあった不透石ふとうせきと呼ばれる、暗いところほど光を発光する鉱石が、街の中央にドン! と巨大なものが1つ置いてあるのだ。

 ダンジョン内には無数の不透石が存在していたため、お互いが発光し合って程々の明るさとなっていた。

 ここでは巨大な不透石1つが、これでもかというほどに光っていた。


 そのおかげで、上から見えている限りでも人々がいるのが分かる。

 魔族ではなく、人間だ。

 この光景にアイラも開いた口が塞がらないといった感じだった。


「下に降りよう」


 俺達は唖然としながらも、ガルムに続いてさらに下へと階段を降りていった。


「………………何だこれ」

「ここはアンダーグラウンド。人間の『裏』が集まるところさ」


『裏』というのが何を指しているのかは分からなかった。

 人間の内面的な部分なのか、それとも固有名詞を指す隠語なのか。


 だが、かなりの人数がいるのは分かる。

 そして、その誰もが俺の見てきた人達とは人種が違うことも分かった。


 何ていうか…………れているんだ。


 格好とかの話ではないぜ?


 荒野や砂漠の多いサンクリッド大陸の国々に住む人達も、見た目や格好については、その土地柄に合わせたかのような荒れている格好が多かった。

 だが、ここにいる人達は目つきや足取りと言ったものに余裕が無い感じがする。

 かといって、奴隷のように人生を諦めたような顔はしていない。

 むしろ、何かの目的のために一生懸命にさえ見える。


 階段を下り終え、ガルムはしばらく歩くと、大きな屋敷のような所へと入っていった。


「ここが目的地」


 どうやらやっと着いたらしい。

 見るべきポイントが多すぎて困っていたところだったけど……やっと話が聞けるわけだ。


「戻ったよ」


 ガルムが一言話すと、奥から一人の女の子が現れた。

 冒険者の格好をしており、茶色の髪がクルンクルンとして、パーマがかかっているかのようだ。


「おっかえりー! 今日は帰ってくるのが早いね…………ってアレ? お客さん? もしかしてお客さん!?」

「僕の知り合いだ」

「うおー! お茶の準備だね! まっかせてー美味しいお茶菓子も持ってくるぜ〜い!」


 そう言って彼女は走って戻っていってしまった。

 台風みたいな子だな。


「さ、上がって上がって」

「……お邪魔します」

「なんかすごい所だね」


 奥に案内されると、こちらを品定めするかのように見てくる人達が何人もいた。

 その全員が異質なまでの威圧感を放っており、只者ではないことが、人を見る目がない俺でもすぐに分かった。


 部屋に入ると、一人の老人が椅子に座っていた。

 左目付近に十字傷が入っている老人。

 座っているだけなのに、一部の隙もない。

 ただそこにいるだけで、人の目を惹きつけるようなカリスマ性。

 これが人の上に立つ存在なのかと錯覚した。


「さ、座ってくれよ」


 ガルムに促されて老人の前の席に着いた。

 一体何が始まるのだろうか。

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