第139話 愚痴と弁明

 ガルムと共に近くの店に入り、座って落ち着いて話を聞くことになった。

 なお、依然としてアイラに鎖で繋がれたままである。


「どうしてるかと思えば、奴隷に堕ちてるとは思わなかったなぁ」

「だから勘違いだっつーの。これは他の魔族を欺くための誤魔化しだから。元を辿れば、今こうなってるのもお前のせいだからな」

「いくらなんでも元を辿りすぎでしょ」

「ヤシロ、この人は?」

「コイツは…………えーと……」


 何て説明しよう。

 まさか異世界この世界に俺を呼んだ張本人、なんて話すわけにもいかないし、一番適切な紹介の仕方は……。


「僕はミナトの師匠みたいなものだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「おいガルム」


 俺がこっそりと耳打ちをする。


「彼女が魔者だってのは分かってるだろ?」

「うん、分かってる」

「じゃあお前が勇者だっていうことは黙っておいたほうがいいよな?」

「そうだね……って、僕が勇者だってこと、バレた?」

「当たり前だアホ。そういう大事なことは最初に言っておけ」

「最初から僕に頼られるのも嫌だったからね。ゴメンよ」


 元の席に戻る。


「一応師匠ってことで」

「その割には同年代っぽいよね」

「いやいや、僕はこう見えても結構歳を取ってるよ」


 そうだ。

 コイツは一見して20歳前後に見えるが、実際にコイツが史実通りであるなら、40近くのはずだ。

 なぜ歳を取っていないのかも気になる。


「おいくつなんですか?」

「この前誕生日を迎えたから……ちょうど40歳かな」


 ドンピシャだった。


「ええっ!? でも人間って歳を取るの早いですよね? 魔族は長生きだから分かるけど……」

「まぁ色々あるからね。それよりも、ミナトは僕と離れた後はどう?」


 話をはぐらかしたな。

 触れられたくない話題なのか?


「山ほど愚痴あるぞ」

「え、何で」

「まずシャンドラ王国。お前が名前を出せば優遇してくれるっていうから王様の前で話したのに、お前は行方不明になってるとか何とかで疑われて捕まりかけた挙句、国から追い出されたぞ」


 今思い出しても納得いかない。

 この世界に呼ばれてイージーモードに過ごそうと思ったら、初手からヘルモードだよ。

 まだあの頃の俺でも対処できたから良かったけど、グリムクラスの討伐者とかに追われてたら速攻詰んでたぞ。


「そっか……僕の認識が少し甘かったな」

「それにどこ行っても魔族と戦争ばっかりしてるしよ、平穏無事な所なんて全然無かったからな。何回死にかけたと思ってんだよ」

「でもこうして生きてる。一目見てすぐ分かったよ、最初に会った頃と随分と変わって見えた」

「マジ?」

「ただ、性格もちょっと荒んでるように感じるけど」

「当たり前だろ。めちゃくちゃ苦労してんだよ」


 どれだけ俺が不必要なコミュニケーションを取って生きてきたと思ってるんだ。

 自分でも性格が最初の頃と比べて変わったの分かるわ。


 もっとこう…………未知の世界にワクワクしてた自分が当時はいたと思う。

 見るもの感じるもの全てに目移りするような、キラキラとした子供時代のような。


 それが今ではどうやって相手を殺すか、どうやって生き残るかを考えて生きてるんだ。


 相手を殺さずに、なんて甘えたことを考えてた頃が懐かしいよ。


「確かにヤシロはたまに怖くなる時あると思う」

「え、そんな時ある?」

「うん。戦ってる時とか」

「戦ってる時はそりゃピリピリするでしょ」

「いやぁ、僕と一緒にダンジョン潜ってた時は、楽しそうにジュッソクグモとか斬ってたよ」


 そりゃまた最初期の話を持ってくるなぁ。

 あの頃はまだワクワクしてたんだってば。

 こんなに苦労するとは思わんかったんだって。


「今では魔物ごとき相手で一々一喜一憂してないぞ」

「お〜成長したね」

「師匠面すんな」

「師匠だもん。それで、魔人の収集ははかどってる? そもそも僕が自分の魔力を犠牲にしてまでヤシロを呼んだ理由は、魔人を使役して欲しいからなんだから」

「まぁそれなりに」


 俺はポーチを腰ベルトから外し、机の上に置いた。

 中は三分割され、それぞれ赤色、黄色、青色のビー玉が入っている。

 圧倒的に多いのはやはり下級魔人である青色だ。


「うわ〜結構あるね。これってヤシロが使ってた魔人でしょ?」

「イエス」

「…………まだまだ足りないね」

「マジで? どれぐらいいるの?」

「最低でも100は欲しいかな」

「キッツ。でも上級魔人は2体持ってるんだぜ?」

「上級魔人は5体欲しいかな」

「欲張りさんかよ」


 そもそも上級魔人と出くわすことが少ない。

 今まで会ったのも全てダンジョンの中だけだ。


「そもそも魔人を集めてどうすんだよ。戦争でも仕掛けるつもりか?」

「まぁ………………近いかな。そのために僕は今、戦力を集めていてね。もちろんミナトも頭数に入れてるよ。今のミナトなら僕よりも強いだろうしね」

「ま、まぁ? 俺って天才だし?」

「ちなみに魔法はどうなった?」

「………………雷魔法だけだけど」

「天才って一体なんだろうね」


 いいんだよ!

 雷魔法はある意味極めてるから!

 器用貧乏より専門家が一番!


「だいたい俺は、魔王グロスクロウも倒した(手伝いをした)んだぜ? 充分すぎるでしょ」


 ピクりとガルムが反応した。

 今までにあまり見ない反応だ。


「グロスクロウを…………ミナトが倒した?」

「えっ!? そうなの!?」


 アイラも驚いてら。

 そういえば言ってなかったっけ。


「でもあれは3代目勇者が倒したと発表があった気がしたけど?」

「その場に一緒にいたんだよ。言い方が悪かったけど、実際に倒したのは発表の通り、3代目勇者だ」


 グリムが来るまで足止めをしてたのは俺達だし、トドメを刺す手助けをしたのは事実だからな、嘘は言ってないぜ。


「グロスクロウはサンクリッド大陸で…………そのしばらく後にシルバースターが転移魔導砲を放った…………。つまりミナトは勇者達と行動をしていて、転移魔導砲の影響でアクエリア大陸に飛ばされた。そして彼女と出会って今ここにいるというわけか」


 ……おっそろしいな。

 グロスクロウを倒したって話を聞いただけで、俺が何でここにいるのかまでを推測しやがった。

 ただ、グリム達と行動を一緒にしていたわけではないけどな。


「概ねその通り」

「何でヤシロがあそこにいたのか不思議だったけど……そういう経緯だったんだね」

「魔王グロスクロウが死んだというのはニワカに信じられなかったけど…………ミナトが一枚噛んでたっていうなら納得できる。どうだろう、僕の拠点にしているところに今から来ない?」


 拠点にしているというのは、この国の中でか?

 一度寄るのもアリだけど、それよりもローズフィリップの領土でも怪しまれない対策を考えないといけないし。


 というか、一点気になることがある。

 なぜ人間であるガルムはこの国で普通に出歩くことができているんだ。

 人間が奴隷として扱われているのに、平然と歩けるのには理由があるのか?


「なぁガルム」

「なに?」

「何でお前はこの国で当たり前のように生活できてるんだ? 人間だってバレたらとっちめられるんじゃないの?」

「あ、確かにそうだよね。ガルムさんはヤシロのように鎖で繋がれてるわけでもないし」

「鎖でつないだのはアイラじゃん……」


 ガルムはニヤリとした笑みを浮かべた。

 爽やかな感じとかはない、ドロリとしたような嫌な笑みだ。


「この国では奴隷以外にも、特定の人間は普通に過ごすことができる。いや、この国というか、魔王ジェイドロードの領土内であれば。この胸にあるバッジさえ付けていればね」


 よく見ると、確かにガルムの左胸の位置に、四角形で縦にギザギザに三本線が入った黒色のバッジがついていた。


「何のバッジだよ」

「拠点に来てくれたら教えるよ。それに、魔王ローズフィリップの領土への入り方もね」

「!」


 こいつ…………一言もその話をしてないのになんで分かったんだ?

 どうやら、どうしても俺を拠点に呼びたいらしい。


「…………オーケー」


 俺とアイラはガルムに付いていくことになった。

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